第35話:『王女と姫との別れ、女王の姫への溺愛』
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一通り用事が済んだので、そろそろ帰らなくてはいけない。
(本当はこのまま山を越えて竜国を観光しつつ、カルバリアンを取りに行きたいところなんだが……)
アクスは空を仰ぎ、深く息を吐いた。クエストはまだ途中だし、王女は連れて行けない。急ぎでもないから、もう少し後でも良いだろう。そう自分に言い聞かせる。
王女と姫はすっかり仲良くなっていた。「ルーシェ」「アリシェ」と愛称で呼び合うほどの仲になり、別れの時はなかなか大変そうだ。
昨夜も、姫は献上されたでかいウサギのぬいぐるみとパペットを抱いて眠ったらしい。侍女がそっと話してくれたその様子は、まるで夢の中の一場面のようだった。
女王は相変わらず忙しそうに方々を飛び回っている。アクスはふと、王という存在のイメージについて考える。
(なんか王って、玉座にふんぞり返って配下に現地行かせて報告を受ける……みたいな感じだと思ってたんだが。何かイメージと違うな)
視察くらいなら配下に任せても良いのではないだろうか? そんな疑問が頭をよぎるも、女王の行動力を見ていると、否定する気にもなれない。
帰路としては、エルフに乗って森の南からアルケシアに出て、そこから死の平原を避けつつエリシュナを経由して馬車に乗り換え、王都で王女をお返ししてエリシュナに戻るのが一番妥当だ。
アクスはエリシュナと王都を往復する形になるが、仕方ない。
(往復を考えると帝国経由の方が若干近いんだが……王女を返した後なら転移できるし、エルフ達に検問所で帝国の兵士見せたくないし、何より俺がもう行きたくない)
帝国の空気を思い出すだけで、胸の奥がざらつく。選択肢は一つしかなかった。
そして出発の日――案の定、姫はバチバチと放電しながら号泣していた。
子供用のかわいいポンチョを着てくれているが、念のためなのか、御付きの人も同じポンチョを着て姫を抱き、宥めている。
「お世話になりましたわ、女王陛下」
王女ルーシェリアが丁寧に頭を下げると、女王セレヴィアは頷きながら応じた。
「うむ、気を付けて帰るが良い。森の南に関所と街道を整備しておく。今後、使者殿が馬車で来れるようにな。森国までの転移ゲートも用意しよう」
「寛大な御心、感謝いたします。それでは、御機嫌よう」
「うむ、達者でな」
「アリシェも、またお会いしましょうね」
王女の言葉に、姫は反応しない。侍女の胸に顔をうずめて、拗ねている。
王女はそっと姫が抱きしめているパペットに手を入れ、頭を撫で、手を握り、頬にキスをさせる。
姫の横顔は、嬉しそうな、くすぐったそうな表情を浮かべるも、素直になれなくてこちらを見てくれない。
(……ほんと、かわいいな)
アクスは微笑みながら、そっとその場を見守っていた。
「あー、あの、陛下。これは次回の交渉用に取っておこうと思ってたのですが」
アクスが少し気まずそうに言うと、女王セレヴィアは眉をひそめて鋭く返す。
「何じゃお主、あといくつ出し惜しみしておるのだ」
(いや、そんなに怒らなくても……)
「先出しし過ぎて飽きられても困りますので、まぁ今後のお楽しみという事で。今回は予想で持ってきたものばかりですので、次回は更に実用的なものをお持ちします。ではこちらを」
アクスは両手ほどの箱をそっと差し出した。女王が受け取り、蓋を開けると――
高く、優しく、澄んだ音色が広場に流れ出す。エルフには聞き慣れた、懐かしい子守歌の旋律だった。
「ルリエル!」
姫が反応する。だが、すぐに顔を背けてしまう。
「これはオルゴールといいまして、指定した音色を奏でることが出来るものです。ルリエルの眠りは一部王都でも知られていまして、念のためお持ちしましたが……まさかこんなにメジャーな子守歌だったとは…」
アクスはそれっぽい言い訳を並べながら、女王の反応を伺う。
「なるほど。構造は単純だが発想は素晴らしい。音色も美しいな。買うぞ」
「いえ、こちらはサンプルという事で。次回、量産してお持ちします。この後、多分姫が泣くと思うので、宥めるのにお使い下さい」
「分かった。感謝する。量産分は全て買い取ってやろうぞ」
(……姫が絡むと交渉がガバガバになるの、何とかした方が良いと思うんだが)
実際、今回持参した分だけで相当な額の金や宝石を支払ってもらった。お土産として、森の果実や木の実、焼き菓子、種なども大量に頂き、姫のマジックバッグはパンパンになっている。
アクスのマジックバッグ――というかノアのインベントリはほぼ無限なので、ある程度のところで「入りきらない」と嘘をついて終わらせた。
(まぁ王国相手なら、とりあえず変な事にはならないだろう)
そして、出発の時が来た。
アクスはウルフに乗り、森の南へと向かう。背後では、姫がバチバチと放電しながら号泣している。
「ルーシェ!ルーシェェェェエーーー!ウワァァァーーーン!」
姫の叫び声が、森の静寂を突き破るように響いた。
風除けの魔法は前方にしか展開されていないため、後方の音はそのまま通る。つまり、姫の絶叫は王女に丸聞こえだ。
(王女様、泣いてなきゃいいけど……)
振り返ることはできない。今の位置からでは表情も見えないし、仮に泣いていたとしても、何もしてやれない。別れとは、そういうものだ。
帰国メンバーは、アクスと王女。そして王国保護を求めたエルフ5人とハーフエルフ3人。雷牙にはアクスとメリルが同乗し、年少のハーフエルフ・セクトは別の個体に。王女と他の保護エルフたちはそれぞれ1人ずつ搭乗し、遊撃と予備も兼ねて追加で2匹。合計10人と10匹の帰国旅だ。
エマは神樹に帰るという体でアークへ戻り、ヴァネッサも「世界を見て回る」と言い残して森を離れた後、帰還した。
森の中には多種多様な生物が生息しているが、襲ってくる気配はない。姿形こそフォレストウルフだが、実際は全獣界最強種の頂点――“プラチナムフェンリル”なのだ。野生の本能が、近寄ってはいけない存在だと察しているのだろう。
地図上では、ウルフの足でも1週間はかかるとされる森。しかし、セリスとダリエンの先導によって、いつの間にか転移していたらしく、わずか1時間足らずで森の南へと抜けることができた。
(王女様を連れて森の中で数日キャンプを覚悟してたんだけどな……助かった)
森を抜けた地点で、改めてダリエンとセリスに挨拶をする。
セリスは、初対面の時に無礼な態度を取ってしまったこと、同胞を救ってくれたのに感謝の言葉も述べられなかったこと、そして兄も不遜な態度を取ってしまったことなど、諸々を丁寧に謝罪してきた。
(兄って……セリオか! 顔も名前も雰囲気もそっくりだ。さすが兄妹)
2人と別れ、ここからは自力で王都を目指すことになる。
まずは馬車を確保するため、エリシュナへ向かう。
森を出た地点は王国の北西部。このまま西へ進めば、アルケシアの友好国――レガリア公国がある。そこは大公が治める地で、さらに西にはドワーフの国・ノルガルムが広がっている。
(そういえば、ノルガルムにはルーシェの兄の第一王子が交渉に行ってたな……あれ、王子の名前なんだっけ?)
謁見の時に確かにいたが、紹介もされず、何も喋らず、まるで置物のようだった。
(まぁ、いいか)
一行はここから南下して、最も近い町・サンドラを目指す。
アリシェールの人物紹介
白雷の姫アリシェール・ルミナリア・エルフェリス
種の守り手(アリ:仲間(ally)シェール:守り手(shield))
ハイエルフの姫、発電体質、まだまだママ(女王)に甘えたいお年頃、ルーシェと仲良し、ぬいぐるみ大好き
森国と王国の2人の姫ですが、実は名前に秘密があります。
ルーシェリア
アリシェール
回文のように逆さになっているんですね。これは当初、アリシェール姫も16歳の同い年設定で、愛されて育った王女ルーシェリアと、愛されず育ったアリシェールを対比で描いて、無慈悲に暴走するハイエルフの姫を王女とアクス達で何とかするという構成を考えたのですが、どう考えても何ともならなかった、というか王女では相手にならないし、姫を倒す訳にもいかないし、何とかした所で何になるんだろう・・・という所で詰んでしまいました。
王女が持ってきたぬいぐるみを伏線にしたいとも考えていて、頭の中にウサギをボンと置いたら、どこからともなく4歳位の女の子が駆け寄って抱きついてきたので、アリシェールは4歳になりました。名前はボツ設定の名残りですが、結果仲良くなったので良しとしましょう。
かなり残酷な結果ですが、一応16歳アリシェールの展開は考えてはいるので、いつか余裕が出来たらアナザーストーリーとして投稿でもしようかな?




