3話「10倍」
潜水艦はしばらく海底を進み、やがて巨大な海底基地へと到着した。
基地のハッチが開き、潜水艦がゆっくりと内部へ入っていく。
中に入ると、轟音とともに潜水艦の移動が止まった。
長髪の男「着いたようだな。
……おい、出るぞ。」
潜水艦のはしごを登って外に出ると、そこは潜水艦の停泊所だった。
停泊所の入り口から、別の女性が歩いてくる。
イズナ「キリヤ、マシロ、任務お疲れ。
……って、誰その子。」
キリヤがイズナの横を通り過ぎながら答える。
キリヤ「アビスに連れて行かれた幼馴染を
助けろってうるせーから連れてきた。
まあ、シグマさんの説明を聞いたら
諦めるだろ。」
マシロもイズナの横を通り過ぎる際、耳元でささやく。
マシロ「ほんと、誰かさんとそっくりね。」
イズナ「……。」
キリヤ、マシロに続き、ヒビキもイズナを横目で見ながら通り過ぎる。
三人は停泊所の入り口から基地内部へと進んだ。
基地の奥へ進むと、ひときわ立派な装飾が施されたドアが現れた。
その前で三人が立ち止まる。
キリヤ「Dチーム、キリヤ、
マシロ入ります。」
???「うむ。入りたまえ。」
低い男の声が中から響く。
三人が部屋に入ると、スキンヘッドで顎髭を生やした色黒の男性が椅子に座っていた。
中年の男性「任務ご苦労。
その後ろにいるのが、
さきほど報告のあった
目撃者かな?」
キリヤ「ええ。経緯については、
さきほど潜水艦の
無線でお伝えした通りです。」
中年の男性「わかった。
では、私から説明をしよう。」
キリヤとマシロは部屋の隅へ移動し、中年の男性とヒビキが向き合う。
シグマ「私の名前はシグマ。
この組織を束ねている者だ。
君の名前は何というのかな?」
ヒビキ「ヒビキと言います。
あの……さっきのアビスって
化け物って何ですか?
この組織って何なんですか?」
シグマ「ヒビキ君か。
では、順を追って説明しよう。
さきほどの化け物は“アビス”。
マリアナ海溝の
深海から現れる怪物だ。
地上に現れては人を攫い、
深海へ消える。
この組織は、そのアビスを
駆除するために海上保安庁から
分離して作られた特別組織——
アクト(A.C.T:Abyss
Countermeasure Taskforce)
だ。」
ヒビキ「!!
深海から現れる化け物!?
それを駆除する特別組織だって!?」
シグマ「さよう。
近年、海岸線での失踪者が
増えているのは知っているかな?」
シグマの問いに、ヒビキはミオの言葉を思い出す。
ミオ『あんたほんとニュース見ないのね。
海岸近くの人が失踪してるって
ニュース、最近テレビで
話題になってるのに……。』
ヒビキは小さくうなずいた。
シグマ「あれはすべてアビスの仕業だ。
海溝深くから出現したアビスが、
人を深海へ連れ去る。
そのため失踪者が増えている。」
ヒビキ「アビスが……!?
一体何のために!?」
シグマ「理由はわからない。
君も見たかもしれないが、
奴らは“アビスバリア”という
特殊なバリアで対象を覆う。
そして、生きたまま
マリアナ海溝の深海へと連れ去る。
何かの意図があって
人間を攫っている可能性はあるが……
それ以上は何もわかっていない。」
ヒビキ「そんな……!それなら
助けに行けばいいじゃないですか!
さっき乗ってきた
潜水艦があったでしょう!
あれで——」
シグマ「……君は、最新の潜水艦が潜れる
最大潜航深度を知っているかな?」
ヒビキ「いえ……。」
シグマ「最新の潜水艦の最大潜航深度は
1000m。
それに対し、奴らが人間を連れ去る
マリアナ海溝の最深部は——
10000m。
人間が到達可能な深度の“10倍”だ。」
ヒビキ「!!
10倍だって……!?」
煽り:ヒビキの希望は、届かない深海まで沈んでいた——。




