転生したおっさんは2回目の人生こそ小説家になりたい
「いい? 学校は勉強が大事だからね? シンくん」
「知らねえよ、お前の好都合なんか」
「まーた、そんなこと言う」
ぷっくり、と頬を膨らましてくる幼なじみのガキ。
まあ、このオレも高校生のガキなんだが。
30代で死んだオレにとっては高校生なんざガキ中のガキだ、性欲も起きない。
「しかし、本当に凄いな、お前らの家。
いや、屋敷か?」
息を吐く。
「そう? 普通だけど」
「普通、ね」
また、息を吐く。
大きな門をくぐり、もうずいぶん走ってるはずなのに、全く屋敷の形が見えない。どうせ、家じゃなくて屋敷なんだろう。まあ、これでちっぽけな家だったら、それはそれで面白い。幼なじみとして慰めてやろうか。
制服を来たオレらが乗ってる車も、真っ黒で細長くて防弾機能でもついてそうな立派な車だから、やっぱり屋敷なんだろう。慰める言葉の準備は要らないかもしれない。褒めようかな、喜ぶはずないか。
「勉強しないと大学行けないよ?」
「行かなくていいんだよ、オレは。それよりも本読みたいね、本。明日から夏休みなんだからさ」
「だーめ、シンくんは勉強するの」
『明日から夏休みだね』
式の後に笑顔で言われたことは覚えている。
気付いたらこの車の中にいた。
手首を縛られていないことが唯一の救い。
いやいや、十分サイコだよ、サイコ。
「夏休みは勉強だからね? ずっと」
「高校生最後の夏休みが…」
「覚悟してね?」
「オレは何をされるんだ?」
…。
「ふう」
手を止める。
本を読もう、と手を伸ばす。
スマホが鳴り、伸ばした手を止める。
…。
「よし」
手をスマホに…鳴る。
「ヤバイな、全く本が読めねえ。
ハハッ。
1人きりのはずなんだが?」
首をひねる。
今は、オレのための部屋。
まずビックリするのがその広さ、オレが死ぬまでに住んでいたアパートの部屋と比べたら失礼なくらない広い。
布団もあり、タンスもあり、
参考書やプリントもたくさんありやがり、
本が鞄に入れていた3冊のしかない。
まさに、勉強するための部屋。
てか拷問。新しい高校生用の拷問部屋、勉強が拷問部屋とは…。
おまけに、ちっちゃい監視カメラで監視されてるし、恐らく。
恐ろしい。
高校生のガキに監視されている、ということ。そして、それがこの人生での幼なじみで、そいつは生徒会長でもあるということ。
…、
これを作品にしようか。
肖像権…。
トントン、ノックの音がする。
「シンちゃん、入るよ?」
「…来たか」
本当の幼なじみ。
何十年か振りの再会だったりする。
「久しぶり、シンちゃん」
「お前の娘やっべえな」
「再会第一声がそれ?
相変わらず、なれもしない小説家の夢を追ってるらしいけど。その若い人生でも」
着物を着た女性。
何歳に結婚したかはわからない。
だが、街で娘と歩いても姉妹だと思われるだろう。それくらい若く見える。
「何で気付かれたんだ?」
「私の知ってる人にそっくりだったから。言動が。
あの子は知らないようだけど」
「知っても理解するのかな」
「しないでしょうね。
使ってる筆名が同じだったから、信じたけど」
「今はあの子には勉強させているけど、どうかしら、少し話でもする?」
「話ね」
「勉強の素晴らしさについて」
「学校だけだろ? 勉強なんて」
「学校は勉強する所。いい大学に入って、いい会社に入るために」
「今は学歴なんてどうでもいいんだよ」
「そう?
けど、とりあえず、学校では勉強しないと。小説家なんて目指すのは後にして」
娘がああなのは母親がこれだからか。
幼なじみで、娘と同じく生徒会長だった奴。
トゲは少し落ちたようだが、相変わらず勉強主義。
「そのいつまで続くかわからない2回目の人生で、夢を叶えることができるか、怪しいというのに」
冷静に、淡々と。
「お茶とお菓子を持ってきた。
では、監視カメラでバレないように、長居すると怪しまれるから」
「やっぱ監視カメラあるのかよ」
「大切な娘のお願いだから」
アイツのお願いだった。やっぱサイコか。
机の上に、お茶と和菓子を置く。
頭を下げ部屋から出ようとする。
「立派になってて、幼なじみとして嬉しいよ」
オレの言葉を耳にし、少しかたまる。
「私も、転生してくれてよかった」
淡々、しかし暖かみのある声で言ってくれた。
…。
「さて、本を読もうかな」
手を伸ばす、
すぐにスマホが鳴る。
「いや、本読ませて?」
参ったな。




