二章
※こちらはまだ執筆中です。
その日の夜は、そのまま用意してくれた部屋に入ると由羅は眠ることにした。響秦軍の中に阿修羅の者がいるという話しが本当ならば、その時が自分の最後であった。ようやく、短いようで長い呪縛から開放される。未練もない。あと少しの辛抱。そう思って寝台に入って横になったが、眠るのが怖かった。夢を見てしまう気がしたのだ。だが目蓋は自然と閉じ始めた。
やはり気づけばまた暗闇にの中にいた。由羅はまたかと思い大きく息を吐いた。そして目の前に霧のようにゆっくりと現れた幼い頃の自分。
『もう、貴方ともお別れになりそうね。』
由羅は幼い自分に言った。
『本当は、死にたくないのではないの?』
『最初はそうだったけれど、今はそうは思わない。もう、終わらせてしまいたいくらいよ。』
『何故・・・受け入れないの・・・?』
幼い自分の言葉に由羅は眉を細めた。
『今の貴方では、阿修羅には勝てない。』
『どうゆう意味・・・?』
『人は・・・純粋に守るべきもの、強い信念があるからこそ強い。守るべきものがない、それを受け入れない貴方は・・・とても弱い。』
『私にも守りたいと思う人達はいる。』
『もっと、人らしく・・・貴方らしくならなければ、貴方は阿修羅に勝てない。』
どうゆう意味かわからなかった。由羅は動揺しながら幼い自分を見つめた。
『貴方が誰なのか、私が貴方の何なのか・・・それがわからない貴方には、阿修羅は永遠倒せない。』
『・・・・お前は・・・私の・・・何なの・・・・』
『・・・私は・・・・貴方が幼い頃から閉じ込めてきた心。』
それを聞いた瞬間由羅は驚いたように目を見開いた。目の前に映るのは用意してくれた部屋の天井であった。寝台からゆっくり起き上がると、寝台横に立てかけた剣を持って静かに部屋を出た。廊下を歩き、中庭に出ると夜空を見上げた。自分に何が足りないのか、何が欠けているのかを探していた。するとそこに饕餮が近寄って来た。
丈清は庭に気配を感じたので廊下に出ようとした時、由羅が饕餮を何かを話しているのを見た。それを見て出ていいのかわからず隠れるように立ち止まった。
「饕餮・・・。お前は本当の私を知っている・・・?」
由羅が聞くと饕餮は甘えるように由羅の懐に顔を寄せた。
「・・・今の私で、もし阿修羅に勝てなかったら・・・私に価値なんてない。阿修羅と戦うのが・・・怖い・・・・」
由羅は静かにそう言うと饕餮を抱きしめた。すると背後に気配を感じた。ゆっくりと顔を背後に向けると、そこには丈清が立っていた。
「・・・すまない。気配を感じたので何かあったのかと・・・」
丈清が言うと由羅は大きく息を吐いて抱きしめた手を放して立ち上がった。
「聞こえてしまいましたか・・・?」
「・・・はい。」
丈清は少し俯いて頷いた。すると由羅は小さく数回頷いた。
「・・・ここ最近、眠ると夢を見ます。」
「・・・泣いていた時も、夢を・・・?」
「はい。幼い頃の私が、問いかけてくるのです。そして、今の私では阿修羅の力を持つ者には勝てないと・・・」
「えっ・・・?」
「夢の中の私は・・・私の心だそうです。」
「・・・由羅殿の過去に・・・一体何が・・・」
丈清が聞くと由羅は少しだけ笑みを浮かべながら首を左右に振った。
「ごめんなさい。今はまだ・・・話すことはできません。」
由羅が言うと、丈清は小さく数回頷いた。
「では・・・いつか、いつか私が話したい相手に思っていただけるまで私は待ちます。」
「将軍・・・・」
丈清は優しく微笑みながらゆっくりと頷いた。その夜はゆっくりと過ぎていった。由羅は饕餮に寄りかかるように廊下でそのまま休んでいた。しばらくして由羅が眠ったことを確認すると、丈清は毛布を持ってきてそれを由羅にかけた。そして饕餮の横に座った。
「お前はそうやって、ずっと由羅殿を守って来たのだな・・・」
丈清はそう言うと饕餮の頭をなでた。すると饕餮は丈清の匂いを嗅ぎはじめた。嗅いだ後、饕餮は嫌がる様子もなく伏せていた。夜はそのまま更け、丈清も壁にもたれながら気づけば眠りについてしまった。朝日の眩しさで目が覚めると庭で舞う由羅の姿が見えた。丈清は目をこすりながらもう一度庭で舞う由羅を見つめた。朝日に照らされながら舞う姿はとても美しいものであった。風を斬るように舞った後、今度は風に優しく触れながら流れるように舞っていた。すると由羅はゆっくりと舞をやめて丈清を見た。
「おはようございます。将軍。」
「おはようございます。由羅殿。」
丈清が笑みを浮かべて言うと由羅も笑みを浮かべて丈清の隣に座った。
「貴方の舞は、いつ見ても美しい。」
「ありがとうございます。力では勝てないので、私は相手の力を利用して戦う術を身につけました。最初は失敗ばかりで、何度も命を落としかけました。」
「それほど過酷な修行だったのですか?」
「ええ。数人の子供だけの部隊を編成して森に放たれます。敵の部隊全てを殺して生き残った部隊が次の修行に移動する。修行というより、生きるか死ぬかの戦いを毎日・・・だから強くなった。さっきまで仲間だった者と一対一で死ぬまで戦わされる。それが永遠続く・・・」
その話を聞いた丈清は衝撃を受けた。そのような修行をする勢力があったとは知りもしなかった。
「でももう・・・それも終わる。」