第41話:『無能に請う騎士爵、無垢な子好き子爵』
毎日18時投稿!・・・予定です(なるべくがんばります)
「では…アクスよ、そなたの功績を称えたい。今度こそ叙爵を─」
「お待ち下さいそれは結構です」
軽く手で遮ってスルーするアクスに、場内の空気が一瞬ざわつく。王妃が扇子で口元を隠し、王子は「…ですよね」と苦笑した。
鋼鉄たちの方は事前に話がついていたらしく、王城宝物庫から一品だけ持ち出せる権利を与えられると発表された。彼らは嬉々として小声で作戦会議を始めている。
さて、アクスはどうしたものか─。今回の功績は、エルフ三百五十人の移送、王女の護衛、森国との国交樹立確約、王子の護衛、洞国との条約締結と、かなりの数になる。正直、報奨一、二個では全然割に合わない。だが、金は余っているし、欲しい物は大抵ノアが用意してくれる。
(ノア、何がいい?)
(はい、アクス様、では・・・)
アクスは一歩進み出て、静かに告げた。
「王家所有の禁書庫への出入り許可、書庫の無制限閲覧権を希望します」
周囲の貴族たちが一斉にざわつく。
「な、禁書庫だと!?」
「正気か・・・」
周囲の声が小さく飛び交った。王は目を細め、しばし沈黙。やがて口元に小さな笑みを浮かべる。
「…理由を聞こう」
「正直な話金も物も自由も足りています。後欲しいものといえば知識くらいです。特に何をしようという事ではありません。ただの興味本位です。」
王家の禁書庫にはかなり複雑な封印が施されており、ノアでも破壊せず開けた痕跡も残さずに開封は難しいらしい。確かにぶっ壊したら大問題だ。
王はゆっくりとうなずき、短く言った。
「そなたなら悪用はせぬだろう。許可する」
その場の空気がまたざわめく。…しかしノアさんは禁書なんか読んで、一体何をするつもりなのだろうか。
「では、次の要望の前に…保護した8人のエルフたちがどうなっているか教えて頂きたい」アクスの視線が王へ向けられる。
森国に帝国から解放された奴隷エルフを送った際、森国に馴染めない帝国生まれのエルフとハーフエルフを王女と一緒に連れ帰った。その中には幼い者もいた。
途中で王女護衛が打ち切られたため、王城での待遇がどうなっているのか気になっていたのだ。
王は説明する。「彼らは珍しい存在ゆえ、王家と公爵家で預かることとなった。八名のうち二名はわしの弟であるルーヴァルト公爵家、残り六名は王城で使用人として働かせつつ教育を施している。終身ではなく、自立できるまでの支援だ。成人のセクトは森国との外交官として教育を受けさせる予定だ。」
「…ただ、少々問題があってな、連れて参れ」王の合図で扉が開き、二人のエルフが入ってきた。
「アクシュ! アクシュ~!!」風呂には入ったはずだが、メリルが泣きながら駆け寄ってくる。ヒュメルも涙をこらえスタスタと早足でついてくる。
アクスは膝をつき、飛び込んでくるメリルをそっと抱きとめ、ヒュメルの頭を撫でる。
「…何だ、どういう事だ?」アクスは王を睨む。
「待て待て、誤解するでない」と王が慌てて手で遮る。
「城のメイドやルーシェ、我が妻までが寄って集って世話をしたのだが、メリルはそなたを泣いて呼び、泣き疲れて寝ては起きてまた泣くを繰り返しておったのだ。ヒュメルも大人しくはしておったが、『アクスの下で強くなりたい』と頑なでな」
「じゃあ、二人とも俺が引き取りますよ」アクスは二人の頭を撫で、王をまっすぐに見た。
静まり返った場内に、アクスの声がはっきりと響く。
次の報奨として、二人の後見人であることを国が正式に認めることを希望した。
「後見人になるには国民としての登録が必要です」宰相が前に出て説明する。
「まぁ、それくらいなら別に構わない」アクスは少し考え、了承する。
「せっかくですし、領地を持たない一代限りの爵位──名誉騎士爵を叙爵しては?」王女が提案した。
「おぉ、それは名案だ!私も賛成です、父上!」王子も笑って賛同する。
「いや、爵位はちょっと…」アクスが戸惑う。
「大丈夫だ、貴族としての義務は特に無い、正に国に貢献した者への”名誉”なのだ。持っておいて損はないぞ?」王が促す。
「そうだぜ旦那、名誉爵なんてお貴族様のいいとこ取りで冒険者の憧れだ、貰っておけよぉ」ザンガが囃し立てる。
「まぁ、義務が発生しないなら貰っとき・・・拝命いたします」アクスは肩をすくめた。
式典は年に一回だが、叙爵自体は略式的にこの場で行われるという。叙爵そのものが国民登録になるそうだ。
「一応聞くが、冒険者のそなたに子ども二人の面倒が見られるのか?」王が念を押す。
「冒険者としてはソロですが、一応家族みたいな仲間がいますしちゃんとした拠点もあります。そこに年の近い子もいるので問題ありません」
…魔道具は今回からさすがに出して来なくなったが、一応嘘は言ってない。
「心配はいりません。ただ、くれぐれも拠点を探るとか派閥に引き込もうとか、余計なことはやめて頂きたい。…特に後ろに隠れてる隠密!」
「ひっ!」玉座の背後から情けない悲鳴と物音がした。
「・・・わかった。良いか皆の者、今後一切の名誉騎士爵アクスへの過度な干渉を禁ずる、これは王命である」王は眉をひそめ、場内へ命じた。
「残りの報奨は・・・思いつかないのでとりあえずお金にしておいて下さい」
「あいわかった。相応な金額を決定し支払うことを約束する。」
結果的に、森国と洞国の交易取引純利益の1%をアクスが死ぬまで永続的に国から支払うという事で落ち着いた。純利益とはいえ2国分の1%というと、かなりの大金になりそうだ。
式典が一段落しかけた時、列の中から甲高い声が響いた。
「恐れながら陛下! 一つ異を唱えさせていただきたく!」
前に進み出たのは、紫の外套を着た初老の男。頬はこけ、鼻筋はやたらと高いが、目の奥にいやらしい光が宿っている。
ゼルバン・コルステア子爵。王威の前には存在しないはずの”貴族派閥”の末席にして、無類の金好きと嫉妬深さ、あと確証は無いが”男女問わず”幼い無垢な子どもが好みと影で噂されている事で知られる人物だった。
「・・・申してみよ、ゼルバン」王は発言を許可する。
「はっ!」彼は芝居がかった動作で膝をつくと、わざと大きな声で続けた。
「この度の王子殿下の功績辞退――これはあまりにも異常にございます! あの有能と名高い殿下が、なぜ突如として膝をつき、一介の冒険者へ全てを譲り渡すなど・・・! まさか脅迫、あるいは洗脳でもされたのではございませぬか!」
ざわざわと会場から小言が聞こえる。
「貴様・・・」王子は眉をひそめる。 しかしゼルバンは止まらない。
「さらに申せば、森国との交渉も王女殿下が主体であられたはず!この者はただ横に立っていただけ。これらの功績は両殿下の能力と努力によるもの!その手柄を横取りとは、卑怯千万!このような卑しい冒険者如きには爵位も金も不要!ましてや希少なるエルフの後見など論外にございます!」
そして最後に、口元をいやらしく歪めた。
「代わりに、陛下の忠臣たるこの私めがそこなエルフ共の面倒を見ましょうぞ…つ、つきましては、そのー、養育費用を――」
「・・・黙れ」
王子の一喝が、謁見の間に鋭く響く。彼は一歩前に出て、鋭い視線と剣先をゼルバンに向けた。
「脅迫も洗脳も――そのような事実は一切ない。この体いくら調べてもらっても構わん。貴様、我が恩師に対する侮辱、即刻この場で切り捨ててもよいのだぞ!」
「お・・・恩師・・・?」ゼルバンの顔色が青ざめた。
今度は王女が進み出る。その瞳は冷たく、しかしはっきりとした声が響いた。
「私も、この名に誓って断じて否定します。アクス様なしでは、私たちは森に辿り着くことすら叶いませんでした。交渉も、私が持参した品はおまけにすぎず――エルフの心を動かしたのは、彼の持参した品と行いによるものに他なりません」
「・・・よくぞ申した、我が子らよ」玉座から、国王の重々しい声が降りてきた。
「ゼルバン・コルステア子爵、国王たる我の決定に異を唱えるか。仮に貴様の意見を採用し、何か問題が生じた場合、その責任を取る覚悟があっての発言か?」
「い・・・いえ、その・・・」子爵は急にオドオドし出す。
「ならば下がれ!」王威は発動していないはずだが、あまりの気迫に会場内の空気が震えた。
ゼルバンはガタガタと震え、「はっ、はひぃー」とかいう変な声を出してそそくさと列に戻っていった。アクスは何もしていないのに、勝手に話が進み、勝手に終わってしまった。なぜか子爵に睨まれている気がするが、理不尽な話だ――。
アルディス王子成長裏話
王子は現在王都の学園に在学中。今年度卒業を控え最後の長期休暇中での任務でした。
何と婚約者のご令嬢も居て卒業と同時に婚約発表する予定でしたが、他の女に心を奪われ、卒業後のダンスパーティーで愛する女を虐める悪役令嬢を断罪し婚約破棄……どこかで聞いたような展開ですね。
しかし今回の件で目が冷めた王子、状況を冷静に見つめ直し、婚約者の虐めが嘘だったこと、その噂の出所はその愛した女だったと気づきます。偽悪役令嬢の断罪イベントはキャンセルされ、王子は無事令嬢と婚姻を結ぶことになります。めでたしめでたし。(悪役令嬢系ファンの方申し訳ありません)




