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第69話:『源泉の魔力、双子の魔人』

毎日18時投稿!・・・予定です(なるべくがんばります)

 翌朝。


 アクスが部屋の扉に手をかけようとした瞬間、頭の中にノアの冷静な声が響いた。


(アクス様、扉の外は闇の魔力で充満しております。無防備に出れば危険です)

(えぇ!?・・・おいおいマジかよ。ノア、どうすりゃいい?)

(はい、それでは――影猫をお使いください)


 アクスは頷き、影から黒い小さな猫を呼び出した。影猫はするりと彼の肩に乗り、尻尾をゆらゆらと揺らす。その瞬間、扉の隙間から忍び込んでいた濃密な闇の魔力を、みるみる吸い込んでいく。


「よし・・・」


 ゆっくり扉を開けると、外には既にカグヤとエマが待っていた。二人は何事もなかったかのように平然としている。どうやら従士には影響がないらしい。


 だが、次の瞬間。


「ギィィ・・・!」


 闇に染まった目をしたダークエルフの民たちが、錯乱状態で一行に襲いかかってきた。


「来るぞ!」


 アクスの声に反応し、カグヤが疾風のように駆ける。抜かれた刀が一瞬光ったかと思えば――。


「我が駆けるは戦道いくさみち、されど跡には風も無し、流閃りゅうせん凪払なぎばらい


 流れるような峰打ちの一閃。倒れたのは数名のダークエルフ。しかしその頬に赤い線一つ残さない。まさに神業だった。


「ご安心を、すぐ治します」


 背後からエマの柔らかな声が響く。彼女の掌から聖なる光があふれ、暴れまわり気絶したダークエルフたちの打撲や擦り傷を即座に癒やしていった。


「闇の魔力に飲まれているのか・・・厄介だな」


 アクスは舌打ちしながらも、次々と倒れていく民を見届けると、長老の広間へと駆け出した。


 広間に飛び込むと、目に飛び込んできたのは無残な光景?だった。

 手前の床にはクライムサミットが倒れている。意識はあるようだが、顔は青ざめ、完全に戦意を喪失している。中でもリーダーのミサンドは――。


「・・・何やってんだ、こいつ」


 アクスの視線の先で、ミサンドが巨大な魔晶石を必死に抱えていた。


(・・・夜のうちに盗んで逃げるつもりだったな。全くセコい奴らだ)


 広間の奥。


 そこに座っていた長老の姿は、もはや昨日のものではなかった。


 全身の肌は炭のように黒く、筋肉は異常に膨張し、衣服を突き破らんばかり。目は赤く光り、口からは荒い息と共に闇の瘴気が漏れ出している。


「うおおおおおッ!!!」


 咆哮と共に振るわれた腕は、大岩を砕くかのような威力を秘めていた。


「長老・・・っ!」


 アクスが声を上げるが、すぐにカグヤとエマが前に出る。


「ここは我らにお任せを」


 カグヤは刀を収め、無手の構えをとった。その小さな身体が、巨躯の長老と対峙する。


「せいやっ!」


 巨大な拳を掻い潜り、体をひねって肩口に手をかける。そのまま軽やかに回転し、巨体を投げ飛ばした。岩床が割れ、衝撃音が響き渡る。


「カグヤ、そのまま続けて。援護します」


 エマが聖なる光を放ち、闇の魔力を相殺していく。カグヤに動きを制され闇の魔力を削られていった長老の巨体はやがて膝をつき、体がしぼんていく。

 エマはすかさず<聖籠せいろう>を展開した。純白の結界が長老を覆い、内側に向けて力を収束させていく。籠の中に閉じ込められた長老は呻き声を上げ、静かに動きを止める。


「・・・ふぅ、何とかなったな」


 アクスが肩で息をついたその瞬間。


「・・・ん?」


 広間奥。長老の座の背後から――むくむくと、あの蛇が姿を現した。

 昨日は長老の首に巻き付いていた二匹の蛇、しかしよく見ると違う。上半身が双子のように分かれた双頭の蛇ならぬ双半身の蛇。二つの上半身からは膨れ上がった身体に腕が生え、異形の怪物へと変貌していく。


「あーやっとこの形が取れたぁー」

「あーやっとここの魔力が吸えたぁー」


 魔人たちは勝利を確信したかのような笑みを浮かべている。


 ノアの冷静な声が響いた。


(解析完了。魔界序列第206407位、双子の魔人アンラとマンユ。種族名はアーリマンです)

「魔人・・・またお前らか!なんでわざわざこっちに来るんだよ!」アクスの胸に怒りが込み上げた。


「いやー魔界で変に目立つと狩られちゃうからさー」

「いやー地上界に来たものの魔力が吸えなくてさー」


「じゃぁ向こうで大人しくしてりゃいいじゃねーか」

「だってー、そんなのつまらないじゃーん?」

「だってー、ボクらもあそびたいじゃーん?」


「遊びで人を(もてあそ)ぶな。これはお前らの仕業か!」


「うんそうだよー」

「すごいでしょー」


 魔人たちは揃って両手を腰に当て、にやりと笑う。目は子供っぽく光っているが、その笑みは不気味だ。


「このゲートは細くてさー、通れるのは僕らみたいな細長い種族だけ。岩の割れ目をくぐってようやく出てきたんだ。それで地上で魔力吸いまくって暴れてやろうと思ったのにね」

「この魔晶石に魔力吸い取られて取り込めなくてさ。長老を操って動かそうと思ったんだけど、そっちの嬢ちゃんの聖なる光に当てられて失敗、退かざるを得なかったんだよね」


「じゃぁそのままどっかいけば良かっただろうが」アクスが問い詰める。


「せっかくの源泉の魔力なんだから簡単に諦められないよー。そしたらね、いい具合に“操りやすそうな女”を見つけたの。ミサンドってやつ」

「ちょっと耳元で「お宝だぜ、金になるぜ、持っていっちゃえー」って囁いただけで、簡単に飛びついたの。あいつら、欲に弱いんだよね〜」


 アンラが両手を広げておどけて見せる。マンユも同調してちょろちょろと動き回る。


「で、魔晶石をどけさせたらね、ぶわーって魔力が吹き出したってわけ!」

「で、ダークエルフが錯乱している間に――ほら、吸い上げ放題ってわけ」


 双子が指で足元を指差して、嬉しそうに続ける。


「他の種族に迷惑かけてまでやる事なのかよ」アクスの声は冷たくなる。


「んー? でもさー、あんたらがピンチになると面白いじゃーん? こっちも飽きないし」アンラ舌を軽く出してからかうように笑う。

「それにさー、魔力いっぱい吸えてるのにやめるわけ無いじゃーん? もっと暴れたいし」マンユが小首をかしげる仕草は、子供のようでいて残酷だった。


(こいつら、本当にガキみたいな口調で油断させるが、やることは陰湿だな)


「この前は聖なる光のせいでちょっと手こずったけどさ、どうするの? 」

「今なら闇の魔力がたっぷり吸い放題だよ?もう負けるわけないよね? 」


「うーん、魔力は大分吸えたかなー?」

「うーん、もう話は終わったかなー?」


「「じゃぁ、そろそろ殺すよー♪」」


 双子が楽しげに言う。舌先で「「きゃは」」と笑う声が洞窟内に響いた。

今回の魔人のモデル


 アンラ・マンユ(中世ペルシア語でアーリマン)は、ゾロアスター教において、善と真実の最高神と対立する悪と暗黒の根源霊であり、虚偽・狂気・凶暴・病気といったあらゆる邪悪と破壊を司る存在です。ゾロアスター教の世界観では、この善悪二神の絶え間ない闘争こそが世界のすべての現象を構成するとされ、人間もどちらか一方を選ぶことが求められますが、最終的には善神が勝利し、アンラ・マンユは滅ぼされるとされています。


人物イメージ画像一覧はコチラ

https://ncode.syosetu.com/n1501lc/

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