第39話:『残念王子の成長記録』
毎日18時投稿!・・・予定です(なるべくがんばります)
「さあ、ここに署名しろ」紙の上に記されたのは、王国完全不利の交易条件。
「…うっ…!」王子の手は震え、喉の奥がひくつく。まるで狼の群れに放たれた羊。もう逃げ道はなかった。
さすがに無理だと感じたアクス、フードを取り姿を見せる。
「みんな、少し落ち着いてくれ」
かつての英雄を見たドワーフ達は態度を一変させる。
「あ、あんたは国の英雄アクス様じゃねぇか!」
「何だよ来てたんなら早く言えよぉ、国を挙げて歓待するぜ」
「もう交渉なんてどうでもいい!英雄の凱旋だぞ!今夜は宴だ~!」
「おい鋼鉄の!何で黙ってたんだよ!一緒にて来たんだろ!?」
「あぁ、すまねぇ、アクスの旦那、俺たちとしたことが…」三兄弟も落ち着いて我に返る。
アクスを見たドワーフ達は早々に話の流れを逆転させ、価格を大幅に値下げ、条件もほぼ無し、奴隷解放の恩もあって少し王国に有利な条件でさっさと締結。王子を一人残しアクスを神輿のように担ぎ上げて宴会場へと向かって行った。
会議室に一人残されぽつんと佇む王国の第一王子、締結された契約書を静かに手に取り、じっと見つめる。力なく立ち上がり、会議室を後にする。
側近に契約書を渡し、交渉は成功したと伝える。側近と護衛から称賛と喝采を浴びる。いつもなら心地よく受け取っていた。しかし今ではこの光景も酷く滑稽に見える。己の惨めさを嚙み殺し、それでも王子であるアルディスは側近に対し表面上「余裕だった」と振る舞う。
その日の夜、宴会でさんざん飲み食いしたアクスの元に、ヤケ酒で酔った王子がやってきた。
「貴様ごとき……一介の冒険者風情がなぜあそこまで慕われている!なぜ私ではないのだ!私は王国の第一王子だぞ!!」王子は酒の勢いもあって興奮気味にアクスに詰め寄る。
「王子は”北風と太陽”というお話を御存じでしょうか」王子を座らせ、お茶を淹れながらアクスが問いかける。
「何だそれは…国内の著名な文学は一通り嗜んでいるつもりだが、聞いたことは無いな」
王子が知らないだけかこの世界にはないのかわからないが、アクスは話の概要を説明する。この話で例えるなら、今回は王子が北風でアクスが太陽だったこと。冷たく強く尊大で高圧的な態度をとる者に好意的な印象を受けるはずがなく心は閉ざされコートは深く着込まれ完全に逆効果。心を開かせコートを脱がせたいんだったら、優しく暖かく柔和で友好的な態度を取ることが重要なのだと。そこに王子の肩書きは関係ない。
「ここでは貴方は王子ではなくただの人間です。人間の国の地位などドワーフには関係ない、王族の威光など無に等しい。相手を対等と認め、相手の要望を見極める、どう動けばこちらの要望に沿ってくれるか、常に相手の気持ちを考える事が重要なのです」
王子にとって産まれて初めての説教、それは幼い頃マナーや学問を教えるだけの教育係のそれとは違い、怒りにまかせたドワーフ達の怒号とも違う、アルディス、いや、”王子”の為に紡がれた言葉、自身の成長を純粋に願う、美しく優しい言葉に思えた。己の意識が変わる、脳をかき回すような感覚に王子は戸惑う。
「で、では何故俺様…俺なんかを助けたのだ!お前も心では呆れて俺を見下していたんだろう!あのまま放っておいて無様に敗北する姿を見ていれば良かったではないか!」王子はプライドの塊とは思えない自虐的な態度でアクスに問い返す。
「仕事だからですよ…と言ってしまえば簡単なのですが、そうですね、もう少しお話ししましょう」アクスは王子にお茶を淹れなおし、居直って少し深い話をする。
「交渉の途中で鋼鉄3人が寝返りましたよね。あれは2つの意味で非常に良くない。1つ目は王都がホームのAランク冒険者が途中で任務を放棄した事、冒険者は時には命を危険に晒してでも任務を優先させる場合があります。冒険者にとって任務というのはそれくらい重要なのです。しかも鋼鉄の誓いは拠点が王族のお膝元、王子の依頼を途中で失敗どころか意図的に破棄したなんて知れ渡ったら王都での信用は失墜します。良くてランクダウン、最悪廃業もありえます。王子の言葉次第では不敬罪で処刑する事も出来ましょう。それだけ任務を破棄するという行為は重く、同じ冒険者として放って置けなかった。問題なのは王子のあの対応は鋼鉄が命よりも大事な任務を破棄するくらいドワーフの尊厳を傷つけた危険な行為だったという事です。反動で殺されてもおかしくない状況でしたよ」
”殺される”その言葉に顔が青ざめる王子。盗賊に捕まっても王子である自分は価値があるから命までは取られないと思っていた。そんな王子が初めてリアルに感じた”死の可能性”であった。
「2つ目は”王子の味方が裏切った”という事、鋼鉄の次男の言葉を覚えているでしょうか。”忠臣が王を裏切るって話はよく聞くが、なるほどこういう事か”と。貴方が今の態度のまま王位を継承した場合、果たして臣下は付いてくるでしょうか。”王威”のスキルがあれば表向き何とかなるかもしれませんが、その程度の覚悟で発現する程軽いスキルなのでしょうか。今の貴方なら、自ずと答えが見えてくるはずです。よく考えなさい。」
己の未熟さと現実の厳しさを改めて知る王子、何も言い返せない、言葉の一つ一つが胸に刺さる。全ての事柄で悉く敗北した。今の自分では何一つ勝てやしない格上のA級冒険者”英雄アクス”その言葉に感銘を受け、アクスを「師匠」と呼び始める。
(いやー今回も助かったよノア、でも師匠なんて呼ばせるまで言い詰めるのはのはちょっとやりすぎじゃない?)
(お褒めに預かり光栄です)
(いや褒めてな…まぁいいや、ありがとう)安定の丸投げであった。
一夜明け、少し遅めに目覚めるアクス。昨晩は王子がしつこく質問してきたので寝るのが遅くなってしまった。周りからは既に鉄を打つ音が聞こえる。
「…相変わらず朝が早いな、ドワーフは」
あんなに飲んだのに、ドワーフは朝早くから仕事をしているようだ。宿を出ると、鋼鉄の誓いの三兄弟がニヤニヤしながら武器を磨いている。アクスを見つけた長男ザンガが、子供のように駆け寄ってきた。
「旦那!見てくれよ、ついに出来たんだ!」
得意気に差し出したのは、以前アクスが提案したアックスサイスだ。表が大斧、裏が大鎌の両手武器、”斧鎌のザンガ”の理想形がここに完成した。
「おお……いつの間に作った?」
「今回の移民護送の褒章ってやつでな、特別に次元工房で仕上げてもらったんだぜ!」
その顔はまるで新しいおもちゃを手にした少年そのものだ。
三男バンガのスティングナックルも完成している。こちらはガントレットに杭を溶接するだけなので、普通に作成できたようだ。
「へへっ、見ろよこれ。シンプルイズベストってやつだな!」
拳を軽く突き出すバンガに、アクスは苦笑する。本人は十分満足そうだ。二つ名が付く日も遠くなさそうだ。
「刺拳のバンガ…なんてな」アクスが小声で呟くが、バンガは聞き逃さなかった。
「刺拳!!いい響きじゃねぇか!兄貴達!俺は今日から刺拳!刺拳のバンガだ!!」
おーという声と共に何故か周りから拍手が湧く。遠くないどころか一瞬でついてしまった。てか二つ名って自分で名乗っていいのか?まぁ本人がいいならいいのか…いいのか?
次男ドンガのセグウェイハンマーは、安全面や重量バランスも含めて検討中だという。魔道具扱いになるため、一からの設計で時間がかかるらしい。
「とりあえず、こうしてみたんだがな」
差し出されたハンマーは、両端手前を覆うように大きな車輪が取り付けられていた。
「手動だが、重いハンマーを持ち歩くより転がした方が楽だろ?」
側面もアクスのアドバイス通りしっかり杭状になっていて、力が集中して攻撃力が上がる設計になっている。食らったらかなり痛そうだ。アクスはそのハンマーを手に取り、片足を乗せて地面を蹴った。スクーターのようにスーッと移動する姿に、ドンガは目を丸くする。
「……おお、こういう使い方もできるのか」
「な、なんだその発想は!?」
周りのドワーフたちも「おおー!」と声を上げ、集まってざわざわし始めた。
そうこうしているうちに王子が姿を現す。すでに着替えを済ませ、姿勢もきっちり仕上がっている。盛り上がっていたドワーフたちの空気が少しだけ重くなった。
「おはようございます師匠!昨晩はありがとうございました!」
鮮やかな直角の礼――野球部の少年か。
「ドワーフの皆様もおはようございます!そして昨日は大変申し訳ありませんでした!大変勉強になりました!!」
突然の変化に、ドワーフたちはきょとんとしている。
「…アクスの旦那、あの王子に何したんです?」ザンガが小声で聞く。
「いや、俺は何も……」アクスも少し困惑して答える。
帰国前に族長グラムへ挨拶に向かう。ここでも王子は、開口一番に土下座で謝罪した。
「昨日は私の無礼、誠に申し訳ありませんでした!」
族長は思わず目を見開き、横に立つアクスに目を向ける。しかしアクスは、ただ黙って首を横に振った。
ドワーフ達に見送られ、王子一行は王都へ帰還する。移民を乗せた馬車には、先立って買い付けた鉄鋼材がぎっしり積まれている。おまけに、いつの間にかお土産らしきものも大量に紛れ込んでいた。
道中の移動そのものは以前と変わらないが、人数が減ったことで夜は宿に泊まれるようになった。ただし、巨体のグランステッドが入る厩舎がないため、兵士たちは夜通し警戒を続けなければならない。本来なら冒険者も夜警に回るはずだが、王子の意向でアクスと鋼鉄の誓いは宿に泊まれることになった。しかも王子と同じ最高級の宿である。
アクスは溜息をつきながら、心の中で呟く。
(気にしてくれるのはありがたいが……目の前の目的に囚われて、配下を疎かにするのは良くないな。そういうとこやぞ、残念王子)
そんなこんなで数日かけてエリシュナに到着。今回もここで依頼達成として帰還してもよかったのだが、アクスにはまだ用がある。国王に一言物申したいし、保護したエルフ達のその後も気になる。結局、このまま王都まで同行することにした。
もっとも、実際のところアクスはほとんど疲れてはいない。移動は馬車だし、走っている間は大半をアークで過ごしていた。影猫や雷牙、エルフ少女たちと遊んだり、カグヤと剣を交えて汗を流したりと、ほぼ普段通りの日常である。
戦闘があればカグヤが転移で現れ、アクスは剣を空振りしている間に事が片付く。しかも今回は鋼鉄の誓いが新武器を試したいから道中の戦闘は全て引き受けたいと申し出てきた。王子も自重して馬車から出てこないので、アクスは何もしなくて良い。とても楽だ。新武器を手に入れた鋼鉄の誓いの戦闘はすさまじく、武器と能力が嚙み合うとここまで違うのかと関心する。武器適正どころか能力一つないアクスにとっては無縁の話だが。
鋼鉄の誓いも楽しそうにしているし、夜には高級宿で皆と連日うまいメシをつまみに高級な酒を酌み交わす日々、悪くない。王子も酔いの勢いか、アクスや三兄弟にいろいろ質問してくるようになった。
「師匠、やはり“王”たるもの、まずは見栄えから整えるべきでしょうか?」
「見栄えも大事だが、それを裏打ちする中身が伴ってなきゃ、ただの張りぼてだな」
「むぅ…! 確かに、張りぼての王では…いや、今の自分がそうなのですね」
「気付いただけでも進歩だ」
「しっ…! 師匠、ありがとうございます!」
三兄弟も好き勝手に口を挟む。
「王子さまよぉ、まずは酒の飲み方からだな!」
「いやいや、肉の食いつき方だろ、もっとだ、もっとガブッと行け!ガブッと!」
「あと、人の話を最後まで聞くクセをつけなきゃな」
「お前らなぁ…」とアクスは呆れつつも笑みを浮かべた。王子は文句一つ言わず、真剣な顔で頷いていた。本当に同一人物か疑う程だ。
鋼鉄の誓い
アルケシア王都を拠点とするAランク冒険者。ドワーフ族の3兄弟で構成されたパーティーで、依頼によってフリーの冒険者を補充するスタイル。補充メンバーに多めに報酬を渡したとしても、大人数を常に維持するより金回りは良いらしい。だたお金はほとんど酒代と新武器に使われてしまい、貯金はほとんどない。
人物イメージ画像一覧はコチラ
https://ncode.syosetu.com/n1501lc/
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引き続き次回作もお楽しみ下さい♪




