第61話:『幼姫を愛す老骨、竜姫を呪う骸骨』
毎日18時投稿!・・・予定です(なるべくがんばります)
扉を開けると、そこはこれまでの無機質な石室とは一線を画していた。壁一面には赤黒いルーンが刻まれ、中央には巨大な魔法陣が浮かび上がっている。その中心に立っていたのは――骨とボロ布で形作られた異形。だが、纏う魔力は禍々(まがまが)しくも規則的で、むしろ威厳すら感じさせる。骸骨の顔に、虚ろな青い光が灯る。
「・・・ふむ。ついに我が安寧の地へ踏み込む者が現れたか」その声は、乾いた骨の擦れる音に重なるようでありながら、どこか人の感情を宿していた。
「お前が・・・竜骸の魔導士か」アクスが低い声で問う。
「ほぅ、そう呼ばれているのか。我が研究の成果にふさわしい呼び名だな」魔道士は杖を揺らめかせ、背後の檻を示した。中には変わり果てた竜人たちが囚われている。
骸骨が両腕を広げる。だが、腕は二本ではなかった。肩口から伸びるのは四本の腕。それぞれに握られた杖は紅・蒼・翠・黄と四色に輝き、異様な存在感を放っている。
「我が名はザハーク・ネロヴァルド。かつてディアドラ竜国宮廷魔導師団を統べし者。そして竜姫セレナーデ様に、身も心も魂すらも捧げし忠実なる僕・・・」
「・・・宮廷魔導師団長? じゃあ、お前は・・・」アクスは眉をひそめる。
「そうだ。私はかつて竜人であった。あの麗しき姫に一目惚れし、王に幾度も婚姻を嘆願した。だが、ゼルヴァード王はそれを退けた。私の想いは踏みにじられ、やがて私は寿命を迎え、死んだ・・・」骨の顎が不気味に鳴る。
「だが・・・愛は死を越えた。私はアンデッドとして蘇ったのだ。姫を永遠の伴侶とするためになぁ!」
「・・・それで、何で手前の部屋で元同胞にあんな非道い仕打ちをしてるんだ?」アクスは怒りを抑えながら冷静に問う。
「貴様らが見た通りだ・・・。80年の歳月により肉は朽ちて骨のみとなったが、我は竜人を攫い、その身体と命を実験に捧げさせてきた。肉体を壊し、魂を削り、何度も”死”を与え・・・そして辿り着いた」
骸骨の眼窩に、冷たく青い光が宿る。
「――死の時刻を操る秘術。誰も逃れられぬ”死の宣告”を与える術をな!」
「・・・そんなことのために、どれだけの命を弄んだの」ヴァネッサが顔をしかめ、銃を構える。
「愚問だな。すべてはセレナーデ様のため・・・! 我が永遠の愛を捧げるためだ!」
ザハークは狂気に満ちた声で叫び、四本の杖を掲げた。
「だが王は我を退け、竜国は我を拒んだ・・・ならば竜国のすべてを呪いで縛り、絶望の中で姫を迎えよう! この術があれば、命すら思いのままよ!」
「ん?ちょっと待て、さっき80年って言ったよな?」
(ノア、竜姫っていくつだ?)
(現在85歳です)
(・・・意外と年なんだな)
(竜人の寿命は400~500年、人間の5倍と考えて下さい)
(じゃぁ85歳だと・・・人間で言えば17歳か、まぁ・・・いや待て待て!)
「・・・あんたが求婚したのって竜姫が何歳の時だ?」アクスが冷静に問う
「4歳だが?」
「人間だと0歳かよ!赤ちゃんじゃねーか!!・・・その時のアンタの年は?」
「・・・632歳じゃったかのう」
「ほぼ死にかけのジジイじゃねーか!てか求婚の1年後に死んでんじゃねーか!そりゃ王様も断るだろうよ」
「何を言うか!セレナーデ様は生まれた瞬間から美しく愛おしい存在であった。純真無垢な瞳で我を見つめる姿、我の指を小さき手で握りしめたその時、我と姫は永遠の愛を誓い合ったのだ!年齢など関係ない!」
「あるわバカが!・・・マジかよイカレてんなこいつ」アクスは呆れて力が抜けた。
「・・・おぞましい」カグヤが静かに剣を抜く。
「そんなの、愛なんかじゃない! ただの独りよがりの変態だよ!」エマは怒りに震え、叫んだ。
「・・・歪み切った重すぎる愛って、ほんっと迷惑よねぇ」ミレイユが小さく舌打ちする。
「黙れぇぇええええ!」怒号と共に、四本の杖が一斉に輝いた。
「さあ、貴様らも我が研究の糧となれ!」ザハークの青い炎が揺らめき、広間に禍々しい魔力が溢れ出す。
――そして戦闘が始まった。
「杖4つで基本全属性発動とはねぇ・・・なら私も本気出すしかないじゃなぁい!」ミレイユの瞳に妖しく光が宿る。
ザハークの詠唱は、もはや言葉ではなかった。杖が鳴動するたびに、元素の奔流が即座に顕現する。
「吹き荒べ――《天空の颶風》!」翠の杖が暴風を巻き起こし、アクスに迫る。
「ブレイクマジック・フレイムピラー!」ミレイユが杖で地面を叩くと、アクスの前に炎の柱が立ち上り、風を巻き込んでいく
「燃え尽きよ――《煉獄の火炎》!」紅の杖から溢れる火焔が奔流となって襲いかかる。
「フラッシュマジック・アイスブルーム!」ミレイユは杖を箒のように一払い、細氷を伴う冷気が放射状に広がり、炎を消し飛ばす
「水よ凍れ――《氷獄の鎖》!」蒼の杖が唸りを上げ、冷気が走り、全員の動きを封じるよう絡みつく。
「ガードマジック・ロックウォール」分厚い岩の壁が冷気を阻む
「大地よ穿て――《岩槍の嵐》!」黄の杖が輝き、無数の岩槍が床から突き出し、アクスたちを串刺しにせんと迫る。
「カウンターマジック・ウインドブラスト!」ミレイユが起こす突風は岩槍を巻き込んでロックブラストとなって魔導士に跳ね返る
「ぐおぉぉぉ!」ロックブラストを食らい怯むザハーク。
「・・・はい、相殺っと!」
風には火を、火には水を、水には土を、土には風を。弱点属性をぶつけ、ザハークの魔法は轟音と共に霧散した。
「そろそろこっちからも攻めるわよぉ、エレメンタルマジック・クアッドアローズ!」4属性の魔法の矢が大量にザハークに振り注ぐ。
「クワドラプルエレメントバリア!」ザハークは全杖を合わせ、4属性の4重のバリアを展開。魔法攻撃を弾く。
「スーパーラピッドショット!」ヴァネッサは無属性の魔弾を高速連射、骨を少しずつ砕きながら耐久値を下げる。
「全てを凍り裂け――《刃氷の竜巻》!」鋭く尖った氷の刃が巨大な竜巻に巻き込まれながら襲い掛かる
「――っぶねぇっ!」アクスは守りの体制に入るが為す術が無い。
「アクス様っ!」エマが咄嗟に防御結界を張り、氷の刃がアクスを切り裂くのを防いだ。
「守りに入ったな、闇に飲まれろ――《漆黒の咆哮》」魔導士の口から大量に闇エネルギーが放出され、全員の体を蝕む。
「ぐっ・・・なんだこれは」闇に触れた部分が焼けるように熱い。
「グハハハハハ、4属性だけだと思って油断したか!我は5属性を扱えるのだ、闇はアンデッドの専門なのでな!」ザハークは上機嫌だ。
「みんな、無茶しないで! 私がちゃんと回復するから!」その声に応じるように、聖なる光が戦場に降り注ぎ、負傷が瞬時に癒えていく。
ザハークの青い眼光がエマに注がれる。「・・・聖なる輝き・・・忌々しい。貴様こそが、我が術の天敵か」
「そうよ。あなたみたいなのを浄化するために、私はここにいるの!」
エマが両手を掲げ、聖光を放つ。その光はザハークの骸骨を焼くように照らし、苦悶の呻きが漏れた。
「がぁぁ・・・!」闇の存在に聖属性が一番有効のようだ。ザハークの闇のオーラが薄れていく。
「死に果てよぉぉ!エレメントコンプレッション・ボム!」ザハークは全杖を掲げ、灼熱・烈風・豪水・大地を同時に叩きつけた。4つの属性が一点に圧縮され大爆発を起こす。
アクスとヴァネッサはエマの結界で防御、ミレイユが吹き飛んだがダメージは微小、カグヤがダメージを負ったがエマが即座に回復。
ヴァネッサが一歩退き、白い長銃を展開した。
「・・・さあ、見せて頂戴」銃身は細く長く、魔力が収束するごとに禍々しい光が集まっていく。
「《ペネトレイター》起動、目標確認、発射準備完了・・・」
「おぉ・・・完成したのか?」アクスが眉を上げる。
「ええ。カルバリアンを手に入れてくれたおかげで完成した、貫通特化の新しい相棒よ」ヴァネッサは冷徹な表情でスコープを覗き、ザハークの心臓部コアを狙う。
「カグヤ、一瞬でいい、隙を作って」
「承知!」その瞬間、カグヤが踏み込む。
「我が飛び断つ斬撃、その先には鳥も無し、飛閃・鳶断!」
ヒュヒュッという音が聞こえた後、大きな鳥の形の斬撃が高速でガルザーに突き刺さる。刹那の間に術が切り裂かれ、ザハークの四重防御に裂け目が生じる。
「今!」ヴァネッサが引き金を引いた。ペネトレイターから放たれた光弾は、一直線に走り抜けた。空間を裂き、数枚の防御結界を粉砕し、ザハークの心臓を穿つ。
「――ぐぅっ・・・!」
骸の身体が大きくのけぞり、目の蒼い光が揺らいだ。だが、すぐに再生が始まる。砕けた骨が寄り集まり、みるみる形を取り戻していく。
(まだ終わりではありません、頭部にもコアがあります)ノアが念話で報告。
「ふふ・・・素晴らしい武器だ。だが・・・我が永遠を絶つことはできぬ!《四重共鳴》!」四本の杖が再び高く掲げられ、禍々しい魔力が空間を震わせる。
「くっ・・・ちょっと、本気で面倒くさいわねぇ」ミレイユが奥歯を噛みしめる。
「エマ!」
「任せてっ!」
エマが前に飛び出し、両手を広げる。「《セイクリッド・シェル》!」光の壁が即座に展開し、仲間を覆った。炎も氷も、聖光の結界に触れた途端に消し飛ぶ。
「はぁっ・・・危なかった・・・」エマの額には汗が滲んでいた。
「小娘風情が、我が術を退けるか・・・!」ザハークの蒼い光が怒りに揺れる。
「ほらほらぁ? 小娘だけじゃないわよ、全属性即発動のお姉さんもいるんだからぁ!」ミレイユが笑いながら挑発する。
火、風、土、水。次々と魔法を繰り出し、ザハークの術に干渉し打ち消していく。
「ぐぅぅ・・・!」ザハークの魔法陣が軋む音を立てて崩れていく。
ヴァネッサは冷静にペネトレイターを構え直し、再び狙いを定める。
「アクス様、今度は頭を撃ち抜きます。合図を」
アクスは腕を組んだまま頷き、静かに声を放つ。
「カグヤ、もう一度頼む」
「承知」カグヤが刀を前に向け、体を引きぐっとか構える
「我が刃刺すは天空、その先には雲も無し、飛閃・天穿!」カグヤが刀を斜め上に突き出す。その刃先から収束された斬撃がザハークの顔面に向けて飛んでいき、頭蓋の前面がパァンと割れた。頭蓋中心部分にあるコアの魔石が露出する。
「そこ!」ヴァネッサが引き金を絞る。
轟音と共に光弾が走り、今度はザハークの頭蓋のコアを正面から貫いた。粉砕された魔石の破片が宙を舞い、蒼い光が弾け飛ぶ。
「やったかしらぁ!?」ミレイユが叫ぶ。
だが、ザハークの後方の大きな魔石から再び光が集まり、頭部を再構築し始めていた。
「永遠の命を侮るなぁぁぁ!」声は怒りに満ち、魔力はさらに増していく。
エマが唇を噛みしめる。「・・・完全に消し去るには、聖なる力をもっと・・・」
アクスが冷静に告げる。「エマ、次で決めろ。お前しかできない」
エマの瞳が揺れる。だが、仲間の背中を見て、深く頷いた。「・・・うん。みんな、私に合わせて!」
ミレイユが肩をすくめる。「しょうがないわねぇ、舞台は整えてあげるわよぉ」
カグヤは無言で剣を構え、ヴァネッサは二丁魔銃に持ち換えて牽制する。聖なる光がエマの身体を包み込み、空間そのものを震わせるほどの輝きとなって広がった――エマの身体から溢れる光が、広間全体を満たしていった。まるで昼の太陽が地下に差し込んだかのように、闇を払い尽くす。
「や、やめろ・・・! それは・・・聖なる輝き・・・!」ザハークが後ずさる。骨の軋む音が響き、蒼い光が揺らいでいる。
「・・・セレナーデ様・・・我が愛を、奪った王よ・・・! この永遠を、否定するなぁぁ!」
四本の杖が一斉に掲げられ、火・風・土・水の魔法が同時に展開される。
「来るぞ!!」アクスが声を上げる。
「――行かせない!」ミレイユがすぐさま弱点属性で応戦。火には水、土には風。瞬時の詠唱と放出で、魔法陣の激しい相殺の衝撃が広間を揺らす。
「この私と魔法勝負ぅ? 千年早いわぁ!」彼女の声は笑っていたが、額には玉の汗が浮かんでいた。
その間にカグヤが走る。剣閃が閃き、四本の杖が叩き落とされた。骸骨の指が折れ飛び、ザハークの動きが鈍る。
「エマ、今だ!」
「・・・はい!」聖女の小さな体を包む光がさらに強くなり、彼女の両手の前に巨大な魔法陣が展開した。
「《セイクリッド・レクイエム》――!」
眩い奔流が一直線に走り、ザハークの全身を呑み込む。骨を纏う瘴気が焼き尽くされるように光に溶け、蒼い輝きが断末魔のように空へと散っていった。
「ぐぅああああぁぁぁぁ・・・! 我が・・・愛は・・・! 永遠に・・・ぁぁぁ――」
「あぁ、最後に言っておいてやるが、お前死んだの80年前だろ?姫はもう85歳だぞ」
「なにぃ!?そ、そんなバカな!・・・う、う、嘘だぁぁぁぁー・・・」
その叫びを最後に、魔導士ザハークの魂は塵となり、骨だけを残し消え去った。
「・・・成仏しやがれ変態骨野郎が!」
人物紹介:竜人騎士団
三騎士:剣騎士クラン、槍騎士ヴォルフ、槍騎士サイラス
竜人の男性、125歳前後、7割くらい竜の見た目、全員Aランク、王都の学園の幼馴染で、当時は3人でトップ3を争っていた。各々国内で要職に付き、国の為に働こうと誓い合っていたが、ある事故に巻き込まれた歳にガルザ―に助けられ、その勇姿に陶酔し、弟子入りを志願。エリートの道を捨て冒険者になる。優秀故に引き際を理解している反面、ここぞという時の一歩が進めず、Sランクを突破出来ずにいる。今回アクスの提案による戦力強化で自信が付き、Sランクの道を目指している。
見習い:リザードマン2人
まだ羽が生えていない未成熟の子供、野営や物品管理、竜車の管理、御者などの裏方担当。アクスの提案で竜車を買い、3騎士の親戚の子供である彼らが御者として採用された。あまり本編で活躍することはない・・・はず。
人物イメージ画像一覧はコチラ
https://ncode.syosetu.com/n1501lc/
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