第70話:『巨大化する魔人、肥大化する影猫』
毎日18時投稿!・・・予定です(なるべくがんばります)
「お前ら、好き勝手やらせると思うなよ」アクスは拳を固めた。その背後で、影がうねり――影猫が低く唸る気配がする。
「よし影猫、お前もや・・・おいなんだその腹は!?」
キュートな子猫だった影猫が一回り、二周り肥大化し、お腹がでっぷりとしている。なんだか老猫のようなふてぶてしい態度、でぶでぶしいお腹周り。
(別の猫じゃないのか・・・?何食ったらこんなんなるんだよ・・・。)アクスはちょっと引く。
「へー、ちょーっとでかいくらいの猫が一体なんだって言うの?」
「へー、そいつも戦うんだ。じゃあ見せてよその猫のすごいとこ」
「お、おう、見せるぞ。覚悟しろ」アクスの声は冷静だが、何とか動揺を隠している。
アンラとマンユは一瞬目を細め、やや興味をそそられる素振りを見せる。だが、その口元の笑みは消えない。
「ふんっ!あんたらみたいな人間は」
「あっ!と言う間に殺してやるから」
戦いが始まった。双子の魔人――アンラとマンユは、薄暗い影からずるりと長い首を広間に引きずり出し、禍々しい咆哮をあげた。
「グオオオオオオッ!」
耳をつんざく轟音と共に、洞窟全体が震える。
「でっけぇ・・・! これ、本当に序列二十万台かよ!」
アクスは苦々しく舌打ちしながら後退する。
カグヤが飛びかかる。魔人たちははカグヤに向かって四本の腕で同時攻撃、カグヤは両手両足でガードするも、あと一手足らず、攻撃まで至らない。
「閃光」エマが強力な光のビームで魔人達の目を焼く。魔人たちたまらず目を押さえる。
カグヤが抜刀し、鋭い一閃を魔人の右腕に浴びせる。だが、肉を裂いたはずの傷口は、瞬く間に闇の魔力で塞がれていった。
「回復が早すぎる・・・またこのパターンか!面倒な」辟易するカグヤ。
「やはり尻尾から闇の魔力を吸収しているのですね!」エマの冷静な分析。
「いくら斬っても、これじゃキリがないな・・・」
それでも二人は怯まなかった。カグヤは疾風のごとく斬撃を浴びせ、エマは聖属性魔法を重ね、闇の力を削り取る。相性的にはこちらが有利――のはずだった。
だが魔人の巨体はさらに膨張し、やがて洞窟の天井を突き破った。轟音と共に岩盤が崩れ落ち、空が覗く。
「やばい!洞窟が崩れる!」アクスは歯噛みしながら叫ぶ。
(ノア! 中にいる連中を守れ!)
(了解しました。全員を眠らせ、結界で保護します)
直後、紫の霧が洞窟内を満たし、倒れていたクライムサミットやダークエルフたちが深い眠りに落ちた。霧は彼らの身体を覆い、強固な障壁へと変わっていく。
山の中腹。
大地を割って顕現した双子魔人は、二つの上半身を誇示しながら咆哮をあげた。
「グオオオオ・・・!」
「ガアアアア・・・!」
魔人たちは周囲のそこかしこを適当にボコボコと殴りつける。里の洞窟が崩壊し、木々もなぎ倒され、無惨ながれきへと変貌していく。
「お前らの里をめちゃくちゃ潰してやったぞ!面白いなぁ♪」
「お前らのお仲間をたくさん殺してやったぞ!楽しいなぁ♪」
魔人たちが巨大化する度に腕が伸び、破壊する範囲が拡大していく。
「このままじゃ里どころか周囲の森ごと潰されるぞ・・・!」アクスは歯を食いしばる。
「――<聖鎖>!」
エマの詠唱と共に、光の鎖が天空から降り注ぎ、アンラの巨体を縛り上げる。
「ぐわぁぁぁ・・・なんだこれっ!」
「アンラ!おのれーさっきのチビ娘だな!?どこだ!」
双子の連携が崩れた。しかし、もう一体のマンユまでは拘束できない。
「・・・影猫!」
アクスの影から、また更に二周り巨大化した黒猫が躍り出る。尾が限界まで伸び、蔓のように広がりながらマンユの体をぐるぐる巻きに拘束した。
「何でかまたデカくなってるが今は好都合! よくやった!」
動きを封じられた瞬間――。
「悪なる者の黒き腹・・・暴いて晒せ! 一閃・胴割!」
カグヤの声が雷鳴のように響く。放たれた横一閃の斬撃が、巨体の胴を易々と真っ二つに裂いた。
「グオオオオッ!」
巨人のような体が轟音を立てて地に崩れ落ちる。
アンラとマンユは吹き出し口から引き離され、胴体の下半分と尻尾が栓の代わりになり魔力の流れを塞ぐ。ようやく終わりかと思われたその時――。
「・・・あぁっ、コラ影猫! それ食っちゃだめだろーーー!!!」
アクスの悲鳴。
影猫は、まるで飢えた大蛇のように魔人の尻尾をずるずると飲み込んでいた。想像を絶する速さで、闇の魔力を宿した肉を吸収していく。
「闇魔力まみれの魔人の肉なんかきちゃないでしょ!ぺっしなさいぺっ!」
「がるるる・・・♪」
満足げに喉を鳴らす影猫。もはや猫の鳴き声ですらない。
「・・・おまえ、そんなに食って、食べ盛りか?成長期なのか?あぁ、せっかくの栓が・・・魔晶石も見当たらないし・・・。」
アクスは頭を抱えるしかなかった。
その間に魔力の供給を断たれた双子魔人の首をカグヤが落とし、エマが浄化する。そしていつものようにノアに回収され、跡形もなくきれいに消えていった。
アクスはノアが外に転送した王女達の元へ駆け寄る。
王女の周りの結界が消え、紫の霧も散るように消えていく。
「王女殿下、お怪我はございませんか?」
「え、ええ、大丈夫ですわ・・・あら、お里が・・・」
王女と一緒に居た侍女、リオルに雷牙も無事なようだ。
「魔人に里を襲われまして、何とか皆で撃退したところです」
「まぁ、そうでしたのね、アクス様のご活躍、この目で見たかったですわ」
膨れる王女をなだめ、周りを見渡す。兵士達とクライムサミットはまだ眠らされている。状況が整理できるまで寝ていてもらおう。むしろ王女を起こすのも早かったかもしれない。
魔人の消滅と同時に、倒れていたダークエルフたちの目から黒い靄が抜け落ちていった。
「う・・・あれは・・・」
「わ、私たち・・・」
錯乱していた民が正気を取り戻し、涙を流して喜ぶ。
「闇に特化した我らが・・・まさか闇に囚われていたとは・・・弱さとは、もはや罪じゃな」
長老が膝をつき、悔恨の言葉を漏らす。その姿を見て、アクスは前に進み出た。
「お前たちは弱くなんかない。その肌を見ろよ。闇に最適化して、むしろ進化したんじゃないか?」
一同が互いの肌を見合い、ざわめく。
「・・・何だ、この黒さは」
魔人の設定
アーリマンはペルシア語の別名ですが、種族名っぽかったので種族名という事にしちゃいました。アンラとマンユが名前っぽかったので二つに分けて双子設定にしたかったのですが、アンラ・マンユは元々一つの存在なので、下半身を纏めてこのような魔人の形にしました。穴から魔力を吸うのにも下半身が一つのほうが都合が良かったですし・・・。ただ、今考えてみれば2人の設定にして、人間を欺いて影から争わせる仲の良い双子が、穴を取り合って醜く争う、という構図でも面白かったかもしれません。




