【第二問解答】お付き合いのテスト《※2026年9月5日(土)梨恵様・再取材》
------------------------------【問題】------------------------------
※(注意)この問題の本文は 【第二問】『お付き合いのテスト』を参照してください
梨恵は「前の彼氏にディズニーランドで放流されたトラウマ」を理由に、坂江を試すようなテストを行いました。一方で、主人公(坂江)は彼女の手紙やこれまでの挙動から、梨恵および元彼との関係性について冷ややかな分析を行っています。坂江が「この二人の需要と供給がマッチしている世の中じゃないと〜」と考えている背景には、梨恵のどのような人物像や問題点があると考えているか、本文中の具体的な引用(手紙の内容や坂江の情景描写など)を交えながら説明しなさい。(300字以上400文字以内)
------------------------------【解答】------------------------------
坂江は、梨恵が「自分を試す」ために見せた、計算し尽くされた仕込みと執拗な不気味さに強い嫌悪感を抱いている。梨恵は前回の訪問で坂江の冷蔵庫に「生クリームとバター」がないことを把握しており、事前購入されるのを防ぐため確認もせず、敢えて「買い忘れ」を装って一人で外出した。その場で書いたのではなく予め用意されていた手紙からも、最初からこの「テスト」を実行する計画だったことがわかる。さらに、確実に渡すためパート社員だけでなく店長やアルバイトなど複数の店員に声をかけて網を張り、坂江が取り囲まれる状況まで作っていた。過去のトラウマを免罪符に、周囲を巻き込んで仕掛けたこの周到で自己中心的な奇行に対し、坂江は冷ややかな恐怖を覚えている。
--------------------【梨恵さんへの単独インタビュー】--------------------
※2026年9月5日(土)18時~19時15分、東京都内・喫茶店個室にて※登場人物の名前は、仮名です。
——本日はお時間いただきありがとうございます。先日、坂江さんのご自宅で起きた出来事や、その後の「テスト」と称する行動について、当時の状況をお伺いできればと思います。
梨恵: (控えめに微笑み、手元のハンカチを丁寧に折り畳みながら)……はい。よろしくお願いします。あの日はただ、彼と少し特別な時間を過ごしたかっただけなんですけど……どこからお話しすればいいでしょうか。
Q1:あの日、坂江さんのお宅を訪れたのは何回目だったのですか?
梨恵: 2回目です。1週間ほど前に一度、上がらせてもらったことがあって。その時にキッチン周りや冷蔵庫の中も目に入っていて。自炊用の調味料や凝った食材なんて全然なかったのを覚えていました。
Q2:その日の夕食に「生クリームとバター」を使う料理を選ばれたそうですが、具体的に何を作ろうとされていたのですか?
梨恵: サーモンのクリーム煮です。彼、以前「洋食が好きだ」って言っていたので、手料理で喜ばせたくて。でも……スーパーに着いてから「あ、生クリームとバターを買い忘れた」って気づいて。彼に心配をかけたくなかったので、一人で買い直しに出たんです。
Q3:ですが、おそらく1週間前に冷蔵庫を見てますよね。「生クリームとバターはない」と分かっていたのではないでしょうか。事前に坂江さんに買い置きがあるか確認もしなかったようですね。そのように坂江さんからお伺いしています。
それは、買い置きされていると困るから、あえて確認せず「買い忘れた」と称して一人で外出する理由を作ったのではありませんか?
梨恵: え? なにを……。私はただ、うっかりしていて……。彼にあるか聞いたら「気を使わせちゃう」と思ったからで……。
Q4:さらに、外出先で坂江さんに渡されたあの手紙ですが、達筆な長文で書かれていました。スーパーの店内や往復のわずかな時間で書ける量ではありません。つまり、訪問する前から手紙を用意し、一人で外に出る計画を立てていたのですね? サーモンのクリーム煮も、買い忘れも、すべて一人で外出するための口実だったのでは?
梨恵: 違います。違いますよ。あれは……前もって自分の気持ちを整理するために書いておいたメモで……。たまたまカバンに入っていただけで……!
Q5:手紙を託されたパートの吉田さんだけでなく、店長やアルバイトなど複数のスタッフが「なんて書いてあったの?」と坂江さんを取り囲んでいます。確実に彼に手紙を渡すため、店ぐるみで網を張っていたのではないですか?
突然バンッとテーブルを叩いて立ち上がり、アイスティーのグラスが大きく揺れた。
梨恵:しつこい!! なんなんですか、さっきから揚げ足ばかり取って! 私はただ、彼が信頼できる人か確かめたかっただけです! ディズニーランドで私を一人にして消えた元彼みたいに、私を見捨てる男かどうかを!
——落ち着いてください、梨恵さん。元彼のお話が出ましたが、ディズニーランドで「放流された」というのは、本当に相手が勝手に捨てたのでしょうか? 今回のように、あなたが周到な試し行動や奇行で相手を追い詰め、相手が耐えきれなくなって逃げ出したのが客観的な真相なのではないですか?
梨恵: ちがう!! 私が悪いんじゃない! あいつが、私の気持ちを受け止めきれなかっただけ! 坂江だってそう! 困っている私を助けようともしないで、冷たい目で店員さんたちから逃げて……! みんな私を裏切るんだ!!
※激しい過呼吸を起こし、椅子から崩れ落ちるように泣き叫んだため、インタビューは一時中断、※約25分間の中断後、取材を再開。
——体調は戻られましたか。……最後に伺います。ご自身のトラウマを理由に、周囲を巻き込んで仕掛けたこの「テスト」について、今どう感じていますか?
梨恵: ……もう大丈夫です。取り乱してしまってごめんなさい。……やっぱり、坂江は探してくれなかったんですよね。スーパーの店員さんたちに囲まれて、嫌そうな顔をして私から逃げた。
——彼はあなたの仕掛けた罠の不気味さに恐怖を感じて引いてしまったのだと思いますが。
梨恵: ふふ、そんなことないですよ。彼もあの男と同じで、私の強い気持ちを「受け止められる器」じゃなかった。……それだけのことです。
——それだけ……ですか?
梨恵: ええ。だって、私に「釣り合う人」は、絶対に他にいますから。
——他に、心当たりがおありなんですか?
梨恵: ええ、街コンで知り合った方なんですけど、すごく優しくて。来週、初めて彼のお家でご飯を作ってあげることになっているんです。……今度は、もっと美味しく作れるといいなって思っていて。
そう言うと、彼女は自分のカバンを肩にかけ、何事もなかったかのように可憐なお辞儀をして個室を後にした。
【取材を終えて】
尋問のような取材となり、インタビューイーを感情的にさせてしまった。明らかに私の取材能力不足を痛感した。坂江さんに個人的な感情移入しすぎたせいだ。取材をする者としての未熟さは、経験によって克服されるのだろうか。反省しきりだ。
今回の再取材を通じて、梨恵さんに底の知れない逞しさ・タフネスさを感じた。初回の取材ではわからなかったことだ。
私も尋問のような形で取材を展開したつもりだったが、テープ起こしをすると主導権は彼女にあったのではないかと改めて思う。
「今度は何を作ってあげるつもりなのか」を問い詰める余裕すら与えない、完璧に整えられた笑顔と軽やかな足取りだったのだ。彼女の中では、坂江氏との出来事はすでに「適性テストに不合格だった過去の男」として処理され、次のターゲットへの「準備」が始まっている。
「受け止める器」「私に釣り合う人」という言葉に強い違和感を感じた。彼女は常に相手との距離を測り損ねている。常に自分だけが主体なのだ。
恋愛は相互コミュニケーションの最上位に位置する。そこにある問いはすべて難問だ。シンプルに見えても、底に辿り着けない事はゴマンとある。「解なし」だってありえるのだろう。
彼女に感じた「違和感のようなもの」が連続して感じ取ると、次第に違和感のようなものは輪郭をはっきりさせる。境界線がはっきりと浮きだつことと、「違和感のようなもの」は明確な「違和感」へと確実性を帯びるのだ。
パートナーとなる男性に限らない、すべての「相手」となり得る人が感じる違和感。インタビューには掲載しなかったが、彼女には友達がいないという。学生時代からずっとらしい。
彼女が出て行ったと思われる喫茶店のドアベルが聞こえた時、背筋が妙に寒くなるのを感じた。




