朝起きたら、白い部屋の中にいた。
しいなここみさまの「朝起きたら企画」参加作品です。
推理要素はありません。作者が考えられないからです。
目を開けると、真っ白な天井が見えた。
……そんなはずはない。俺の部屋の天井は蛍光ピンクで彩られているはずだ。
蛍光ピンク至上主義の俺には厳しい世界だ、なんていうくだらないことを考える。……俺は何故ここにいるんだ?
ゆっくりと体を起こすと、体のあちこちが軋む音をあげた。
辺りを見回す。……何もない部屋。
否、真っ白な扉の上に看板が一つ。
まるで一時期ツイッ◯ーやピク◯ブで流行った、「〇〇しないと出られない部屋」じゃないかっ……
『脱出しないと出られない部屋』
「当たり前だろ!」
思わずツッコむ。部屋から出られなければ脱出とは言わないのだから……
とりあえず立ち上がる。
ガコンッ!
重心を移した先の床が抜け、形の整えられた大量の石が顔を覗かせた。そう、まるでお墓のような。
「えっ、えぇ……ここ、墓地の上なん?――さすがに縁起が悪すぎないか?」
ギリギリ落ちはしなかったが、半歩先は墓だ。俺は怖くなって、一歩後ずさる。
ピコーン!
足元にあったスイッチをまんまと踏んだ。すると前方に女性のホログラムが浮かび上がる。
『置いてあるものは自由に動かして。ゲーム機は好きに使っていいわよ。蛇口も好きにひねってね。猫とも好きに遊んで。スマホも見ていいわよ』
一瞬周りを見るが、そんなものはない。
「あの、なんもないんですけど……」
だが俺の発言に構わず、ホログラムは喋り続ける。
『汚したらちゃんと掃除してね? ベッドのシーツは私が帰るまでに取り替えて』
汚したら掃除してね、と言われても汚す要素も掃除道具もない。と考えたところで俺は自分の服装を見下ろす。
――まるでモップのような蛍光ピンクのセーター。
まさか。
「……これで掃除しろと?」
思わず声を上げた俺を彼女は一瞥し、消えていった。
◇ ◇ ◇
残された俺は困り果てていた。
何せ、部屋の中には起動済みのスイッチと墓地へ続く穴、それだけなのだ。
「一旦歩き回ってみるか……」
そう小さく呟くと、俺は一歩を踏み出し、いつのまにか現れていたスイッチを踏み抜いた――
バーン!
大きな破裂音が響く。それなりに狭い部屋なので耳へのダメージが激しい。
音はおそらく後方から鳴り響いた。俺は首をぐぎぎぎっと鳴らし、振り返る。そこには――
『
/\
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キャレットだよ☆ 』
でかでかと、描かれていた。
この部屋の仕掛けに頭痛がするのを感じながら、俺は探索を始めた――
◇ ◇ ◇
あれから、どれほどの時が経ったのだろうか。
今俺の目の前には、鍵の開いた扉がある。
――ここまでくるのは、大変だった。
あるときは、首にバッグクロージャーを嵌められ。
あるときは、風邪をひいて冬の訪れを感じ。
またあるときは、落ちてきたペンでラバーペンシルイリュージョンをして再び現れたホログラムから小言を呈されまくり、(物理的に)耳にたこができた。
ちなみに、墓地には降りられなかった。透明な床があったのだ。
――やっとここまできたのだ。
実感が湧いてくる。
「大変だったけれど――楽しかったな」
俺は、そんな思いを抱きながら、開放感とともに扉を開けた。扉の上の看板は、いつのまにかなくなっていた。
扉の先には、長い廊下があった。真っ白の廊下だ。俺は、視界の右下に看板を捉えた。
『エスケープしないと出られない廊下』
「結局一緒じゃね―か!」




