第52話:『舐め喰らう魔人、面食いな精霊』
毎日18時投稿!・・・予定です(なるべくがんばります)
――泉の奥地は、もはや聖なる気配など欠片もなかった。腐った泥沼のような匂いと、甘ったるい粘液の臭気が混じり合い、吐き気を催すほどの悪臭が漂っている。
「うっ、臭っさ!何だここ、聖なる泉じゃないのか?」アクスは酷い悪臭に吐きそうになる。
「まるで泥沼、いや毒沼だな・・・ん?何かいるぞ」ガルザーが沼の中央の何かを目視する。
そこにいたのは――粘土を捏ねて歪ませたような巨体。肥大した腹は弛んだ肉で波打ち、皮膚の隙間からは常に黒いヘドロが滴っていた。
(きんも・・・何あれ、ノア、鑑定して)
(畏まりました。序列268104位、魔人種族名:ダーティクレイマンですが、湖の特性と精霊の魔力を取り込みダーティスワンプマンに進化したようです。)
「魔人かよ・・・ん、手に何か持ってるぞ・・・」アクスは魔人の手元に注視する。
その手に抱かれていたのは、透き通るように白い羽衣を纏った少女――泉の精霊だ。
「んっふぅぅ・・・かわいい・・・かわいいねぇ・・・♡ きみはぼくの天使たんだぉ・・・! おぉぉ、舐めるとあんまぁぁい・・・舐めるほどぼく好みになぁるぅ・・・♡」
魔人はだらしなく突き出た舌で、精霊の頬をベロベロと舐め回していた。
少女は既に糸が切れた人形のよう、震えもせず、抵抗もせず、虚ろな表情で異様にベトついた腕に押さえつけられている。ただ、口元から微かに抵抗の声が聞こえる。
「いや・・・やめ・・・やめて・・・!」
「いや? ふふふ、いやって言う顔がいっちばーんかわいいんだぁぁ・・・っ♡」
魔人は耳をつんざくような声を上げて笑い、さらに粘着質な愛撫を繰り返す。その巨体の隙間から、ぬらぬらと蠢く無数の小さな触手が生え出し、精霊の体を絡め取ろうと這い回る。
(土属性の魔人か・・・水属性の精霊には相性最悪だな)属性相関的に水は土に弱い。
アクスたちは息を呑んだ。その異様さ、その卑劣さ。――生理的な嫌悪が全身を突き抜ける。
「・・・っ、ゲロ以下だな、おい魔人!精霊から手を離せ!あと臭ぇ!」アクスが吐き捨てる。
「だっ、誰だぉ!? ぼくの天使たんに近づくなぁぁぁ!!」
ベルグロスの濁った眼がぎょろりとこちらを向いた。刹那、アクスが囮に立ち、魔人の注意を引いた。
「天使?精霊よだバカ野郎!それにその子はお前のじゃねぇ!キモクサデブヨゴレ沼男にゃ似合わねぇよ、早く精霊を解放して死ね!」
「はぁぁぁ!?!? お、おまえなんかにぃぃぃ・・・! ぼくの天使たんはわたさないのぉぉぉ!!」
舌を垂らし、精霊をさらに強く抱き締めた瞬間――。耳障りな笑い声に、仲間たちの表情は怒りに歪む。ガルザーが一歩踏み出した瞬間――無数の粘液の触手が飛び出し、アクスとガルザーを絡め取ろうと迫った。
「ふん、この程度!」ガルザーは短剣を長剣に変え、鮮やかな剣技で次々と触手を切り裂く。
しかし、次々と出てくる触手を前に近づけない。大技を出そうにも、精霊を抱きかかえられては迂闊に攻撃できない!
魔人を相手にアクスが煽り、ガルザーが戦っている間に、3騎士は攻撃が精霊に当たらないよう走竜で沼の側面を走り魔人の背後に回り込む。
魔導騎士サイラスは走竜から降り、大きく構え、思いっきり振りかぶってスフィアワンドを振り抜く。魔導士とはいえ竜人騎士、強靭でしなやかなな筋肉と長身、そしてワンドのリーチも加味した高速の火球が速度を乗せて放たれ、弾丸のように肉塊を撃ち抜いた。
「があああぁぁっ!? あっつぅぅぅ・・・くないよーだブァーカ!」魔人は不意の攻撃を異とも介さず、魔人の触手が3騎士にも向かう。
「は?あなんだあいつ!土属性だろ!」剣騎士クランがソニックカトラスを振るい、触手を斬り飛ばす。
「水の属性を取り込んだか・・・火は効かんようだな」サイラスの額に汗が滲む。
「こういう時は俺の出番だろ!」
槍騎士ヴォルフがウインドスピアを構え、ウインドブラストを発動。魔人が纏う水を突風で吹き飛ばし、乾いた土の本体が露出する。
「ナイスだヴォルフ!クラン、行くぞ!」サイラスは火球を生成、発動の瞬間に本来の火球の速度で反対方向にワンドをスッと引く、火球がその場に停止する。
「相対速度の応用だ、どうだ、当てやすいだろ」サイラスは得意気だ。
「あぁ、これなら!」、クランは火球に向けウインドカッターを連発。無数のフレイムカッターが魔人の背中を焼き刻む。
「あぎゃぁぁぁ!あづいいだいあづいいぃぃぃいぃ!!!!」ベルグロスが悲鳴を上げ大きく仰け反り、精霊を抱く腕の力がわずかに緩む。その身体から少し精霊が離れた。
その刹那――。
「今だぁぁぁッ!!」怒号と共にその目に閃光が走った。
ガルザーが飛び出し、羽を広げ疾風のように飛んでいく。
変幻自在の宝器が大剣へと変わり、ベルグロスの腕と触手を一閃。黒い肉が爆ぜ、精霊の体が解き放たれる。その細い身体を抱きとめたのは――血煙を纏いながら立つ、竜人の英雄だった。
「待たせたな、もう怖くないぞ、美しき精霊よ」
その声は、絶望に沈んだ精霊の心を一瞬で浄化する。彼女の瞳に、英雄の姿が焼き付いた。
「――カッコいい・・・好き・・・」
光差す泉の上、美しき男女が優しく抱擁する。その光は、2人を祝福するかのようにキラキラと輝いている。竜人を見上げる精霊の顔は、恋する乙女の如く顔を紅潮させている。
ベルグロスは断末魔のように吠えた。
「な、な、なんだその顔はぁぁ!? ぼくを見ろよぉぉぉ!! そのバカ竜人なんかよりぃぃ、ぼくをぉぉ!!!」
嫉妬に狂った醜悪な表情を歪めながら、黒い肉塊は燃え上がる炎の中で溶け崩れていく。
醜き魔人の声などもはや届かない。精霊の視線の先には、ただガルザーだけが映っていた。
「精霊が離れたな、今だ!ヴォルフ、最後の一撃だ!」サイラスが火球を発動し、ヴォルフと魔人の間に固定する。
「あぁ、残りの魔力、全開だぁーーーっ!」ヴォルフの残り魔力を全て使った渾身の炎の突風。人質を失いもはや手加減の必要もない。無慈悲な暴風が、魔人の醜体を焼き尽くす。
「うあああぁぁぁぁ――っ!!」
嫉妬と怨嗟の絶叫を残し、ベルグロスはヘドロのように地に崩れ落ち、沈黙した。
残ったのは、美しき精霊を抱き寄せる勇ましき竜人の姿。
地獄から救われた少女の頬に、感謝の涙と安堵の笑みが浮かんでいた――。
魔人の力と聖水の美味しさ?
聖水精霊の魔力を泉まるごと取り込んだ割には、意外と弱い魔人でした。ただこの魔人はその場に居座って魔力を食べ続け肥大化しただけの、いわば只のデブ。戦闘どころか3騎士の方に向き直す事すら困難な状態でした。それ程夢中になるくらい聖水精霊の魔力とは美味しいのでしょうか、はてさて・・・。皆さんは食べたらちゃんと戦闘・・・ではなく運動しましょうね。
人物イメージ画像一覧はコチラ
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