一章
物部拓也。俺の親父、物部和也の弟であり、小学校まで隣近所に住んでいた。その拓也さんの娘でもある物部美夜。隣だったこともあり、よく遊んでいたりしていたのだが引っ越してからは連絡もせず、どうしているのかもわからない状態なのだが......。
「それで、どうしておじさんがここに?」
家族が集まるということは何かあるということなんだが、お袋の含みのある笑いが無性に怖い。
「まぁ、なんというかね。兄さん、いや、君のお父さんが仕事のことで相談をされてね。どうも君を預かることになったんだよ」
「は?俺がおじさんのところに?どういうことなんだってばよ親父」
いきなりこんなことを言われても訳がわかるはずもなく、操也はただただ困惑していた。
おじさんの顔を見てもそうだろう。困ったような複雑な顔をしていたからだ。
親父達をみてみると悪戯がばれました~、みたいな顔をしている。
親なのだが殴りたい。
「落ち着いて聞け、操也」
「これが落ち着いていられるか!おじさんも困ってるじゃねぇか」
「ついさっき教えたからな!」
威張って言えることじゃねぇだろ!という言葉を喉まで出かかっていたがなんとか飲み込む。
これ以上突っ込んでいったら話が進まなさそうであったからだ。
ストレスで切れそうになるのを我慢しつつ、どうしてそうなったのか教えてもらわないと納得ができない。
「それで、本当のところはなんなんだ?親父」
「うむ。さっき拓也が言っていたことだが仕事に関しての話だ。心して聞けよ」
ふざける気配がなくなり、珍しい親父状態。
仕事に関するとは言ってもおじさんのところに預けられるとは何事なんだろうか。
「ずいぶんと前に言われていたことでな、母さんと話し合った結果......」
眼を閉じていた親父がくわっと眼を開ける。
「海外へと赴任することとなった。数年は帰ってこれないからこの家を売ることにしたんだ、なので母さんと向こうへ渡るのでお前は拓也のところでお世話になれ」
「は?海外へ赴任?いきなり?家を売る?は?」
何をいっているのだろうかこの親父は......。
明日から休みだって言うのにのんびりするどころか忙しくなるんじゃないのか、これ。
それよりも、だ。
「いや、いいや。海外へ行くとして、だ。俺はおじさんのところへ行く、それはわかった。家を売ることもわかった。でもだ」
高校生である操也は一番重要なことがある。それは学校へ行くこと。
「俺がおじさんのところに行くとなれば距離的な意味でこっちにこれないぞ?どうするんだ」
「その事なら心配ない、すでに手配してある。美夜ちゃんと一緒の学校に書類を送ったから。何かあれば俺の知り合いに聞くといい」
俺の知らないところで何をしているんだよこの親父は......。
「明日からゴールデンウィークだし、ちょうどよかったな!なはははは!」
こっちは笑えねぇよ。何を楽しそうに笑っているんだ。
......まさか、タイミングが良すぎるが狙ってやったんじゃ。
「明日からゴールデンウィークだからこのタイミングで言い出したとかないよな」
「はっ!そのまさかだよ息子よ!」
畜生!そのまさかだったよ。
だけど、また昔の場所に戻ってこれるのはうれしいかな。
操也は昔馴染みに会えるかも知れない思いと、新しい学校に馴染めるのかという思いがせめぎあっていた。
だが、このときの操也はまだ知らない。これから始まる学校生活が思っているのと真逆の展開だったからだ。