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無能転生者、何もせず遊んでたら異世界救ってました。  作者: 真理衣ごーるど
╰╮第5章:リュミエール森国編╭╯
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第33話:『売れないウサギの人形、触れないエルフの姫様』

当作品を閲覧頂きありがとうございます。宜しければ一言だけでもレビューやご感想頂ければ今後の励みになります。

 その頃、王女はというと、いつの間にか貴族のご婦人方に囲まれ、別の輪で盛り上がっていた。


 持参した煌びやかなドレスや靴、バッグ、石鹸、香水、洗髪薬、宝石のアクセサリーや調度品、さらにはオルゴールや時計といったからくり品まで、女性陣の興味を独り占めしている。


 ただ一つ、場に受けなかったものがあった。――巨大なウサギのぬいぐるみだ。寂しそうに隅に押しやられているそれは、時折モゾモゾと動いており、よく見ると黒い何かが張り付いているようにも見える。


「姫様!! 姫様どちらに!!?」


 突如として騒ぎ出したのは、姫と王の傍らに控えていた側近だった。


 視線が一斉に壇上へ向けられると、そこに居るはずの<姫>の姿がない。王はおろおろと落ち着きを失っていた。


「まさか……」アクスは即座に走り出し、ウサギのぬいぐるみに駆け寄る。


 その脇の下には――真っ黒なドレスに銀色の長いまつ毛とツインテールを靡かす美少女、ハイエルフ王族の姫が、ぬいぐるみにぎゅうっと抱きついて離れようとしない姿があった。


「姫様、危のうございます! 席にお戻りを!」


 慌てて駆け寄る側近の声にも、姫は首をぶんぶんと横に振るばかり。ファサファサと揺れる白銀の髪が、その拒絶をより鮮烈に見せつけていた。


 側近が姫の肩を掴もうとした瞬間――バチッ!鋭い音と共に小さな閃光が走り、側近は痺れて「ぐわっ」と呻き尻餅をついた。場にざわめきが広がる。


 そんな中、ルーシェ王女は騒ぎを気にも留めず、そっと姫の前で膝を折り、目線を合わせて微笑んだ。


「ごきげんよう、お姫様。こうしてお話しするのは初めてですね?」


 柔らかく包み込むような声音。姫は驚いたように顔を上げ、頬を赤らめながらこくりと頷いた。


「お気に召していただけましたか? この子も姫様とお友達になりたいと申しております。もしご一緒に過ごしていただけたら……私もとても嬉しく思います」

「ほんと!?」


 それまで虚ろで生気のなかった姫の顔が、一瞬でぱっと輝きを帯びる。伏し目がちで細かった瞳が大きく丸く開かれ、まるで花が一気に咲いたような可憐さ。


 ――ほのぼのとした光景のはずなのに。エルフの貴族たちは皆、驚愕に目を見開いている。


 王女は思わず、そのあまりの愛らしさに手を伸ばし、姫の頭を撫でようとした。だが――。


「……っ!」


 姫はさっと自分の頭を両手で覆い、せっかくの表情がまた無表情へと戻ってしまう。どうやら直接触れられるのは苦手なようだ。


 そこでアクスが一計を案じ、ウサギのぬいぐるみの後ろに隠れながら、自分の手でぬいぐるみを操り、姫の頭をポンポンと軽く叩かせた。


「うさちゃん?」姫は目を瞬かせる。


 ぬいぐるみには素直に反応しているようだ。どうやら“間接的”なら大丈夫らしい。


「うさぎぃ、ともだぁちぃ。こぉれからぁ、よろしくねぇ~」


 アクスは少し野太い声を作り、うさぎが話しているように演じた。


「ともだち? ともだちになってくれるの?」


 姫は嬉しそうに、けれどどこか不安げに問い返す。


「うさぎぃ、ひぃめぇさまぁ、すうきぃ~」

「キャハハッ!」


 姫は無邪気に笑い声を上げた。よし、ウケた!


「な、なんてことだ……」

「姫様がお言葉を……!」

「お笑いなされたぞ……!」

「女王様にお知らせせねば、伝令を呼べ!」


 周囲のハイエルフ貴族たちがざわざわと騒ぎ立つ。


(え、言葉しゃべるくらい普通だろ……メリルくらいの年齢に見えるし……)


 アクスは心の中で困惑するが、王の席でも別の騒ぎが起きていた。


「王様、この度はおめでとうございます。姫様がお言葉を」

「……うむ」


 王も動揺を隠せずにいる。


 そんな中、ルーシェ王女は再び優しく語りかけた。


「姫様、こちらで我が国の品をご覧になりませんか?」


 だが姫は、まだぬいぐるみの脇にしがみついたまま固まっている。


「殿下、お手をどうぞ」アクスの申し出にためらいなく微笑んで手を差し出す王女。


 そこでアクスはさりげなく、王女の差し出した手にあるものをスポッとかぶせた。


「こちらは……?」


 王女が不思議そうに視線を落とすと、そこには可愛らしいウサギのパペット人形が。


 小指と親指を動かすと両手が、さらに中指を動かせば顔が上下し、喋っているように見える仕掛け。しかもフリルの付いたかわいいドレスを着た“お姫様仕様”である。


「まぁ♪」


 王女はすぐに使い方を理解し、嬉しそうにパペットを操って姫へ話しかけた。


「姫様、一緒に遊びましょ♪」


 普段より少し高い声で演じられる子ウサギ。王女の器用な指捌きで、パペットはシュバシュバと機敏に動き回る。


 姫はしばらくじっとその動きを見つめ――やがて、そっと手を伸ばしてパペットを軽く抱きしめた。


 グランによると、ハイエルフの姫の名はアリシェール・ルミナリア・エルフェリス、白雷の姫と呼ばれ、ハイエルフ王族の特徴であるハイエルフ王族にのみ現れる特異体質、“半身精霊”。アリシェールの場合体の半分は雷の精霊で、生まれながらにして雷属性が肉体に宿っているという。


「ちなみに女王陛下の半身は陽光の精霊じゃ。太陽の光そのもの、光属性の最上位じゃな」


(スキルどころか体の半分が精霊って……それもう半分エルフやめてるやん)


 アクスが内心でツッコむのも無理はない。人間で言えば国王の血継スキルのようなものだろうが、ハイエルフ王族ともなるとそのスケールが違いすぎる。


 姫の雷の力が発現したのは、わずか二歳の頃。最も甘えたい時期に、誰も抱き上げることすらできなかった。近づけば感電する。親でさえも、姫に触れることができなかった。


(訳も分からず、突然親に見放されたと思ったんだろうな……)


 最近になってようやく力の制御が可能になったらしいが、その方法がまた過酷だった。


 “感情を殺すこと”。


 感情が動けば電撃が走る。そう理解してから、姫は表情を封じ、言葉を閉ざし、誰にも触れず、ただ静かに力の発動を抑えているという。


 魔力ではなく、精霊による物理的な自然現象。魔術に長けたエルフたちでさえ、手の施しようがないらしい。


 ちなみに女王陛下はピカーッと暖かな陽光を放つだけで、ただの眩しい幼子だったそうだ……


 ふと、アクスは思い出す。先程、姫がぬいぐるみに感情を動かしていた時、王女が頭を撫でようとしていた場面。


(あれ、感電しててもおかしくなかったんじゃ……いや危なっ!!)


 幸い、ぬいぐるみは綿と空気が間にあるため絶縁性が高く問題ないようだ。


(しかし不便な体質だなぁ・・・大人になれば強力なんだろうが、子供にこれはさすがに可哀そうだ。ノア、何かいい案無いか?)

(お任せ下さい。では、こちらを・・・)


 ノアが差し出したのは、一見するとただの手袋だった。だが、アクスはそれを受け取ると、すぐに姫のもとへと歩み寄る。


「姫様、お手をどうぞ。大丈夫、これは絶縁布ぜつえんふといって電気を通しません」


 差し出された手に、姫は恐る恐る触れる。パチパチと身体中に電流が走るが、アクスには何の影響もない。


 アクスはそっと姫の手を握った。布越しではあるが、久しぶりの“人の感触”に姫の感情が高ぶり、電流がバチバチと強くなる。


「大丈夫ですね、王女殿下。こちらを」


 アクスは王女に手袋を二つ渡す。軍手のような形状で、左右共用だ。


 王女は手袋をはめ、ゆっくりと姫の頭に手を伸ばす。姫は猫のように撫でて欲しい部分を王女に向け、頬をさすられ、顎を転がされ、最終的にはわしゃわしゃと頭を撫で繰り回される。


 姫はくすぐったそうに身をよじるが、その表情はとても嬉しそうだった。


 そして――なぜか王女の方が、恍惚とした表情を浮かべている。


 姫のくすぐったそうな笑顔に、王女の表情はどんどんとろけていく。


「ふふふ……かわいらしいですわ、姫様……」


 その声は、どこか陶酔したような響きを帯びていた。撫でる手が止まらない。頬、顎、額、耳の後ろ――まるで猫を撫でるように、姫の柔らかな髪を指先で弄ぶ。


 姫は困惑しながらも、撫でられるたびに身体を王女の方へ寄せていく。撫でて欲しい部分を差し出すように、頬をすり寄せ、頭を傾ける。


(あれ……これ、ちょっと危ない流れじゃないか?)


 アクスが眉をひそめた瞬間だった。


「もう、我慢できませんわっ!」


 王女が両手を広げ、姫を抱きしめようと勢いよく身を乗り出した。


「ちょーっ! ダメですって!」


 アクスは反射的に飛び掛かり、王女を抱え込むようにして姫から引き離す。勢い余って、王女の胸が少し当たった気がしたが――それは今はどうでもいい。


「絶縁は手だけです! それ以外は感電しますよ、落ち着いてください!」

「はぇ? あぁ……申し訳ありませんわ」


 王女はようやく正気に戻り、頬を赤らめながら姿勢を正す。


 姫はぽかんとした表情で二人を見つめていたが、すぐにまた無表情に戻る。だが、その瞳の奥には、ほんのりとした温もりが宿っていた。


(危なかった……でも、姫の反応は悪くなかったな)


 アクスが胸を撫で下ろすと、静かに一歩前に出る。


(ノア)

(はい、ではこちらもどうぞ)


 アクスは静かにマジックバッグに手を差し入れ、目的の品を取り出す。

「姫様に触れるには、これが必要ですね」

大きなウサギのぬいぐるみ秘話

ルーシェリア王女が持参した大きなぬいぐるみ。あれは第20話で王女が馬車で悶絶しながら抱いていた人形です。これはエルフに見せる為ではなく、単に王女のお気に入り。王女も幼少から王族の第一王女という立場で、王妃である母に素直に甘えられず寂しい時期を送っていた時期がありました。その時の心の支えになっていたのが3歳の誕生日に貰ったうさぎの人形。最初はあまりの大きさに少し恐怖を感じたものの、次第に見慣れて自身が成長するに連れ愛着を感じ、今では離れられない程の相棒でした。浄化魔法と修復魔法で丁寧に管理し、新品同様に維持してきた家族のようなものでしたが、アリシェール姫の姿を過去の自分と重ね、似たような悩みを持つであろう姫にはこの子が必要だと決心し、笑顔で譲ったのでした。ええ子や。。。


次回は作者渾身の第34話、第5章森国編もクライマックスです。皆さまハンカチのご用意を。


人物イメージ画像一覧はコチラ

https://ncode.syosetu.com/n1501lc/

おもしろかったら下のグッドボタンを押してくれると嬉しいです。引き続き次回作もお楽しみ下さいm(_ _)m

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