Farewell
死ネタ注意。
むかしむかしのおはなしです
あるところに、人語を話し、人間に変化することのできる不思議な猫がいました
心優しい猫は、たびたび人間に化け、人里に下り、
人間のために心を尽くしていました
どこからか現れ、そして煙のように消える不思議な人間を、
村人たちは天の使いのような存在だと信じていました
しかしその不思議な人間のことを
よく思わない人間もおりました
人間は、猫が人間に化け、人里に下りてくるのを影から見、
去る道を追いかけました
そしてとうとう、その人間は猫が化けたものだと知ってしまったのです
人間はその猫を見るなり、化け猫だと罵り、
起き上がることすらできないほどまで痛めつけると
村へ戻りました
そしてこのことを、村中に触れ回りました
“ あの正体不明の人間は実は人間ではなく猫だ ”
村人たちはそれを信じませんでした
しかしその数日後、
その人間はやってきました
体の至るところに傷を負いながらも
村人の一人が、あんたは人間だよなぁと聞きます
するとその人間は踵を返し走り出しました
村人はその後を追いました
人間の正体は猫だと言った人間も混じっていました
満身創痍の人間は村人に捉えられ打ち据えられました
そして猫に戻ってしまいました
村人は散々にこの猫を罵りました
“ 化け猫 ”
と。
*
*
*
*
*
*
それから数十年後
猫は、とある人間に拾われました
人間は化け猫と呼ばれたその猫を慈しみ可愛がり愛しました
病気に侵された身でありながらも
一心に猫へ愛を注ぎ
――そして、猫はだんだんと、この人間に心を開いていきました
「私はもう逝くけれど」
私のすぐ下で、力なく笑う人間。
「後を追う、とかしちゃ駄目だからね」
首だけで私を見て、声を搾り出す人間。
「あと泣くのも駄目よ?」
困った子だなぁ、なんて言う人間。
「今度はついて来いなんて言わないから」
きっと無理しているような声の人間。
「言ってくれないのか」
布団の端を握り締めて爪を立てて、縋りつくように言うと、人間は弱く首を振った。
「言わない」
「言ってくれ」
「駄目だよ」
「言え」
「言ったげない」
お前にだけはね、と付け足す人間。
何なんだよ。
「言え、って……」
「また、逢いたいね」
人間は私の声を遮るとそう言った。
「お前も寿命が尽きて」
天井のもっと上、空のもっと上を眺めるような目線で、
「私と同じ所に行って、」
その見えない風景を慈しむかのような視線で、
「また」
私を見ない人間は、
「巡り会いたいね」
不確かなことを呟いた。
「死んだあとのせかい、か?」
「ふふ、どうせならもっとロマンチックにいきたいじゃない?」
やっと私を見た。
安堵でなんだか鳴きそうだ。
「輪廻転生、……つまり生まれ変わり、とか」
りんねてんせい。
生まれ変わり。
「生まれ変わって、もう一回お前と逢うんだ」
ふふっと笑う。
だけど、なぁ。
お前は知らないんだろうな。
「そんで恋に落ちて」
そんな話より、
「そうそう、そのときは私も猫になっているといい」
一刻でも一時でも一秒でも長く、
「お前が何であろうと私は構わないんだけど、お前は気にするからなぁ」
あんたの温もりを感じていたい、
「……あの神社の境内に住みたいな」
あんたに触れていたい、
「ひだまりで寝転んだりしたい」
あんたが伝えてくれたことを、
「ずぅっと一緒に、いたいな」
何倍も何倍も愛しさを込めて鳴いて泣いて吠えたい、
「あいしてるよ」
何があってもあんたの傍にいたいんだってこと、あんたはわかってないんだろ。
「……もう、お行き」
けほ、と小さく咳き込んで、人間が言う。
本当は立ち上がりたくなかった。
まだここに居たかった。
だけど、これ以上弱って困り果てた人間を見たくなくて、渋々席を立った。
なるべく足音を立てないように襖へ向かう。
「…………なあ」
襖の前で、取っ手を握って、声が震えないように努める。
あの頃のように息を殺して、歯を食いしばって、前足の爪を立てて。
「後悔はないのか」
「は?」
間の抜けた返事が後ろから聞こえた。
それからわざとらしいため息も。
こんなときまで、この人間は余裕を見せる。
「お前とのことに後悔なんてしてない」
弱々しい低い声が、耳に入り込む。
「周りにどんだけくだらない時間だと言われてもこれだけは言える」
ごそごそと動く気配がした。
「お前と過ごして楽しくなかった日なんかないよ」
「っ………………!」
こうまで言い切る人間に、あやうく近寄って飛びついて噛み付きそうになった。
「幸せだったよ」
「っ……」
すぅ、と小さく息を吸い込んで、
「ひぃちゃん」
ひぃちゃん、ひぃちゃん、ひぃちゃん、何度も何度も私を呼ぶ。
私を見て。
「……っもう、呼ばなくていい」
「そう?」
子供のように笑っていたあんたの面影は今はどこにも見当たらない。
そんなあんたを見ているのは辛くて、辛くて、怖くて。
「じゃあ、……また」
「聖」
開いた襖の奥、名前を呼んだあんたの顔は視界が霞んで見えなかった。
また来ると鳴いて、屋敷から飛び出した。
あんたの次の鳴き声は容易に想像できたから。
それがまるで別れのように思えて。
だからもう、嫌だった。
「愛してる」
ぽつりと鳴いた声さえも、私の耳に筒抜けだってこと、知ってて言ってるんだろ。
「私も愛していたぞ、海山皇」
突如慌ただしくなった屋敷の音を聴きながら、私は静かに目を閉じた。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
とりあえず設定です。
猫:聖
見た目15歳くらい、本体は黒猫。
困っている人間を助けようと人里に下りていったところ、
村人に怪しまれ正体がバレてしまい、ボコられる。
それから人間、ひいては生物不信に。
皇さんに引き取られてからは、恋を知ったり愛を知ったり。
ツンデレ気味。
一人称は私、口調は荒い。
人間:海山皇
30歳くらい。御曹司。
余裕ぶっこいてるヘタレさん。
天真爛漫で動物が好き、動物からも好かれる。
病弱で御曹司のため、ほとんど外出させてもらえない。
そのため体力もない。
だが精神は子供ではしゃぎまわることが多く、よく聖に冷めた目で見られている。
聖を引き取ってからは、猫の飼い方の本が異常に増えた。
そして子育ての仕方の本も。
良いパパって感じ。
一人称は私、語調は緩やか。
その為、余裕ぶってると聖に思われ八つ当たりされたりすることもある。




