水の城
ここは無音の世界だと思うだろうか。
本当はね、音が溢れているんだよ。
モーターが僕らの家を震わせる。気泡を溢れさせるため。僕らが呼吸をするためさ。小さな小さな破裂音が、この狭い家の中に響いているんだ。
身体を沈ませてお腹に石粒を擦らせると、ちゃりっと音を立てるよ。
たまにお空に顔を出すと、ぱちゃんって鳴ったりするんだよ。
あなたの声だって聞こえます。笑い声、楽しそう。
あなたは何を見ているのかな。視線の先にはテレビが光ってる。
僕はそれを見ながら、仲間二人と尾鰭ふりふり行ったりきたり。
ちょっと疲れて流れに乗ってふわふわしてる時も、あなたのことを見てるんだ。
隣でぴよぴよ鳴く子のように、ふわふわでもないし、甘えたりも出来ない。あなたの側に飛んで行くことも出来ない。
だけど、僕はあなたが大好きで、ずっと見ています。
たまに、あなたは僕らを覗いてくれる。写真だって撮ってもらっちゃって、嬉しいな。
僕は毎日のノックを楽しみにしてるんだ。家をコンコン。音を鳴らして僕を呼んで、ご飯がお空から振ってくる。
あなたは僕を腹っぺらしだと言うけど、ご飯に喜んではしゃいでるわけじゃないんだ。
あなたが僕に、おいでおいでってしてくれるから、嬉しくて嬉しくてたまらないんだ。
僕らが騒ぐのは、一日に一度だけ。
あなたが僕らを構ってくれる、その時だけです。
気付いているのかな。あなたに擦り寄ったり、温もりを与えたり、そんな愛情表現は出来ないけど。僕らは本当に、あなたのことが大好きなんです。
いつも家を綺麗にしてくれてありがとう。寒い冬は温かくしてくれて、暑い夏は氷をいれてくれて、安物の僕らを大事にしてくれて、ありがとう。
赤、オレンジ、金色の体を揺らめかせて、少しはあなたを、癒やしてあげられてるのかな。
恩返し。能無しの僕らは、それしか出来ないから。
僕らは大好きなあなたのために、今日もゆらゆら尾鰭を揺らすんだ。
END