③
伸夫は以前住んでいたアパートの隣の部屋に住んでいた息子だ。
お互い母子家庭の境遇で母親同士仲が良く5歳の年が離れていたが兄と弟のような関係が数年続いていた。
しかし、その関係も伸夫が8歳の時母親と共に父親の家へ引き取られ
こちらはこちらで、それから程なくし母親が身体を壊したことで、この母の実家へと転居する事となり連絡が途絶えていた。
それで縁が切れたと思っていた。
その伸夫が目の前にいる?
自分の知っている伸夫は8歳の子供の姿だ。
子供の頃の5歳の差は絶対的なもので、その頃は自分達の遊びに伸夫がついてこれるか振り返り振り返り
いつも見上げる伸夫の真っ直ぐな瞳が自分を見ていた。
その時から20年振りの再会。
「本当に伸夫か?」
そう言ってはいるが風貌に変わらない面影が残っている。
見上げるほどに成長しているが今、目の前にいるのは伸夫本人だという確信があった。
「俺、そんなに変わった?子供の時と全然変わんないってよく言われるんだけどな~。
それなら、これはおぼえてる?」
そう言って伸夫は前髪をかきあげて左のこめかみの傷を見せた。
「まだ残ってたのか…」
「そう、意地とプライドの勲章だよね」
子供の頃、片親しかいない自分達は度々、その事についてからかわれることがあった。
言われたらやり返す。
その傷はその時に出来た傷だった。