表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/96

第66話:『黒を笑うものは、黒に泣かされる』

毎日18時投稿!・・・予定です(なるべくがんばります)

 アクスの背後に、不可知状態ふかちじょうたいのエマが転移でふわりと現れる。彼女は小さく頷くと、アクスに見えない結界を張った。あわい光が走り、薄膜うすまくのような障壁しょうへき身体からだおおう。


「行くぞ、全力で叩き潰す!」リーダーのクライムサミットの5人が一斉に襲いかかる。


 ヒーラーのスートが補助魔法で攻撃強化を重ねる。

 ミサンドが大盾で突進、シールドアタックで先制。

 フェイムがミサンドを踏み台にして跳躍ちょうやく、空中から大剣がうなりを上げて振り下ろされる。

 アンネスの合図でフーちゃんが素早く背面に回り込み、牙を突き刺す。

 最後に魔法使いミニスの詠唱えいしょうが終了し、豪火弾ごうかだんを撃ち込む。怒涛どとう連携れんけい、まさに歴戦れきせんのパーティーの動きだった。


 だが――。


 ガギィン! ゴッ! ドゴォッ!


 盾も剣も炎も、すべてがアクスに触れた瞬間、見えない壁に阻まれて弾かれる。アクスは一歩も動かない。ただ結界の内側で、軽く腕を組んでいるだけだ。


「な、なんで効かない!?」

「魔法も物理も全部・・・防がれてる!?」


 動揺しつつも、クライムは更に追撃を仕掛ける。火炎、氷槍、斬撃、盾の先端で突き。模擬戦とは思えない、殺意すら帯びた全力の連撃が次々と襲いかかる。しかしアクスの身体は微動だにしない。


(・・・模擬戦って言っておきながら、これ本気で殺しに来てるだろ)アクスはイライラしてきた


「影猫、出ろ」


 アクスの影がぐにゃりと揺れ、そこから黒い尻尾がひゅるひゅると伸びてくる。まるで生き物のようにしなり、鞭のようにうねる。


 ビシィッ!その一撃で前衛の二人――フェイムとミサンドが思わず後退した。


「なになに今のぉ・・・!?」

「影・・・? 召喚系!?なんで!?」

「気を付けろ!岩の陣形だ!」


 リーダーの掛け声で5人は互いに視線を交わし、即座に纏まって警戒陣形を取る。だが、既に遅かった。

 彼女達の影から無数の尻尾が伸びる。触手のようにうねり、全員の体に巻き付き、一気に締め上げた。


「ひゃっ!? な、なにこれっ!」

「うぐっ、くるし・・・!」

「うごけないー!」

「いやーんえっちー!☆」


 情けない悲鳴が飛び交う中、5人は空中に逆さ吊りにされた。アクスはスカートがめくれないよう気を配っていたが、当人たちにはそんな配慮が伝わるはずもない。


 アクスはゆっくりと歩み寄り、冷静な声で問う。


「・・・どうだ、感想は?」


「く、くるしいー!」

「いたいー!」

「頭に血がー!」

「おろせー!」

「変なとこ触らないでってばぁ!☆」


 まだ文句を言い続ける彼女らに、アクスは無言で合図。影猫の尻尾が更に締め上げ、ギシギシと嫌な音が響く。


「――わ、わかった! アタシらの負けだ! 降参するさね!!」


 リーダーのミサンドが悲鳴混じりに叫んだ。

 その声を聞くと、影猫の尻尾はするりと解放。5人はべしゃりと無様に地面へと落ちた。


「ちっ・・・くそが・・・!」何か本性が出てきた。


「えーっとこういう時何て言うんだったかな・・・あぁ、なぁ、今どんな気持ちだ?」


 アクスは前世で見た気がする”煽り”をやってみる。


「うっさい!召喚なんて卑怯よ!自分の力で戦いなさいよヘタレが!☆」


「えっ、いや、それは・・・」アクスはドン引き。こいつ自分で何言ってるかわかってんのか?


「やーい図星突かれてやんの☆ヘタレ―!ざぁーこ☆ざぁーこ☆」ミニスの煽りは止まらない。


 その言葉に反応したアンネスが立ち上がる。


「ちょっと・・・今のどういう意味?テイマー馬鹿にしてんの?」

「え?・・・あっ☆」

「あんただって杖無かったら何もできないでしょ!自分の力?アンタより腕力あるわよ!どっちがザコか今ここで試してやろうか!あぁ!?」


 アンネスがミニスの胸倉を掴み、怒りの抗議を始める。


「えっちょっそれは・・・☆」

「そもそもアンタの詠唱がクソ遅いからアタシらが時間稼いでやってんだろーが!いつになったら魔導師になんだよクソ無能がよ!」


 だんだん言葉が荒くなってきた。もはややからである。


「何よ!ザコ狼一匹テイムしたくらいで調子に乗ってんじゃないわよ!☆」

「ウインドウルフは希少種だよ!そんな事も知らないの!?バカなの!?」


 ぎゃいぎゃいと醜い言い争いが続く。遠目に見ていた兵士も辟易している。これは冒険者のイメージが損なわれるな・・・。


「・・・おい」アクスの低い声にクライムサミットのメンバーがビクンと反応する。


「内輪揉めは後でやれ、まず言う事があるだろ」

「あぁ、悪かったよ・・・無能とか、言い過ぎたさね・・・」


「そうじゃないだろ?」アクスは王女直伝?の”圧”を真似てみる。


「・・・ダークエルフの事ばかにして悪かったよ。アルケシアは亜人を差別しないのが国の方針だからね。今後は対等に接すると約束するよ」


 彼女らは悔しさを滲ませながらも、きちんと謝罪の言葉を口にした。


(ちょっと!こんな事で謝りたくないんだけど!)

(いいから!とりあえずこの場をやり過ごせれば後はこっちのもんさね)

(あぁ、そういうことね☆)


「「「Aランクぼうけんしゃさまーごめんなさーい」」☆」


 アクスはため息をつきながらも、最後に一言だけ告げる。


「あぁ、ちなみに明日からのダークエルフの里までの護衛。俺も行くから、よろしくな」


 その言葉に、クライムサミットの顔は一斉に青ざめた。


 ――翌朝。


 集合場所に到着とうちゃくすると、まだ約束の時間より早いというのに、すでに全員が揃っていた。クライムサミットの5人もきちんと準備を整えており、アクスの姿を見つけるや否や、勢いよく声を揃えて挨拶あいさつしてくる。


「アクスさん!おはようございまーす!」


 昨日の尊大そんだいな態度が嘘のように、妙にシャキッとしている。冒険者の世界は実力主義。どんな形であれ自分たちから仕掛けておいて負けたのだから、アクスを認めざるを得ないのだろう。


「昨日はー、すみませんでしたー☆」


 一番態度が生意気だったミニスも、とんがり帽子を取って深々と謝罪。その異様な光景は、どこか違和感を感じ・・・いや、ある部分が明らかに昨日と違う!!!


「お前・・・その髪型は・・・」


 ミニスの頭はきれいな丸刈りにされており、童顔と相まって赤ん坊のような見た目になっていた。


「これがウチらの責任の取り方さね。まぁ皆悪かったんだが、特に最初にあおった上に仲間を侮辱ぶじょくしたミニスが一番悪いって事になったのさ」


 リーダーのミサンドが淡々と説明する。


「あぁ、そう。まぁ・・・スッキリしていいんじゃないか?」アクスは一応フォローを入れる。

「ふんっ!」ミニスは不機嫌そうにとんがり帽子をかぶり直した。


 そこへ王国側の兵が声をかけてきた。


「全員揃ったので出発します。アクス殿は殿下の馬車にお願いします」

「え?いや、移動はフォレストウルフがいるから大丈夫だよ」

「いえ、殿下がお話があるそうです。侍女じじょも同席しているので問題ないと」


 よくわからないが、馬車に乗ることにする。馬車にはルーシェリア王女、侍女、そして影猫がちょこんと膝に乗っていた。侍女の手にはリオル、足元には子犬版の雷牙がおすわりしている。そういえば預けっぱなしだった。


「アクス様おはようございますわ。さぁ、御乗おのりになって♪」

「・・・はい」


(もう抵抗するだけ無駄だわこれ)


 アクスは観念かんねんして馬車の扉を閉める。


「えーっと、お話しとは・・・」アクスは不安そうに王女へ問いかける。

「はい、その・・・昨日クライムサミットの方々と何かありまして?」

「あぁ、あいつら少し生意気だったんで、ちょっくらシメてやったというか何というか・・・」

「まぁ!やはりアクス様でしたのね!感謝申し上げますわ♪」


 王女は嬉しそうにアクスをねぎらった。


 話を聞けば、元々アクスを護衛にする予定で指名依頼を出していたが反応がなく、エリシュナに到着した時点で「受注不可」の返答が来たため、仕方なく別の冒険者を雇ったとのこと。


(あぁ・・・竜国のギルドで受付した時の件だな)


 できればAランク以上が望ましかったが、その時ちょうど空いている冒険者はおらず、Bランクの男性は少し不安。そこで女性だけのBランクパーティーであるクライムサミットに依頼したらしい。


 しかし彼女らは女性とは思えないほど粗野そやで挑発的。王女にも嫌味を言う上、護衛対象であるダークエルフを露骨ろこつさげすむ言動も見られた。後悔しながらも今更戻ることはできず、我慢がまんしてここまで来たらしい。


(あっ・・・それでサロンで俺を見掛けて、あんなにキレていらっしゃったのね・・・)


 だが今朝になって態度は一変。挨拶も一応はきちんとし、ダークエルフへの態度も普通になった。特に一番言動が酷かった魔法使いのミニスが丸坊主になり、大人しくしている。その上、腕に抱かれていた影猫を異常に恐れていたため、何事かと兵士に確認したところ、アクスに関する話を少し耳にしたらしく、その事実確認のため呼んだという流れだった。


「さすがアクス様ですわ♪ たった一日であれだけのしつけを行えるなんて」

(躾って、犬じゃないんだから・・・王女も相当ご立腹だったみたいだな)

「いや、向こうが勝手にかかってきてやられただけですよ。戦ったのは影猫ですし」

「まぁ、それで・・・フフフ、あなたも助けてくれたのね。ありがとう、猫ちゃん♪」


 影猫は何食わぬ顔で「にゃーん」と鳴き、王女の膝の上で気持ちよさそうに眠り続けていた。

クライムサミットのダブルミーニング


 クライムはClimb(登る)、サミットはSummit(頂上)で、本来弱い女性でも地道に山を登るように努力を積み重ねれば頂上に到達できるという意味でこのパーティ名にしました。しかしクライムにはCrime(犯罪)という意味もあって、この場合犯罪の頂点(最悪の犯罪)という意味にもなってしまいます。結成当時は純粋に冒険者の頂上を夢見て努力していた少女たちが、何の因果でこのように擦れてしまったのか・・・最悪の犯罪、犯さないといいですね(フリ)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ