第37話:『残念王子の冒険記録』
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サンドラの街を出る。少し歩いた所で岩場の陰からウルフ達が出てきた。また暫くウルフに乗って走り続ける。もうすぐ依頼が終わるという事もあり、一度王女と話をしてみる機会を設けた。いろいろ疑問に感じている事もあるのかと思えば、何の事もない、過去の思い出や好きなもの、旅の道中の事など他愛ない話を一方的に話していた。
王女の護衛がエリシュナまで――その点についてはまだ納得できる。恐らく王都から迎えが来るのだろう。過保護すぎるとは思うが、まぁ王族だから仕方ない。
だがしかし、「第一王子の護衛」とは一体何の冗談だ。確かあの王子は帝国のドワーフ奴隷を洞国へ送り届け、国交樹立の交渉に行っているはず。
(追いかけて手助けをしろって事か?護衛にはドワーフ三兄弟がついていたはずだろ。あいつらどうしたんだ?……っていうか、いくら王子だからって名前も知らんクソガキの御守りなんかしたくないんだが。いや、今知ったから年上なんだろうけど。拒否権も無しかよ……)
アクスは深々とため息を吐いた。
(よくわからんが、差しあたってやることは一つ――エリシュナに帰る!だ。あとはあのハゲを問い詰めてから考えよう)
サンドラの街を出る。一行が街道を少し歩いたところで、岩場の陰からウルフたちが音もなく姿を現した。緑灰色の毛並みが光を反射し、すでに主の命を待ち受けているかのように恭しく伏せている。
アクスたちは迷わずその背に跨がり、再び風を切るように駆け出した。
(いつも思うけど……やっぱ馬より快適だよな。というか、もう馬に乗る気が起きない)
そんなことを考えながら、アクスは一行を引き連れ森の道を走り続けた。
やがて、依頼も終わりに近いということもあって、アクスは王女と話をする機会を設けることにした。色々疑問に感じていることもあると思っていたのだが――。
「それでね、小さい頃はよく庭園でそのご令嬢と遊んだんですの♪ あの子、木登りは得意なのに下りるのが苦手で……私がいつも手を貸してあげていましたのよ」
王女は楽しげに笑いながら、過去の思い出や好きなもの、旅の道中で目にした風景など、他愛もない話を一方的に語っていた。
(……なんだよ。もっと深刻な相談でもされるのかと思ったのに。ただのおしゃべりじゃねぇか)
しかしその声音は澄み切っていて、どこか心を和ませる力があった。護衛対象であることを忘れそうになるほど、自然体で笑い続ける王女。
アクスは頭をかきながらも、結局その話を最後まで聞き続ける。
(そういえば女子という生き物は人の話を聞くより人に話を聞いてもらう方が好きな人種だったな)
(いえ、それはそうなのですが、彼女の場合はそうではなく…)
(ん?何?)
(…いえ、何でもありません)
何だかノアが残念主人扱いしてくる。しかし王女を無駄に警戒していた自分がバカのようだ。道中はあまり急がず、宿場町で3泊しつつ、4日目の昼にはエリシュナに帰ることができた。ウルフは森に転送し、お礼に脂の乗ったミノ肉と内蔵を食べやすく切り分けて提供、雷牙はアークに帰還、エルフと王女を宿に預け、アクスは冒険者ギルドに向かう。
「あれ、アクスさん!依頼は?」
「終わったから報告に来たんだよ」
「えー!いくら何でも速すぎですぅ!予定の半分より短いじゃないですかぁ!」
「まぁ落ち着け、その件も含めてギルマスと話がしたいんだが、今いるか?」
「はーい、ちょっと呼んできますぅ、まーすたーぁ!」
相変わらずパルマは元気で…声がでかい。でも、何かホームに帰ってきたような安心感がある。アクスもエリシュナの生活が染みついてきた。
「ようアクス、早かったな」
「早かったな、じゃねーよ、何だあの伝文」
「まぁまぁここじゃ何だから、応接室に来てくれ」
応接室で事情を聞く。早めに切り上がったとはいえかなりの長旅、移民の護衛も王女の相手も女王との交渉も結構神経使ったし、正直暫く休みたい。だらだらしたい。何とかして断りたい!
「まず、王女はこの後どうなるんだ?」
「王女様は迎えが来るまでこの街一番の宿”銀星館”にお泊り頂く、話は通してあるし、冒険者の護衛も手配済みだ。」
ガルドは自分の完璧な仕事ぶりに余裕の表情を浮かべる。
「エルフの子達はどうするんだ?」
「あ?エルフ?何だそりゃ、森に帰してきたんじゃねぇのか」
「いや、移民の大半は森国に送ってきたんだが」
「何だよ、お気に入りを連れ帰って来たってのか?」
「違うわ!帝国で生まれたとか両親が殺されて身寄りが無い子とか王国で預かるって王女が言い出したんだよ、あと…」
「あと…何だ?」
「…ハーフエルフがいる」
「は、ハーフエルフ!!実在するのか!」
「あぁ、3人」
「3人も!!?」
「皆帝国の生まれだ、両親は言わずもがな、何で生まれたかは…わかるだろ」
「あ、あぁ、ひでぇ事しやがる。まぁさすがに森国のエルフには…受け入れられんか」
「あぁ、見つかった時その場で処刑されそうになったよ」
「なに!それは…引き取るしかないか」
「王女も引けなかったんだろうが、あそこで決断してくれなかったらあの子達の扱いは帝国と変わらなかった、もしかしたらもっと酷くなっていたかもしれない。ただ、森国のやつらがハーフエルフだからって笑いながら平気で子供を嬲り殺すような奴らだったら…」
「だったら?」ガルドはごくりと唾を飲む。
「今頃森国はどうなっていたかな…なんてな」アクスは不敵な笑みを浮かべる、だがその目は笑っていない
「お…おいおい冗談だろ」
「当たり前だ、エルフは人間を警戒していただけで心から蔑みたいわけじゃない、まぁ多少恨みはあるだろうが。ハーフエルフの存在も長年続いた安定が崩れてしまうのが怖かったんだろう。実際は俺も王女も差別は受けなかったし、ここだけの話交渉もかなりうまく行った。エルフは気の良い奴らだったよ。」
「ん~そりゃお前と王女じゃなぁ…まぁいい、わかった!そのエルフの子達もギルドで面倒見よう。銀星館とまではいかないが、融通の利く宿で高ランク冒険者の護衛も別でつけよう、任せてくれ」
「護衛は俺がやってもいいんだが」
「お前は次の任務に向けて準備してくれ!」
「そう!それだよ!何でいきなり第一王子の護衛なんだよ、鋼鉄の誓いが担当するんじゃなかったのか?」
アクスの問いにガルドは詳細を説明する。
「まぁ護衛だけなら鋼鉄だけでも問題ないんだが、問題は交渉の方でな、よく考えて見れば鋼鉄もドワーフな訳だ。洞国が有利になる交渉に持って行かんとも限らん。まぁそんな奴らではないとは信じているが、念のためだ。」
「なら国から専用の外交官なり口がうまい文官なり連れて行けばいいだろ」
「それが国の文官共がことごとく仕事を断りやがってな、よくわからんが、ギルド員に元王城で文官をやっていた奴がいてな、そいつの話だと…どうやら王子が曲者らしい」
「王子?第一王子が?謁見の時に会ったけど無害そうな奴だったけどなぁ。終始一言も喋らなかったし」
「まぁノルガルムも遠いし、失敗したら責任押し付けられそうだし、人間以外との交渉なんてやった事ないだろうしとかいろいろ予想はできるが、やはり王子の尻拭いをしたくないってところが一番じゃねぇか?たぶんな!」
「ほーほー、とにかく面倒な王子だと」
「おう、そうだ」
「じゃぁ俺もやだよ。文官が断れるなら部外者の俺も断れるだろ」
「そこを何とか頼むよぉ~他に適任いないんだよぉ~」
ここにきてハゲジジイの泣き落としである。まぁガルドにも王命が下っているようなものだし、どうせ断れない。国王に文句の一つでも言いたいところだが、任務完了後にするとしよう。ドワーフとの飲み会も結構楽しかったしな。アクスは任務受注を了承する。
「で、その王子様は今どちらにおらせられるんでいらっしゃいますでしょうかぁ?」
「そう拗ねるな、もう諦めろ、王子は…丁度城を出たところじゃないか?」
「え、まだ?ん?あ、いやそうか…」
アクスは少し思い違いをしていた。当初の計画ではアクス達がエルフの森を抜ける頃には王子たちは公国を経由して洞国へ向かっているはずだったのだが、計画時は建前上馬車での移動を想定した日程だったのに対し、アクス達の移動は速度がほぼ倍のウルフ、しかも森で大幅なショートカットをした為、計画より随分早く着いていたのだった。パルマにも言われたのに、何とも間抜けな話だ。
「あーじゃぁあと8日くらいあるな」アクスは少し休める時間があると少し安心する。
「いや、4日くらいじゃねぇかな」
ガルドの話によると、今回王子や移民達を乗せた馬車は全て偉大蹄馬という巨大な馬に引かせており、移動速度は普通の馬の倍、まさにウルフ並みである。移動は速そうだが、馬車の揺れが心配だ。まぁアクスはチャリオの馬車で行くから速度も乗り心地も問題ない。
数日後、王子の一行がエリシュナに到着。王女を連れて挨拶に行くと鋼鉄の誓いが出迎えた。アクスのあまりの日程の速さに少々質問攻めに合うが、あとで話すからまずは王子と挨拶させてくれと頼むと簡易的な謁見の場に通される。そこには黄金の刺繍を施した深紅のマントを羽織った青年が玉座代わりの椅子に腰掛けていた。
「お兄様、ご機嫌麗しゅう」王女のカーテシーは相変わらず優雅だ。
「うむ、元気そうで何よりだ愛する妹よ」尊大だが一応ルーシェの兄のようだ。
「お久しぶりです、王子殿下」アクスは礼儀正しく頭を下げる。
「…誰だ?貴様」王子の言葉にピキリとしながらも、アクスは冷静に返答する。
「冒険者のアクスです。エリシュナのスタンピード解決の折、国王陛下との謁見の際に――」
「あぁ、あれか。あの時は影武者を立たせていたのだ。冒険者ごときに時間を割くほど暇ではないのでな、そういえば四聖とかいう美しい女を連れてたそうじゃないか、今日はいないのか?今すぐ連れてこい、あぁ、夜でもいいぞ、がっはっはっは!」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。だが王命である、冷静に任務内容を簡潔に告げる。
「王命により、ドワーフ移民及び殿下の護衛、そしてノルガルムとの交渉補佐にあたります」
「あぁ?これ以上護衛など要らん。交渉もこの俺様がいれば十分だ、おい帰らせろ!」
「陛下のご命令です」側近が耳打ちする。
王子アルディスは舌打ちし、不機嫌を隠そうともしない。
第一王子である18歳の青年アルディスは幼少の頃から神に選ばれた神童、少なくとも自分ではそう思っている。昔から勉学も剣術も完璧、負け知らず、チェスも軍議も軍の参謀を唸らせる実力、称賛と喝采の中でしか生きてこなかった自分はやはり特別な存在なのだと。
何なら現国王すら心の中では下に見ており、今すぐにでも王位継承しろと思っている。ルーシェリアも妹として可愛がってはいるが、最終的には政略結婚の道具としてしか見ていない。そんな王子にとって自分の護衛が増えるという事はそれだけ自分が国王に過小評価されていると捉えてしまうのだ。
しかしその実態は勉学も優秀な教師が能力に合わせて完璧な教育プログラムを組んでいるだけ、そのおかげで学校で好成績を取るくらい学力はそこそこある。剣術もチェスも本人のやる気を出させる為に相手が忖度してわざとギリギリで負けている。軍議も参謀が自然に誘導するか、的外れな作戦も一旦称賛しておいて王子が満足して帰ったら改めて練り直している、というのが現状。しかし誰も異を唱えず、かといって誰も王に報告せず、評価だけが上がった結果、今回の大役を任される事になってしまったのだ。
「これ以上冒険者ごときにこの俺様の活躍を薄められてたまるか!ならば貴様に実力を見せつけ、護衛など必要ない事を証明してやる」王子はアクスに決闘を申し込む。
「お止めください、お兄様!」可愛い妹の言葉にも王子は一切耳を貸さない。
黙って見ていた鋼鉄の誓いのドワーフ三兄弟がイライラし始めている。あくまで護衛対象なので大人しくしていてほしい。
「あぁ、言い忘れていたが…俺様は剣術の試合で負けた事が無いんだ…フフッ、残念だったな!」キメ顔で語る王子は剣の腕前に自信満々である。
時間がある時に武を極めたカグヤから完璧な剣術指南を受けていたアクス。ノアの分析の結果、(王子は見た目程強くはなく、バフ無しでも余裕で勝てます)との事。
「いつでもどうぞ」ノアの分析結果を聞いた途端余裕の態度を見せるアクス「この俺様相手に舐め腐りおって…いくぞ!」苛立ちを隠しもせず一気に踏み込む王子。
「ほぉらほぉらどうした!守ってばかりではないか!!」
開始早々、王子は自信満々で攻め続けるも、アクスは軽く受け流し、数合交えた末、ついに王子は体勢を崩す。アクスは軽く剣を弾き飛ばした。王子の眼前に剣先を突き出すアクス。
「勝負ありですね」
「今のはマグレだ!もう一度だ」王子は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「戦場は一瞬の判断と、その結果だけが全てです。もう一度なんてありませんよ」
アクスの言葉に王子は何も言い返せず、悔しそうに歯を食いしばった。王子はしぶしぶアクスの護衛を了承。アクスはルーシェとエルフ達に別れを告げる。メリルとヒュメルが泣いていたが、この任務が終ったら必ず会いに行くと約束したら何とか泣き止んでくれた。お転婆王女のお世話旅が終わり、代わりに残念王子の御守り旅が始まる。
人物紹介
アルディス・セラ・ドラヴァルト
アルケシア王国の第一王子、18歳。次期国王という事もあり国王が多数の教育係をつけて厳しく育てたつもりだが、王子に強く言えない教育係達が忖度と甘やかしを続けた結果ナルシストの残念王子になった。本人の実力とはかけ離れたプライドの塊であり、自分は神に選ばれた天才だと自分では思っている。王になどいつでもなれると高を括っており、今回のドワーフ護送の件も、護衛が多すぎる事から自分が過小評価されていると不満を垂らしている。
人物イメージ画像一覧はコチラ
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