②
祖母が長の患いから解放されて空へ煙りとなって上がっていくのを見上げたのが随分と前のことに思える。
ささやかな葬儀ではあったけれど手続きは山のようにあり
その間は感じることも無かったが
全ての片付けが終わり自分以外は誰も居なくなった家に独り、暮らしていることに寂しさをおぼえた。
年老い床へ臥すことの多くなった祖母は何かにつけ自分を枕元へ呼び心配事を口にした。
それは毎日、毎回、同じ事の繰り返しで次に何を言うかも一言一句そらんじてしまえるほどだったが
その全てが全て、枕元へ読んだ孫の身を案じての内容だったので自分はただ「心配しなくても大丈夫だから」としか言うことが出来なかった。
四十九日が過ぎ暫くした日の夕方
玄関の戸を叩く音に読んでいた本を閉じ脇に置く。
古いが部屋数があり、中庭もちょっとしたものを持つこの家は一人で住むには広すぎる。
ようやく玄関の引き戸を開けた時には随分と客を待たせてしまっていた。
「すみません、お待たせしました」
一言詫びながら滅多に無い来客を確認する。
頭一つ上から眩しいくらいの笑み。
「龍兄ちゃん久し振り、おぼえてる?伸夫だよ。会いたかった」