第55話:『竜人の街、竜王の涙』
毎日18時投稿!・・・予定です(なるべくがんばります)
王都へ近づくにつれ、道は石畳へと変わり、両脇には高い石壁と塔が並ぶ。遠目にも荘厳な姿を誇るのは――ディアドラ竜国の王都。幾重にも張り巡らされた防壁の向こう、空を切り裂くようにそびえる尖塔群。その影には、市場の喧騒と竜人たちの活気が満ちていた。
「・・・おぉ、こりゃすごいな」アクスは思わず見上げ、声を洩らす。
街には、ガルザーの村と同じく竜人ばかりが暮らしていた。だが、彼らの姿は一様ではない。ガルザーのように竜そのものに近い姿を持つ者もいれば、人間とほとんど変わらない姿で、角や鱗だけを残している者もいる。
「竜人といっても形は様々だ。生まれつきの差もあるが、人によって竜寄りにも人間寄りにも形を変えられる。竜人は翼が生えてようやく一人前、うちの見習い2人のように翼が生える前の若き者は蜥蜴人と呼ばれる」隣を歩くガルザーが淡々と説明する。
アクスは「リザードマン」という言葉に首を傾げると、ガルザーは苦笑して付け足した。
「未成熟の竜人を蜥蜴と呼んでも愚弄ではない。ただし成熟した竜人に向かって“蜥蜴野郎”などと言ったら人間の大人に“クソガキ”と吐き捨てるのと同じことよ。・・・まぁ、たいていはじゃれ合いという名の喧嘩に発展するがな」
「へぇ・・・なるほど」
やがて一行は、冒険者ギルドの建物に足を踏み入れた。ギルド内は広く、石造りの柱の間を多種多様な竜人たちが行き交っている。ガルザーが姿を見せるや、ざわめきが広がった。
「至竜ガルザー様だ!」
「戻られたぞ、英雄が!」
歓迎の声が飛ぶ一方で、彼の後ろに続く竜王騎士団の若手たちやアクスには、耳障りな陰口も投げかけられる。
「英雄様に腰巾着がついてるぜ」
「盾に隠れて震えてるだけの役立たずがよ…」
「見ろよ、お荷物が荷物持ってやがるぜ…なんてな!ギャハハ」
アクスは眉をひそめ、不快さを隠さなかった。だが、団員たちは気に留める様子もない。むしろ蜥蜴人の見習い二人は「当然の評価」と言わんばかりの顔をしている。その一方で三騎士は「新技でその内見返してやる」と拳を握りしめていた。
受付で待っていたのは、一人の竜人女性だった。名をライラという。彼女はほとんど人間と変わらない容姿だが、額の小さな角と、衣服から覗く鱗が色香を漂わせる。鱗を隠すのではなく、むしろ誇示するような服のデザインに、アクスは目を逸らした。
「あぁ~ん♡・・・英雄ガルザー様あぁん。お帰りなさいませ♡」ライラは笑みを浮かべ、ガルザーにしなやかに身を寄せる。
「・・・え、人間?・・・受付はこちらにどうぞ」一方でアクスに向けられた視線は冷たく、事務的だった。
アクスは小さくため息をつき、必要な書類を差し出した。ギルドがある街に入った冒険者は、その街のギルドでなるべく受付を済ませるのが決まりだった。理由は、生存報告と滞在記録。そして、見知らぬ街でトラブルに巻き込まれた時の支援、さらには伝文のやり取りを可能にするため。
受付を終えた後は、従魔の登録。リオルが机の上にちょこんと乗せられると、ギルド内は再びざわめきに包まれた。
「あれが噂の・・・神竜の子か・・・!」
「本当に人間が飼うのか・・・?」
驚愕と羨望の混じる視線を感じる。
「従魔登録は完了しましたけど、本気で飼うんですか?竜の従魔なんてギルド始まって以来初めてだと思いますけど・・・とりあえず国内での飼育は問題ありません。ただし国外に連れ出すには国の許可が必要となりますね」
手続きを終えたライラが無愛想に言い放った。
(え・・・竜の飼育って実はけっこうヤバい?)アクスはライラの言葉に少し動揺する。
「ちょうどよい。どうせ竜国王に謁見するのだ。その折に、この件を今回の褒美として願い出よう」ガルザーは迷いなく言い切った。
「え? いやいや、騎士団の手柄を俺が貰う訳には・・・」アクスは困惑する。
「我は我の家族の為に動いただけ、妹の治療は我々だけでは成しえなかった事だ。遠慮するな。それに――ここだけの話、無理やり引き離してまた神竜が暴れたらどうする。これは我々自身の為でもあるのだ」
ガルザーの真剣な眼差しに、アクスは「・・・たしかに」とうなずいた。
「あぁ、あなたアクスさん?指名依頼が来ていますけど」ライラが伝文の内容を伝える。
「え、内容は・・・?」
「アルケシア王都から森国までの護衛みたいですね、期間は・・・本日からのようです」
「今日からって・・・方向真逆ですし、竜国王に謁見で呼ばれているので無理ですね」
「そうですよね、じゃぁ状況伝えておきます」ライラは無愛想だが仕事はできるようだ。
その後、ガルザーの案内で竜国王都で一番の高級料理店に行く。
店内に一歩足を踏み入れると、まず視界を圧倒するのは壮麗な内装だった。
天井からは巨大な水晶のシャンデリアが吊るされ、虹色の光を反射して床に七色の模様を散らす。壁には竜を模した彫刻や絵画が並び、テーブルクロスは白銀の刺繍入り、椅子の背もたれには赤い絨毯のような布地が掛けられている。
香ばしい肉や香草の香りが鼻をくすぐり、否が応でも食欲を刺激する。
「お飲み物はいかがなさいますか?」
黒服の店員が丁寧に訊ねると、アクスは視線をガルザーに向けて軽く頷いた。
「では――竜王の涙とブレスウォーターを人数分頼む」
「畏まりました」
「おいおい旦那よ、任せるとは言ったが・・・竜王に涙を流させて、それを飲むのか?」
アクスが思わず怪訝な表情を浮かべる。
「ん? ハッハッハ! そんな訳あるか! 酒の名前だ、安心せい!」
ガルザーは腹を揺らして豪快に笑った。
「・・・あぁ、そういうことね。で、ブレスウォーターってのは?」
アクスが眉をひそめつつ尋ねると、ガルザーはさらにニヤリと笑った。
「む? 知らんのか? なら飲んでからのお楽しみよ」
ガルザーだけでなく、騎士団の面々まで揃って意味深に口元を歪める。
その後、ガルザーが聞いたこともない料理名を次々とオーダーしていく。
次第にテーブルには、香草で包まれた亜竜肉のロースト、黄金色に輝くスープ、亜竜卵を使ったふわりと膨らむオムレツ、さらに火を吹きそうなほど辛い真紅の煮込み料理など、王都の名物が次々と並べられていった。
そして、各人の前に大小二つのグラスが置かれる。
一つには琥珀色に輝く「竜王の涙」、もう一つには透明に澄んだ「ブレスウォーター」が注がれていた。
「では、皆ご苦労であった! 今宵は好きなだけ飲み食いしてくれ!」ガルザーがグラスを掲げ、豪快に煽る。
アクスも仕方なく合わせて竜王の涙を一口――。喉が焼けるような衝撃が走り、思わず眉をしかめる。まるでテキーラのショットのようだ。
「くっ・・・これは効くな」
「ハッハッハ! なかなかだろう! そこでこれだ!」ガルザーはすぐにブレスウォーターを一口。
「・・・ブハァーッ! これだこれだ! 国に帰ってきたぞぉ!」上機嫌で大声を上げるガルザー。
(いや、ついこの前実家に帰っただろ・・・)アクスは心の中で冷静に突っ込む。
アクスも恐る恐るブレスウォーターを口に含む――。
(・・・って、ただの炭酸水じゃねーか!!)
冷たく爽やかな喉越しが、強烈な酒の後にたまらなく合う。
「どうだ、竜国自慢の酒と爽やかなブレスウォーターの味は」
「あぁ、いいね、でも何でブレスウォーげふっ・・・」
「はっはっは!それだ!この水は飲むとブレスを吐くからブレスウォーターなのだ!」
(ただのゲップじゃねぇかよ。まぁ炭酸水なら当たり前か)
まさか異世界でテキーラショットとチェイサーソーダのコンボを体験できるとは思わなかった。だが――これには足りないものがある。
「店員さん、ライムと塩をお願いできますか」
「ライム?肉にかけるのか? 変わっておるな。それに塩など・・・この店の料理の味付けは完璧だぞ」ガルザーは少し不機嫌そうに眉をひそめる。
「まぁ、来てのお楽しみさ」アクスはニヤリと笑った。
カットされたライムが運ばれてくると、竜王の涙を一気に飲み干し、塩を軽くつけたライムを齧る。
「・・・くぅ~! これこれ!」
思わず前世の記憶が蘇り、懐かしさに胸が熱くなる。ブレスウォーターで口を整えれば完璧だ。
「旦那もやってみ? 飛ぶぜ?」
促されたガルザーも恐る恐る真似てみる――。
「・・・なっ! これは! うまいな! 無限に飲めそうだ!」
どうやらすっかりお気に召したらしい。
周囲の客たちも「同じものをくれ!」とライムと塩を注文しはじめ、店内はちょっとした騒ぎに。
そんな中、クランが浮かない顔でブレスウォーターのみを飲んでいる。竜王の涙は口につける程度で、ちびちびと飲んでいる。
「なんだクラン、団長の奢りなんだから遠慮せず飲めよぉ」アクスは少し酔って絡み酒を始める。
「い、いや。酒は好きなんだが、強いのは少しな・・・」クランは酒に強くないようだ。
「我らに無理して合わせなくても良いのだぞ、エールでも頼むといい」ガルザーは優しく諭す。
「いえ、実はエールの苦みもあまり得意ではないのです、酒の香りと味は好きなんですが」
酒の飲み方に悩んでいるご様子のクラン君、しかし、地球という異世界にはそんなお悩みを一気に解消する飲み方がある!
「じゃぁ、こんなのはどうだ?」
アクスはブレスウォーターの中に竜王の涙を注ぎ、ライムを絞って一回し、ぐびぐびと飲んだ後・・・
「ぷはーっ!これこれ!ちきゅ・・・故郷に帰ってきたようだ!」
「・・・う、うまそうだな、よし、やってみよう」
クランはブレスウォーターの中に竜王の涙を注ぐ。気泡が弾ける度に酒の香りがふわっとあふれ、そのまま飲むよりも更に広がっていく。ライムを絞り一回し、恐る恐る口に運ぶ。ごくごく・・・ごくごく・・・一気に飲み干した。
「ぶはーっ!なんだコレ超うまいぞ!全部が一気に流れ込んでくる!!」
興奮気味のクランを見て、他のメンバーも後に続く。英雄の絶賛する姿に、周りの客も追加で注文する。
「こんな飲み方は初めてだ!とても飲みやすく香りも高い。これは貴殿の故郷に伝わるものか?」
アクスは返答に困る。ハイボールとか言っても伝わらないし、正直意味も知らない。
「まぁ、ここ発祥って事でいいんじゃないか?名前は・・・そう!まさにドラゴンブレスだな!」
「竜のブレス・・・はっはっは!まさしくそうだ!ドラゴンブレス、気に入ったぞ!」
こうして異世界の高級料理店に新しい酒の飲み方<塩ライムショット>と<ドラゴンブレス>が伝わり、後に一大ブームを巻き起こすことになるのだった。
しばし竜国の誇る美酒とご馳走に舌鼓を打つ。
竜王の涙の余韻と炭酸のきらめきに酔いしれつつ、竜都の夜は星々とともに、静かに幕を下ろしていった。
――移動が早すぎたので、謁見の予定まではまだ三日ある。
「それまで竜国王都を見物するといい」ガルザーは言い、騎士団員たちは「実家に帰る」と一旦解散していった。
アクスは安宿に一人部屋を借りると、リオルを抱えてベッドに倒れ込み――
「・・・ふぅ、やっと一息つけるな」呟きながら、アークの拠点へと帰還した。
テキーラの飲み方
本場の飲み方はまず手の甲(親指と人差し指の間)を舐め、そこに少量の塩をつけます。塩を舐めた後、すぐにテキーラをショットグラスで飲み干し、最後にライムをかじって口の中をさっぱりとさせます。炭酸水等のチェイサーを飲むのは初心者です。しかも長期熟成された本当に高級なテキーラは味や香りを楽しむ為、ただストレートでゆっくり飲むのが王道です。が、本人が飲みやすく美味しく感じれば飲み方なんて何でも良いですよね!
ちなみにライムに塩をつけてあとからまとめてかじるスタイルは両者のいいとこ取りで、比較的若い方の飲み方です。テキーラの風味を存分に味わいつつ、焼けた喉をライムで潤し、塩で舌を麻痺させ、苦い後味をリセットします。これで永遠に一杯目を飲み続ける事ができるのです。(お酒は20歳になってから!)
人物イメージ画像一覧はコチラ
https://ncode.syosetu.com/n1501lc/
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引き続き次回作もお楽しみ下さい♪




