004 退職決定
2024年、8月31日今日は俺が24年勤めた
会社の退職日だ。
長かった・・・
ようやく自由の日を手に入れる日がきたのだ。
退職を決めたのは今月初め、
俺はその日、急に社長に本部に呼び出された。
社長に就任して3か月のこのバカ坊ちゃんは
古株の幹部を
呼び出しては、わけの分からない説教
(本人は指導というが)を繰り返していた。
本部の広い会議室に呼び出された俺は「被告人席」
みたいな場所に座らされた。
バカ社長の横には同じくバカ社長の
腰巾着と呼ばれているエリアマネージャーと経理部長、
人事部長、総務部長、監査室室長が座っていた。
俺は6人の前に立ち一礼して椅子の前に立った。
「座ってください」社長からの一言
その言葉を待って俺は椅子に着席した。
「最近のあなたの店舗の業績がここにあります。さて
どこに問題点があると思いますか?」
社長からのこの答えがわかりますか?的な質問は正直
大っ嫌いだった。こういう言い方をする奴は
たとえ答えを当てても、違うということも出来るし、
当たったとしても
「では、何故改善しないのですか?」
と言ってくることが予測できるからである。
なので俺はいつも「分かりません」と
答えるようにしている。
その次は「問題点が発見できていない」ことを
ネチネチ文句いわれるのがお決まりである。
はっきり言って無意味な会話である。
店舗を運営している以上問題点がないことはない。
細かく言えばかなりの問題点があるのは分かって
いるし、優先順位をつけて一つずつ解決していく
しかないからである。業績・人材育成・店舗管理、
この3つが店舗を運営していく根幹であり、
これらを優先的に解決していく
のが定石であることは店長経験24年間で分かって
いたことである。
「最近、朝からの稼働状況が悪いと思いませんか?」
「新台に全くお客様が座っていないのは店長として
どう感じているのですか」
「従業員の顔に覇気を感じられない」
「競合店にお客様が流れています」
「従業員とのコミュニケーションが
少ないと思いません」
「お客様の様子をちゃんと見ていますか」
などなど2時間近くの説教?指導?を聞いていた。
もちろん
返事は「申し訳ございません」「対処します」などを
ずっと繰り返していた。
まあ少し慣れてきた感じでもあるので
適当に返していたが、言ってはいけない一言をこの
バカ社長は言いやがった・・
「よくこれまで店長やってこれましたね」
俺は切れた・・・
席を立ちあがり言った
「今までありがとうございました。もうこのバカには
ついていけないので今日をこの時点をもって
退職します」
そして一礼をして会議室を出て行った・・・
後悔はしていない、こんなに急に辞めるとは思っていな
かったが、どうしても我慢の限界を超えていた。
会議室を出て行った俺を後ろから経理部長たちが
追いかけてきた。
「今すぐ、謝罪しに行こう」
「今ならまだ間に合うから、なんなら俺も一緒に
謝罪してあげるから」
でも無理だった、
「あいつに頭を下げるには死んでも嫌だ」
退職届は明日、本部に郵送します。と一言だけ
残して駐車場に向かい、自分の車に乗り込み、
自分が店長をしている店舗に急いで向かった。
店舗についた俺は事務所にいた副店長に本日の
ことについて伝えた。
「すまない、急だがおそらく今月末には会社を辞める
ことにした」
その場にいた副店長2名は少し驚いた表情をしていた
「急ですね・・・」
そう言ったのは長年一緒に働いた西山副店長だった。
「申し訳ない、我慢の限界をついに超えてしまった」
西山は軽くうなづいてくれた。
「店長が辞めるとこの店もヤバいですね」
そう言ってくれたのは池中副店長だった。
「まあ、俺たちもこの会社が危険なのはわかっていたので
いずれみんな辞めていきますよ、
残るのは経営者一族とその取り巻きだけだと思いますよ」
西山が明るくそう言ってくれたのは嬉しかった。
辞めるといっても、今日この時点で辞めるのは
部下たちにも迷惑がかかることは分かっていた。
冷静になった俺は、総務部長にメールで退職日やこの後の
事務処理を相談する内容を送った。
その日の夜に総務部長よりメールで退職の受付が
完了したこと退職日は8月31日になったこと、
引継ぎで新たな店長が来週には
この店に来ることなどが決まったことを教えてもらえた。
3日後、直属の部下であった副店長2名、
西山と池中副店長両名が退職届を
出したことに俺は驚いた。
「俺に付き合って辞める必要はないぞ」
俺は両名を止めたが
「元々、早く辞めようと思っていなので
気にしないでください」
と西山が言うと
「若いうちに辞めとけ、と言っていたのは
店長じゃないですか、早く別の道を探すためですから」
池中が応えてくれた。
3名は8月31日に一気に辞めることがここで決まった。