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魔王子とメイド、のエトセトラ。

前半に少しの暴力的いじめ表現と、後半にR15場面を含みます。苦手な方はご注意ください。


 学園で人気のある男子生徒が、特定の(冴えない)女子生徒を構えば体育館の裏に呼び出されるのはよくある話だ。


 魔界でだって、そのあたりは代わり映えしないらしい。

 王宮の納戸の裏でルルゥはぼんやりと考える。

 淫魔の群でつまはじきっぽく、一人っきりで遊んでいた頃魔界〔ここ〕ではない人間界に憧れて、アチラの物語だという「らいとのべる」という本を読んだ。

 たとえば。

 魔力のないごく普通の人間の「じょしこーせー」が、魔力のない人間の「せいとかい」の権力者である「せいとかいちょー」に気に入られて、可愛がられる。

 なんていうのが、王道だ。

 その場合、大抵彼女は彼の取り巻きである綺麗な女の子たちに詰め寄られて、こんなふうに戸惑うのだ。


「……えっと。あの、ムリです」


 いくつもの穏やかならざる眼差しを受けて、ルルゥはぶるぶると頭を振った。

( ムリッ、むり、無理ぃぃいい! )

 無理難題だと、ルルゥでさえ解るのに眼前に立つスタイルが良くて器量もすこぶる上等の魔族の少女たちはそれを一切、受け入れない。

 一介のメイド風情が、主人に意見をするなどもってのほかである。

 彼女たちの有能さは、ルルゥだって認めている。というか、ルルゥに比べれば王宮に勤めている誰だって 有能 だ。

 そんなことは、あの 何事にも 器用な主だって見破っている。けれど、その上であえてルルゥを専属に抜擢したのである。選んだ理由はいまだによく解らないけれど、有能とか無能とか彼には まったく 重要ではないのだ。たぶん。

(……説明して、納得してもらえるかなあ?)

 たどたどしくルルゥが口を開くたびに、周囲の少女たちの機嫌が(もともと穏やかではなかったけれど)ナナメになっていく……気がする! や、やっぱりぃぃぃ?!


 ゴゴゴゴゴゴ……


 こ、怖い。平穏ならざる効果音が――。

 地面は揺れ、風が吹いて、バチバチとどこからか稲妻まで迸っている。多様な種族が入り乱れている王宮だからこそ、攻撃の種類も多種多様だ。

 って、感心している場合じゃない。

(に、逃げなきゃ……)

 唐突に思い至り、周囲を見渡すけれど取り囲まれた状態では逃げ出すことも容易ではない。

「お、お願い。本当にムリなんです、許してください!」

 懇願するルルゥを、取り囲んでいた少女の一人が突き飛ばす。かなりの強い力で納戸の壁に激突した。

「――ッ!」

 い、痛い。

 瞬間、息をつめて、目の前に火花が散った。



「馬鹿にして!」


「キラ様に気に入られたからって、いい気になってんじゃないわよっ」


「独り占めしたいなら、そう素直に言えばいいでしょう? 卑怯だわ」


「ああ、もう! メンドクサイからこんな子消しちゃおうよー」



 口々に悪態をついた彼女たちは、怒鳴ったり嘲ったり笑ったりして最後にはとても不穏なことを当たり前みたいに口にした。

 激痛のせいか、地面に倒れたルルゥの五感は朦朧としていた。

 よく、見えないし。聞こえない。湿った土の感触と擦れた草の匂いが少しだけ、した。

(どうしよう、わたし……しんじゃうの?)

 脳裏に浮かんだのは、金に煌めく火炎の髪の彼のこと。

(最期に、一目だけでいい――会いたいよぅ。キラさま)

 意識を手放す間際に願いが届いたのか、思い描いた人物の声が響いた気がした。けれど、それはルルゥの知る彼のものより少し、冷たくて、ゾッとする類いの泣きたくなる声だった。




 目を覚ました時、ルルゥの体はズクン! と派手に軋んだ。主に背中、そして後頭部と額にも痛みを感じる。ズキズキするそれに「あう、いたい……」と呻いて、寝返りをうてば背後から背中をさする手のひらが訊いてきた。

「大丈夫か?」

「ひう!? き、キラさま?」

 どうして? と慌てて振り返り、激痛に悶える。痛みがある、という現実にここが死後の世界でないことは明白だが……キラがそばにいる事実は夢のようだ。

 そうして、自分が横になっている寝台が簡素なメイド部屋のものではなく、豪奢で上等の部類に入る代物であることにようやく気付く。どうりで、フカフカなはずだ。

「夢、かあ……」

「おまえの脳内には 夢オチ〔それ〕 しかないのか? 呆れたな」

「うーん? 夢なのに 全然 甘くないなんて。さっすが、キラさま」

 うっとり、とその凜々しくも苦々しく歪められた顔を眺めれば、「まあ、いい」とじつに凶暴な笑顔で眼前に迫る。

「キラさま、近いです。死んでしまいますっ!」

 真っ赤になって、ルルゥは離れようとする。夢とは言え、憧れの王子様に息がかかるほど迫られれば心臓が止まる。いつも彼にキスされているとは言っても、関係ないんだってばっっ!

 痛い体を動かすのは、難しい。魔力の少ない彼女は治癒力も低く、本来人間よりもずっと回復力があるはずなのに、魔族のくせに人間並みに遅かった。

 抵抗する動きも不自然にしか動かず、すぐに寝台に押しつけられる。

「痛いか?」

 訊かれ、コクコクと頷くと口づけが降りてくる。

「き、ら……さま」

「夢なら夢と思っておけ。死なさず、可愛がってやる」

「………?」

 慣らされたキスにぼぅとなり霞んだ視界には熱を孕んだ紅の眼差しが意地悪く細められ、背中を這う腕が優しく動いた。

 魔力を分け与えながらの治癒行為に(あれ?)と思いながらも、裸になって(されて?)、違う痛みを伴った足の付け根の感触に夢じゃナイ! と混乱する。そう目を見開いたところで、体の動きを止めることは叶わなかった。


(いたい、痛いっ!)


 「痛いか?」と先に訊かれたのと同じことを別の意味で尋ねられ、同じようにコクコクと涙目で頷くしかなくルルゥは裂かれる痛みと快楽にハァハァと喘いだ。


(初めて、なんだもん。すごく、痛いよ……でも)


 寝台の上で耐えながら、(よかったぁ)とも思う。

 キラに彼女たちを紹介しなくて……これも専属メイドの 仕事 なら、他人に譲りたくは(絶対に!)ないもの。


次、魔王子視点になります。

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