第44話:『セレフィナ王妃暗殺事件 真相編』
毎日18時投稿!・・・予定です(なるべくがんばります)
床に落ちたアクスの影がぐにゃりと膨れ上がり――一匹の影猫が姿を現す。
「にゃーん」
影猫の影がゆらりと大きく広がり、闇の絨毯のように床を覆う。その影から一人の女性が現れた。
「―――セレフィナ!!!」
国王エリオスの目が大きく見開かれる。
次の瞬間には椅子を蹴って立ち上がり、駆け寄っていた。
「陛下……」セレフィナ王妃は恥じらうように微笑み、だが嬉しそうに夫に抱き締められた。
「セレフィナ……! 本当に……生きていたのか……!」
震える声で繰り返しながら、王は彼女を抱きしめる腕に力を込める。
しかし感情が溢れると同時に、混乱と怒りも込み上げてくる。
「アクスよ! どういう事だ、これは!? 何の茶番なのだこれは!?」
だがセレフィナが夫の頬に手を添え、優しく諭す。
「陛下……いえ、エリオ。どうか落ち着いて。一度、彼の話を聞いてくださいまし……ね?」
その声音に、国王ははっと息を呑み、落ち着きを取り戻す。なるほど、これが王妃か。
「……すまぬ。取り乱した。アクスよ、話を聞かせてくれ」数秒の沈黙の後、深く頭を下げた。
王と王妃を座らせ、アクスは姿勢を正し、順を追って説明を始める。
「まず、王妃様の暗殺は事実として成立しています。本当なら王妃様はあの場で殺されていました」
――王の喉がごくりと鳴る。
「実は、失礼ながら、前回の謁見時に影猫を王族全員に忍ばせて、いざという時守れるようにされていました。私の指示ではなく、先日の護衛依頼での両殿下の振る舞いを見ていた四聖が王族を気に入り、勝手に仕込んだものです。ここへ向かう途中で聞きました。暗殺の際、影猫が王妃様を影に隠し、代わりに自らが王妃の姿をとって犠牲になったフリをしました」
「……では、あの遺体は……」
「影猫の擬態です。こいつは身体が柔軟でして、首を180度捻られた程度では痛くも痒くもないのです。その場で捕らえても良かったのですが、未遂では大きな罪にできず、黒幕がいたらあぶり出すのが困難になると思ったので、とっさにこの形を取ったようです。四聖もこの件については怒っており、是非犯人を黒幕の組織ごと壊滅させたいと。」
「にゃ!」影猫が尻尾を揺らし、勇ましく鳴いた。
アクスは続ける。「王妃様はこの数日、私がいる拠点にて匿っておりました。あえて敵を泳がせ、狙いと目的を探るために。そしてこのまま、王妃の生存は隠します。事件は城内にて起こっておりますので、まだ城内に犯人がいる可能性があります。どこで情報が漏れるかもわかりませんし、この事は王だけの秘密に。忠臣はおろかご自分の子どもまで騙す事になりますが、今はどうか堪えて下さい」
そして真剣な声色で告げる。「場合によっては他の王族が狙われることもありえます。その時は……影猫が必ずお守りするか、あるいは身代わりになります」
影猫が再び「にゃーん」と短く鳴き、誓約を示すように胸を張った。
「あいわかった、そなたの提案に乗るとしよう、しかし……」王は少し言葉を濁す。
「何かご懸念が?」アクスは王の心境を伺う。
「その、こんな事を申しては何なのだが、セレフィナよ、”拠点”での生活に問題は無いのか?」国王は心配そうに妻を見つめる。
「そうそう、あなた!聞いてくださいまし。アクス様の拠点、とっても素敵なのよ~♪」王妃は暗殺されたとは思えない程興奮気味に語る。
「ベッドもふかふか、お食事もとってもおいしいの、あと仮面をつけた従者の方の……てじな?そう手品!とても面白いのよー!あと女の子達もとってもかわいくて……」王妃の話は止まらない。
仮面の従者とはおそらくノアの事だろう。女の子もエルフ少女達の事だろうが、王妃の反応を見るに、恐らく耳を幻術か何かで隠し普通の人間の少女のように見せているんだろう。
「……わかったわかった、無事に過ごせているようなら何よりだ。アクスよ、事件解決依頼の上に妻の面倒まで、頼りっぱなしで申し訳ないが、どうか宜しく頼む!」王が冠を外し、深々と頭を下げる。
アクスは王からの依頼を受諾し、捜査を開始する……が、実は既に犯人はわかっている。
(王妃を暗殺した犯人は魔人序列第345691位、種族名ドッペルゲンガー、名前はドゥムナスです。)王城に到着する途中、ノアからの報告が上がっていた。
アルセイデアの世界には地上界、天界、魔界と世界が別れており、それぞれに知性あるヒト種が様々存在する。ヴァネッサやカグヤが居た天界には天使や天人(天女)等の種族がおり、エリアごとに棲み分けされている。天界には天界からしか開かない門があり、基本天界の者しか出入りできない別位相の世界。その為ただ上空に浮上するだけで行けるという訳ではない。地上界も厳密には地上、地底、海域と別かれているのだが、それに関してはまた別の機会にするとして・・・
今回問題なのは魔界と呼ばれる闇の世界。北の魔族とはまた別の、いわゆる魔人の世界である。こちらも専用のゲートでしか出入りできないが、ゲートは地上のどこかに点在してあり、地下の世界という訳では無い。魔界のヒト種は魔人しかおらず、国としての線引もない為、魔界で最も上位の存在はその世界での神であり、魔神と称される。魔界の魔人全てに生まれた瞬間からステータス蘭に序列が付与され、上下がはっきりしている。強くなったり相手を倒すことで序列が上がる。
序列第345691位であるドゥムナスの強さは魔界ではほぼ一般人だが、人間の女性の首を捻るくらい造作もない。問題はその擬態能力だ。ドッペルゲンガーは見たものの姿をそのまま模倣し、魔道具でも鑑定でも見抜けない程完全に成り代わる。ノアですらサーチで王女が二人いる事に気付き警戒できたが、使い魔である影猫が直接触れている状態になるまで正体を暴けなかった。ただ殺意はだだ漏れだったので、暗殺のプロという程ではないようだ。
ドッペルは王妃を暗殺後、すれ違う街の人々に切り替わりながら姿を消した。ノアに探知されている事を知らないはずなのに、随分と用心深い、姿を消す能力も相当だ。これでこの順位である。
ちなみに魔人の知識は王城の禁書庫から得られたものである。前回王都を立つ前に禁書庫の中を見せてもらった。その際にノアが全ての書類を一瞬でスキャン。エリシュナに帰るまでに全て解読、解析が完了していた。この知識が無かったら何が何やらという感じだったろうに、一体ノアはどこまで先を読んでいるのだろう。
アクスは早速事件のあった王妃の私室に向かい、手がかりを探す。
アクスはマジックバッグから粉の入った小瓶を取り出し、軽く振りまく。粉が落ちた部分にうっすらと足跡が淡く紫色に光る。
「……足跡の残滓があるな。人の魔力じゃない。この色は……魔人だ!」
「……どうだ」背後から国王の低い声が響いた。
アクスは振り返り、淡々と答える。
「この粉は魔力に応じて淡い色で光る絵具のようなものです、魔力で絵を描く時に使うのですが、顔料を何も加えないとごく微少な魔力でも反応し、種類によって光る色が変わるんです。この色から推察すると、恐らく魔人の仕業でしょう」
「魔人……」国王の目が細められる。
「状況から察するに、姿を変えられる、例えばドッペルゲンガーのような魔人が、王妃と親しい人間に化けて、王妃殿下に近づいたのだと思います。争った形跡も無さそうですし」
「そうか、人の仕業ではなかったか……一体どうすれば……」国王は沈黙し、深い皺を刻んだ顔に影を落とした。
「まずは警備の強化を、なるべく複数人で行動し、一人にならないようご命令を、入れ替わり防止です」
「あいわかった、引き続き調査を頼む」
アクスはうなずき、静かに部屋を後にした。
警備を強化するも魔人は鼠に化け、監視をすり抜けて再び城内へ侵入する。またも数名が惨殺される。しかし国は一切動きを見せない。
苛立った魔人は使用人の死体の横に次の予告を置いた。
「うまく誤魔化しているようだな。では次は王都の民を無差別に殺す。これでもはや隠し立てはできまい」
魔人は王都に繰り出し、人に化け民にその手をかける。その時――
(……見いつけた♪)
ノアの冷ややかな声が響いた瞬間、王都全域に散った影猫が一斉にざわめいた。魔人の位置が特定される。
「行くぞ!」
カグヤが抜刀し、ミレイユが詠唱を始め、ヴァネッサが銃を構え、エマが祈りの光を掲げた。
美従士たちが疾風のごとく走り抜け、路地裏に潜んでいた魔人を襲撃する。
「チッ、王都の冒険者か? クソ!人間風情が……!」
黒い肉体が変化し、町娘から兵士、狼へと次々と姿を変える。
だがすぐに見破られ、追い立てられ、逃げてもすぐに追いつかれる。瞬時の特定と四人の連携の前に押し切られ、ついに魔人は王都の外へと叩き出された。
「くそぉ! 一旦徹底だ! 人間共め! いつか必ず殺してやる! 覚えておれー!」
魔人は退散し、その姿を消した――だが、惨劇は終わらなかった。
数日身を潜める素振りを見せた魔人は即座に王都に戻り、無差別の殺戮を始める。
「くくく、愚かな人間どもめ! 油断したか! この時を待っていたのだ!」
今度は派手に、分かりやすく、暴れ廻る。
斬られ、殴られ、倒れる民――だが、彼らはすぐに立ち上がり、まるで何事もなかったかのように笑顔で歩き出す。
「なっ、これは……!」
魔人が目を見張り、動揺する。背後のエマが静かに答えた。
「偽物です。王都の民はここにはいません、悪しき者よ、覚悟しなさい!ホーリープリズン!」
――同じ頃。
王都が一望できる少し離れた小高い丘の上、無数の人々が静かに目を覚ましていた。
王都の民すべてが影猫に飲み込まれ、別の場所へと避難していたのだ。
「あなた!」
「おかあさん!」
「リーシャ!」
……殺されたと思われていた人々が家族と涙の再会を果たす。
人々のざわめきの中、王女ルーシェリアと王子アルディスの目に飛び込んできたのは――
「母上……!」
「……ルーシェ!」
王妃セレフィナがそこにいた。涙が頬を伝う。王女は母の胸に飛び込み、王子は堪えていた嗚咽を洩らす。
「会いたかった……ご無事で……!」
「ええ……ごめんなさい、心配をかけましたね」
その傍らで国王は深く頭を垂れた。
「……黙っていてすまなかった。犯人を泳がせるために、必要なことだったのだ」
王女は微笑み、父の手を取った。
「ええ、分かっております。私は信じておりました、父さまと……アクス様を……」
感動の再会の渦の中――
一歩前に進み出たのは、威圧感を放つ老獪な男だった。
魔族と魔人と魔王虫
少しわかりにくいですが、帝国の北の魔族と魔界の魔人は別物です。魔族は瘴気が生物の形を取ったもの、構成は下位精霊やエレメンタルに近いです。邪悪なので似ても似つかないですが、自分にはない生物というジューシーな要素を無意識に求めた結果、人間を襲っていたのかもしれません。一方、魔界には独自の生物の生態系があり、それらが闇の魔力を得て知性と力を得たものが魔人です。なのでベースとしての肉体があります。では魔王虫は?あれは素体は魔界産の生物ですが、闇の魔力を取り込む前に突如現れたゲートにより地上界の戦場に迷い込み、目の前の瘴気を取り込んだ結果、力は得たけど知性は得られなかった悲しきモンスターです。当時は魔人の知識がノアにも無かったので正体を特定できませんでした。というか勝手に魔族の一種と思い込んでしまったんですね。
人物イメージ画像一覧はコチラ
https://ncode.syosetu.com/n1501lc/
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引き続き次回作もお楽しみ下さい♪




