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無能転生者、何もせず遊んでたら異世界救ってました。  作者: 真理衣ごーるど
╰╮第6章:ドラヴァルト王族編╭╯
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第38話:『残念王子の失敗記録』

当作品を閲覧頂きありがとうございます。宜しければ一言だけでもレビューやご感想頂ければ今後の励みになります。

 王子一行は街道を進む。グランステッドだかグラスフェットだか知らないがデカ馬だろうと何だろうとチャリオの馬車なら余裕で付いていける。昼下がり、街道沿いの岩場の影から不意に十数人の盗賊が飛び出した。錆びた剣や棍棒を手に、道を塞ぐように広がる。


「おうおう…いい獲物じゃねえか。高そうな服の坊ちゃんに、護衛つきとはな。ドワーフもいるぜ、こりゃ良い値がつきそうだ」


 アルディスは馬車から飛び降り、剣を抜く。


「ふん、下郎どもが。俺様の剣で一瞬で黙らせてやる。」


 彼は一人、正面から突撃した─が、盗賊の一人が脇から飛び出し、剣を叩き落とす。次の瞬間には背後から腕を押さえられ、首元に刃を突きつけられていた。


「あっけねぇな。こいつが隊長格か?」盗賊はつまらなそうな表情で王子の腕を締め上げる。

「いや、こいつの格好と態度からして…王子様かもな。」頭目らしき男がニチャリと顔を緩める。

「ぐっ…離せ、下郎ども!」アルディスは悔しさと痛みに顔を歪める。


 アクスは前に出た。目の色も表情も変えず、ただ歩くように盗賊団へ接近する。


「く…来るな!こっちは人質が─」最後まで言えなかった。

(刃先を流すは胴の皮、刃先に残すは首の皮…流閃りゅうせん皮流かわながし


 盗賊はアクスと剣を打ち合わせたかと思うと、次の瞬間には全員の着衣と武器がバラバラに斬り割かれ、盗賊頭が地面に転がり、自分も他の盗賊も全員バタバタと倒れていった。よく見ると頭目の首だけあり得ない方向にねじれているが、首の皮は切れていない。ただ、皮の内側から血が滲んでいるのがわかる。


(な…何が起こった…あの冒険者がやったのか…?俺様との決闘は、本気を出していなかったという事か…。)王子は目の前の現実を受け止められず困惑している。


 アクスは何事もなかったかのように、王子の腕を引っ張り上げ、落ちた剣を拾って渡す。


「…お怪我はありませんか、殿下。」アクスの言葉に王子は何も返せず、ただ剣を受け取った。


 その夜、一行は野営を取る。ドワーフ移民の数が多いので宿は取れない。夜警の兵士以外は皆様々なスタイルで寝ている。焚き火の明かりに照らされながら、眠れないアルディスはじっと炎を見つめていた。昼間の出来事が頭から離れない。自分は”守られる側”だった─それが悔しくてたまらない。


「…なぜあんなにあっさり盗賊を倒せた?」王子は対面に座っていたアクスに問いかける。

「争いにおいて重要なのは、力よりも状況を読む目と、迷わぬ判断です。」静かに応えるアクス。

「状況を読む目…か。」答えを見出そうとする王子の目に焚火の炎が映される。


 端正な顔立ちもあって少しだけ王の片鱗を感じさせる。黙っていればイケメン王子なのだ。アクスは薪をくべながら続けた。


「王の責務も同じです。剣を振るうより先に、国と民を守るためにどう動くべきかを見極めること。それを誤れば、守れる命も守れなくなります」


 王子は言葉を失った。昼の自分はただ突撃し、すぐに捕まり、王子である自分が人質になった事で全員の命を危険に晒した─その事実が胸に重くのしかかる。


(俺は…何もできなかった。)王子の心の整理が追い付く前に、一行はノルガルムに到着した。


 検問の手前、王子は、馬車の中で胸を張り、窓に映る自分の姿を整えていた。


「ふん、盗賊ごときに不意を突かれたのは不運だっただけだ。本番はドワーフ共との交渉、今度こそ俺の実力を見せつける番だ」そう言って、背筋をピンと伸ばす。


 王子はアクスを馬車に呼ぶ。向かいに座るアクス、王子は声を潜めて命じた。


「お前の顔は見せるな。フードを被れ。あのドワーフ共は、お前を見ただけで態度を変えるだろうが…それでは俺の手柄にならん」

(目に宿ったように見えた炎は幻だったか…)アクスは王子の学習能力の無さに呆れるも眉ひとつ動かさず、淡々と返す。

「…了解しました」表情も声音も、まるで王子の意図など興味がないかのようだ。


 さらに王子は続ける。「補佐は俺が選んだ者じゃないが、王城で直接指名された鋼鉄の誓いの三名にやらせる。ドワーフ同士交渉し易くなるだろうが、まぁ俺には必要ない。俺の話術で余裕だからな」


 その自信満々な言葉に、アクスはほんの一瞬だけ眉を潜めるが、何も反論せず馬車を出る。門番が馬車を呼び込む音が、短い沈黙を埋めた。


 ノルガルム洞国の都市内に到着、久しぶりの光景だ。皆に挨拶したいが、王子の命令もあるので淡々と移民を引き渡す。抱き合って泣き崩れるドワーフ移民と家族たち。感動のシーンではあるが、王子の態度が頭にちらつき、あまり感情移入できない。もうさっさと終らせて帰りたい。


 ノルガルム洞国の交渉会議室──。

 分厚い岩壁に囲まれた広間は、焚き火と鉱灯の明かりに照らされ、空気は鉱石と油の匂いで満ちていた。そこに鎮座するのは、髭をたくわえた屈強なドワーフたち。筋骨隆々の腕には無数の鍛冶の傷が刻まれており、どの顔も戦士と職人の両方の威厳を湛えていた。王子は椅子にどっかと腰を下ろし、肘を広げて組んだ。


「ふん……まあ、そちらも我がアルケシア王国との交易は望んでいるのだろう?」


 言葉は完全に上から目線。まるで相手が頭を垂れて当然と言わんばかりの態度だ。

 正面の族長エルダードワーフ(実質の国王)、グラムが目を細める。


「……王子様よ、帝国から同胞を助け出してくれた事には感謝しておる。最大の礼を以って応えたいところだ、だがなぁ、初めからそんな態度取られちゃこっちも素直になれねぇってもんだ。」その声音は低く、まるで鉄を叩く前の冷たい金属音のようだった。


 王子はさらに胸を張る。「条件は簡単だ。貴様らが個人的に行っていた我が王国への鉱石売買を国として正式に認めてやる。量も増やしてやるから、代わりに我らが決めた価格で……」

「おいおい勝手に値を決めるつもりか、小僧」中堅のドワーフが、机をドンと叩いた。分厚い木の板がびりっと震える。

「おい鋼鉄の!何だこいつは!一体どういうつもりだ!!」


 補佐として同席した鋼鉄の誓いの三兄弟──頑固者で有名なドワーフ戦士たちも眉をひそめる。


「王子さんよ、交易は互いの信頼あってこそだ。初っ端から命令口調はちょっと……」

「こっちはドワーフの立場を翻してあんたに付いてんだ、俺たちまで恥をかかせるつもりか?」

「この場ではお前さんも一人の使者だ。王族の肩書きにすがるな」


 王子は一瞬ぎくりとするも、すぐに顔をしかめ返す。


「だっ黙れ!補佐ごときが口を挟むな!」


 その言葉に場の空気が一気に変わった。ドワーフたちの目が、もはや同席者を見るそれではなく、軽蔑すべき敵を見る光に変わる。


「…ほう。ハナタレの小僧風情が鋼鉄の誓いを補佐ごときってか…言ってくれるじゃねぇか」

「忠臣が王を裏切るって話はよく聞くが、なるほどこういう事か…」

「なら、俺たち”ごとき”はお前の味方を降りるぜ、もう依頼は破棄だ!構ってられるか!!」


 三兄弟が立ち上がり、王子を睨み下ろす。それに呼応するように、交渉席の両側から十数人の大柄なドワーフが近づいてきた。顔は王子の二倍はあり、肩幅は倍以上。背後の壁がふさがれる。


 王子の喉が、ごくりと鳴った。「な、何を…」

「何を、だと?」 族長グラムが鼻で笑い、身を乗り出す。

「お前の言う条件とやらをもう一度話し合おうじゃないか。今度は俺たちの納得できる形に直してもらうがな!」


 怒鳴り声、机を叩く音、重い足音。次々と飛んでくる反論は、すべて的確かつ痛烈で、王子の口から出る言葉はすべて途中でへし折られる。


「それは現実的じゃねえ!」

「お前の国は何様だ!」

「笑わせんな、鉱石を恵んでもらう立場だろ!」


 額に冷や汗が滲み、背筋に寒気が走る。視界の端で、アクスが壁際に立ち、無表情でこちらを見ている。助ける素振りは一切ない。…やがて、グラムが契約書を突きつけた。


「さあ、ここに署名しろ。これなら王国は鉱石を買えるが、価格と条件は俺たちの意見を通させて貰う。これが対等な交渉ってもんだろ…なぁ!?」紙の上に記されたのは、王国完全不利の交易条件。

「…うっ…!」王子の手は震え、喉の奥がひくつく。涙が滲み、胸の奥に屈辱と恐怖が渦を巻く。まるで狼の群れに放たれた羊。喉元を噛みつかれ、腹を割かれる寸前、もう逃げ道はなかった。

流閃・皮流の解説 ※グロテスクな表現が苦手な方はご注意下さい

皮流しは皮膚の上で刃先を滑らせる剣技。表の皮を滑らせる時は一見普通に斬っているように見えて、皮膚に触れるギリギリのラインで刀を引き、刃先で肌をなぞるように衣服や武装をだけを切り落とし無力化できます。では裏の皮を滑らせる時は・・・血しぶきを上げずに肉や骨を断つ事ができます。今回は首の後ろから刃を横向きに入れ、ぐいっと首の中身だけを切り抜いた感じですね。表と裏、どちらを滑らせるかはカグヤ次第ですが、基本的に賞金首は裏、その他は表といった感じです。そのへんはノアが全て把握しています。初登場シーンでは張り切り過ぎて全員の首を切ってしまったので、このような形に落ち着きました。


人物イメージ画像一覧はコチラ

https://ncode.syosetu.com/n1501lc/

おもしろかったら下のグッドボタンを押してくれると嬉しいです。引き続き次回作もお楽しみ下さいm(_ _)m

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