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魔王子とメイド、な関係。


 キラさまと初めて言葉を交わしたのは、王宮の片隅だった。



 正式な名前は、ウィン・ド・キラクリフ・ジャハ・ラ・ルーマといって王宮〔ここ〕に棲む魔王のご子息にあたる魔王子様だ。

 一方、ルルゥはその王宮に特別枠で採用されたメイドで……一応、淫魔の一族の出身である。ただ、能力は低く「魅了〔チャーム〕」(相手を誘惑する淫魔の得意技)を成功させたことは一度もない。

 性に奔放な魔族の中でも、淫魔の種族は早熟な者が多く、ルルゥくらいの年齢になると「未経験」というほうが異端視された。


 その方の端正な美貌は、小さな頃から知っていた。


 今、目の前にあってそらすことなく、こちらを見据えている。

 顎をとられ上向かされた顔が、ジュッと音をたてるほど熱を持つのがわかる。

「あ……あ……っ」

 涙の膜をはった視界が歪み、瞬きをすると滴が弾ける。

 恥ずかしくて、逃げ出したい。なのに、駆けるための足は竦んでガクガクと震えている。

 転がったバケツと、落ちた雑巾が足下になければ……その水を被った髪と体、衣服がなければ……ポタポタと落ちる雫がなければ、もう少し まともな 出会い方だったのに!

 いかに要領の悪い彼女といえど、プライドというか……憧れの王子様へ少しでも良く見せたい願望くらいはある。

(こんな、こんな大失敗するなんて……!)

 普通なら、もたつくにせよバケツの水を被るなんて失態は滅多にしない。いや、勤めだした当初は、よくやったけど! 最近はなかったの、ホントだもんっ!!


 だから、コレは予期せぬ指名をした 彼 のせいだ。不遜にもそう、責任を転嫁したい。


『あ。君でいいや、ちょっと来て』

『ひっ! ひゃ、ひゃいッッ!』


 呼ばれる前からチラチラとチラ見していた存在が、急に声を掛けてきて動揺した。

 もしや、隠れて見ていたつもりがガン見していて、それがバレたのではなかろうか?! などと不安になって足下への注意を怠り、緊張で手には汗をかき、思考はほぼフリーズ状態。

 彼のそばに侍る寸前、段差があるのかないのかわからない程度のところでガクンと足をとられ、ダメだ! と踏ん張ろうとしたのが悪かったのか、いや単にそういう星の下に生まれただけか……バケツが宙を舞った。

 バシャ、と中の(決して綺麗ではない)水が二人の上に降り注いだ。

 自分だけなら、まだ救いがある。

 水も滴るいい男、という――何事もなければ、ウットリとなる眼前の麗しい顔も恐怖の対象でしかない。

(ど、ど、どうしよう……解雇! ううん、ころ、ころ、殺されるぅぅぅっ!!)

 真っ赤から真っ青になったルルゥに、王子は微笑んだ。

「すごい、予想外だ。上をいく要領の悪さ、不安定なチャーム……この 俺 を誘惑してるの?」

「……は? あ、あの」

「ルルゥ、いいかい?」

「は、はいぃ?」

 この時、彼女は彼がどうして自分の名前を知っているのか疑問に思わなかった。

「今から、君の主は俺だ。俺の世話はすべて君に任せる」

「………え?」

 呆然となり、今、耳から入手した情報を理解しようとしていた頭は目から入る情報をよく認識していなかった。

 柔らかい、少し彼女のものよりも冷たい温度が触れて離れた。

 離れる時、ペロリと頬を舐められた? 気がして目が合う。


「 契約の証だよ? 」


 と。トロリとした彼の紅瞳に何が起こったか、正確には理解できなかった。だって、妄想かもしれない。恥ずかしさでのたうち回れる分不相応な夢かもしれないっ!

 ふぉぉぉぉぉお!!


「返事は? 肯定しか受け入れないけどね」

「はいっ!」


 もったいなくて躊躇いなど生まれやしなかった。

 魔族にとって唇へのキスは「契約」。じゃあ、頬へのアレは「味見」? うん。やっぱり、夢だっ(脳内で握り拳!)!

 大体、魔王子である彼は従者や世話役のメイドをつけないことで 有名 な御仁だ。設定に無理がある……にしては、なかなか覚めない夢にクラクラした。

 濡れた服を脱がせ合いっ子しかけた時は流石に逃げたよ! ゆ、ゆめ?! これ、夢なの! ダイタンすぎるぅぅぅぅッ!!




 ――次の日。


 起きても覚めなかった「夢」にビビッて狼狽え慌てて辞退を請えば、主から手痛いお仕置きをされるのだが、そのことを彼女は まだ 知らない。



次は、魔王子視点です。

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