第56話:『リオルの魅力、カグヤの秘密』
毎日18時投稿!・・・予定です(なるべくがんばります)
アークの中央ラウンジ、一番奥の大きなソファー。そこはアクスの定位置であり、今日も彼はそこに腰を落ち着けていた。
「おかえりなさいませ、ごしゅじんしゃまー!」
幼いエルフの子どもたちが、わらわらと集まってくる。まだ舌足らずな子は「ご主人様」と言えず、「ごしゅじんしゃま」と発音するのが微笑ましい。ノアと美従士たちも、幼竜リオルを見にやって来ていた。
リオルは神竜の子ではあるがまだ産まれたばかり、藍色の光沢ある鱗、黒くて丸い目、全体的に細身で首は少し長く、頭部はまだ角や牙が生えておらず丸くつるっとしている。爪は少し尖っているがまだ短く、指先の皮に埋もれているのでさほど痛くはない。頭から尻尾の先までは40cm程、翼長も同じくらいだ。少しお腹の部分がぽっこりしていて、ぷにぷにと触り心地が良い。体重は軽いので頭や肩に乗っている分には特に支障はない。
最初に一歩前に出たのは、ヴァネッサだった。彼女は柔らかな笑みを浮かべて片手を差し伸べる。
「こんにちは、小さなお仲間さん」その穏やかな声音に誘われるように、リオルはひょいとヴァネッサの手に飛び乗った。驚くほど軽やかで、温もりのある重みが手のひらに伝わる。
ヴァネッサは翼を顕現させ、大きく広げて見せる。リオルは目を丸くし、負けじと小さな翼をぐいーっと広げる。
「まぁ、お揃いね♪」
ヴァネッサはリオルを顔の高さに持ち上げ、間近で見つめ合った。
「・・・」リオルは小さな瞳でじっと見返し──次の瞬間、控えめにぺろりとヴァネッサの鼻を舐めた。
「くすぐったい・・・♪」彼女は思わず笑みを零し、そして囁くように言った。
「あら、気に入られたかしら。私も、あなたのこと好きよ」そっと口元を近づけ、リオルの口に小さなキス。
その瞬間、リオルは「ぴゅぅぅぅ・・・!」と情けない鳴き声を上げ、翼をだらんと垂らして照れているようだった。
「あらぁ、可愛い反応ねぇ、私もチューしてあげようかしらぁ?」覗き込んできたのはミレイユだ。艶やかな瞳でにやりと笑う。
「リオルがそちらを向いた瞬間、その身からほとばしる古代竜の波動を感じ取ったのか、目をぐるぐる回しながら硬直してしまった。
「どうしたのかしらぁ?ほーら、優しいお姉さんよぉ?」ミレイユは爪先で輝く鱗をなぞりながら、艶やかな声を落とす。
「でも・・・この鱗の光沢、たまらないわねぇ。食べちゃいたいくらい可愛いわぁ♪」
「ぴぃぃっ! ぴぃぴぃ!」リオルは身の危険を察したのか、必死に鳴き声を上げてアクスの方に視線を向ける。
「ちょっと、怖がらせないで」ヴァネッサがすかさずリオルをミレイユから遠ざけると、リオルは胸元に顔をうずめて小さく震えた。
「わぁっ! 可愛い〜〜!!」次に駆け寄ったのはエマだ。目をきらきらと輝かせ、両手を差し伸べる。
「抱っこしてもいい?」ヴァネッサからリオルを受け取り、そっと胸に抱き上げる。
「つるつるすべすべ、きもちいい〜ですぅ♡」頬ずりしながら完全にデレデレ。
エマが抱いた事でエルフの子供たちも手が届く位置になった。周りに集まり、リオルをやさしく撫でる。小さな指先が鱗の隙間をくすぐると、リオルは「ゴロゴロ・・・」と子猫が喉を鳴らすような音を立てて上機嫌になった。
しばらく、皆でじゃれあう。リオルは何でも興味津々、代わる代わる髪や羽、服をカリカリつつき、皆も遊び相手になる。止まることなく探検を続けた。
その中で、カグヤだけが壁際に控えたまま静かにしていた。
(ドラゴンが苦手だったか?それとも・・・最近冒険に連れていかないから拗ねてるのか?)アクスは首を傾げる。
そして、もう一人。ノアは・・・じぃっとリオルを凝視しながら、にやりと笑みを浮かべていた。・・・おいノアさんや。リオルの事を良い素材、いや研究対象ですねとか考えてそうな顔やめなさい。
リオルの入浴を他の子達に任せ、アクスも一人で風呂へと向かった。湯気に包まれる落ち着いた空間で、遠くから聞こえる女子たちの「きゃいきゃい」とはしゃぐ声が耳に心地よく響く。
「・・・なんだかんだで、あいつもすっかり人気者だな」肩まで湯に浸かりながら、アクスは苦笑した。
アクスがのんびり入浴中、ラウンジには風呂場でもさんざん遊んで満足気にソファーで寝そべるほかほかのリオルと、それを静かに見つめるカグヤ。彼女はゆっくりと近づき、リオルを無言で見つめる。カグヤに気付き見つめ返すリオル。カグヤの手はリオルに伸び・・・。
ゆっくりと風呂を済ませてラウンジへ戻ると、皆はすでに食事の準備を進めていた。テーブルの上に食器が並び、手際よく料理が運ばれていく。・・・だが、ふと気づく。
「・・・あれ、リオルは? カグヤもいないな」まだ入浴中かと思ったが、声をかけても返事がなく、中を確認しても姿が見えない。ラウンジにいるか?
(あの二人っきりじゃ・・・カグヤが気まずいんじゃないか?)そう思い、少し焦りながら足を速めて探しに行く。
「おーい、カグヤ。リオルがこっちに──」扉を開けてラウンジを覗いた瞬間、アクスは思わず固まった。
そこにあった光景は──ラウンジ中央で横たわるカグヤの姿・・・
・・・というか、寝そべるカグヤ。その腕に抱かれているのは・・・リオル。
「ん〜よちよち♡ リオルちゃんでちゅかぁ〜? かわいいでちゅねぇ〜♡ は〜い、こっち見てくだちゃい♡ おめめくりくりできゃわわ〜♡ はゎー、つんつんしたら『ぴぃ♡』って! たまらないでちゅぅ♡ ほっぺすべすべで、かぷって食べちゃいたいくらいかわいいでちゅぅ〜♡ あ〜ちっちゃいおててでぎゅって掴んできたぁ♡ きゃ〜♡ しっぽぶんぶんしてるぅ♡ なんなのぉ〜その反応〜〜♡ お姉ちゃんメロメロでちゅぅ〜♡ はぁ〜ん♡ ごろごろ~ってしてるぅ♡ あら~、おなか見せてくれるの〜? ぷにぷにでちゅね〜、も〜信じられない可愛さでちゅ♡ きゃっ、お鼻ぺろってされちゃったぁ♡ あ〜もうだめ、溶けちゃいそう♡ リオルちゃ〜ん♡ 世界でいちばんかわいいでちゅぅ〜♡ もう離したくないでちゅ〜♡」
普段の冷静沈着な剣士の面影はどこにもない。聞いたこともないような高い声で、まるで赤子をあやす母親の・・・よう・・・か? リオルを抱きしめて頬ずりしている。リオルも嬉しそうに「ぴぃ〜♡」と鳴き、短い尻尾をぶんぶん振り回していた。
(・・・え、カグヤ?)
さらにカグヤはリオルを両手に持ち、ころころ転がったり、真剣な表情で間近に見つめ合ったり──もう完全に溺愛している。しばらく呆然と見ていると、不意にカグヤと目が合った。
「・・・」短い沈黙が流れる。
その瞬間、カグヤはシュバッと姿勢を正し、表情を凛と引き締め、アクスにリオルを差し出す。
「アクス様。湯あみ中のリオル殿のごっ護衛を・・・させていただいておりました」
さっきまでの甘い声は跡形もなく、いつもの涼やかな声音。だが、顔も耳も真っ赤だ。カグヤの突然の変わり様に手の上のリオルが「ぴぃ?」と首をかしげる。
「あ、あぁ・・・ありがとう」受け取ったアクスもどこか気まずく、笑うしかなかった。
ラウンジには妙な沈黙が流れたが──リオルが小さくあくびをして、その場をふわりと和ませた。
差し出されたリオルを見ると、腰にパンツを履いている。パンツというか、オムツのようだ。
(今すぐトイレトレーニングというのも難しいでしょうし、その辺でされても困りますので、とりあえずの対策です。中身は即座に転送されますので、履き替えも必要ありません)
ノアの念話。さすが抜かり無い。
(それに、ドラゴンの排泄物は貴重な・・・いえ、何でもありません)
・・・やっぱ研究対象として見てるな・・・。
カグヤとリオルを連れて食堂に戻ると、すでに食卓には香ばしく焼かれた肉料理、彩り鮮やかな野菜の盛り合わせ、湯気を立てるスープ、そして果実酒の瓶が並んでいた。
「いただきます!」
食べる前の挨拶だ。今ではすっかり馴染んでいる。思えば前世より言う頻度が多い気がする。エルフの子供たちはきちんと背筋を伸ばし、行儀よく食べている。ノアが教え込んだ「食育」の成果がしっかりと根付いているのだろう。一方で美従士たちは、自分の食事はそこそこに切り上げ、甲斐甲斐しくリオルの世話に回っていた。
「ぴぃ!」リオルが好奇心に任せて、湯気の立つスープに顔を突っ込みかける。
「ちょ、こらっ!」ヴァネッサが素早くナプキンを差し出し、顔や鱗をぬぐってやる。
「危ないでしょ?熱いものは順番にね」
その声音は叱責というより、すっかり母のような優しさを含んでいた。
「竜は魔力で育つものですから、魔獣の肉が最も理に適っています。ただし、生まれたばかりの今は骨や硬い部分の消化は負担になります。まずはしっかり加熱した魔鳥の肉を与えるのが良いでしょう」
ノアは涼しい顔で解説を始め、七面鳥より少し大きな魔鳥?の丸焼きから骨を抜いている。まるで講義のように理屈を並べながら。
「切り分けならば、私の専門だ」カグヤが横から静かに手を伸ばすと、器用に肉を切り分け、リオルの小皿に移していった。表情は相変わらず無骨だが、その仕草はどこか保護者めいている。
「私がたべさせますぅ!」エマが身を乗り出し、両手で小皿を受け取ると、笑顔いっぱいにスプーンを構えた。
「はい、あーん♡ですぅ」差し出された肉をリオルがぱくぱくと食べると、目を細め、幸せそうに小さく鳴いた。
「ぴぃぃ・・・」その声にエマも頬を染め、恍惚の表情を浮かべる。
「ふーんだ・・・神竜を解決したのは私なのにぃ・・・」少し離れた席で、ミレイユがワイングラスを片手にぼそりと呟き、口を尖らせてぶーぶー拗ねている・・・あとで労ってあげないと。
その様子を眺めていたアクスが、ふと苦笑交じりに漏らす。
「・・・なぁ、別にいいんだが・・・みんなちょっと過保護過ぎじゃないか?」
「え?あっ」
「い、いえ、その・・・」
場に一瞬の静寂が走ったのち、誰からともなく吹き出した。
「ふふっ」
「はははっ!」
「だって可愛すぎるんですもーん!」
笑い声が食堂に広がり、幼竜リオルを中心に温かくにぎやかな空気が広がっていった。
リオルの戦力
産まれたばかりのリオルはまだ十分な戦闘はできません。竜は長生きの所為か成長は遅く、成熟するまで数百年かかります。飛んだり火を吐くくらいなら数ヶ月で出来るようになりますが、アークの戦力に数えるのは難しいですね。暫くはマスコットキャラ的な位置ですが、アクスも基本戦わないので頭の上に乗っている分には特に影響ありません。今後成長するに連れ神竜の片鱗が垣間見える事でしょう。
人物イメージ画像一覧はコチラ
https://ncode.syosetu.com/n1501lc/
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引き続き次回作もお楽しみ下さい♪




