第32話:『最弱の魔法を、最強の魔法に』
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一夜明け、朝食の席でアクスが昨夜のグラントエルとの会話を王女に伝えると、ルーシェリアは瞳を輝かせて身を乗り出した。
「まぁ!そんなお話をなさったのですね。ぜひ私も参加したいですわ!」
どうやら彼女が森に入る際、マジックバッグにぎゅうぎゅうに詰め込んでいた品々は、すべてエルフに見せるための“交流の種”だったらしい。さすが王女、用意周到である。
その後、部屋で待機していると「グラン様の使い」を名乗る者が現れ、丁寧に案内を告げる。ついていくと、宮廷の広場に出た。
そこには昨日も顔を見たハイエルフの貴族たち、軍の将校と思しき屈強な男たち、そして学者や研究者風の者たちがずらりと集まっている。奥には王配殿下と姫の姿もあるが――女王の姿はない。どうやら本当に多忙らしい。
「皆の者、よくぞ集まってくれた。まずはこれを見てくれ!」
グランの響いた声に目を向けると、現れたのは頑固そうな顔つきの職人風の老人だった。彼の手には、昨日アクスが渡したクロスボウが握られている。
老人はそのまま片手で構え、広場の端に据えられた的へ向けて矢を放った。ヒュン、と短い風切り音。矢は真っすぐ飛び、的の中央に突き刺さる。
「おぉ~……!」周囲からどよめきと感嘆の声が上がった。
「これは片手で弓を放てる道具じゃ!かの始祖様の武器のようにな。人間の国には、まだ我らの知らぬ技術や製品が山ほどある!今日はその一端を、こちらのアクス殿にご披露いただこう!」
グランの朗々(ろうろう)とした声が広場に響き渡り、集まった者たちの視線が一斉にアクスへ注がれる。
その直後、クロスボウを持った老人がアクスのもとへ歩み寄った。
「お初にお目にかかる、人間の冒険者アクス殿。ワシはリュミエール森国武具職人協会の会長を務めるギークと申す!」
ギークは、興奮を抑えきれない様子で言葉を続ける。
「昨日これを見た時は腰を抜かしたわ!これまで我らは弓と矢の精緻な造りにばかり心血を注いでおったが、扱いやすさについては考えもせなんだ。だがこれは違う。子供でも撃てる、実に優れた代物じゃ!」
声が広場に響き渡る。男性陣は興味津々といった面持ちだが、ご婦人方は退屈そうに欠伸を噛み殺している。
そこへ――王女が首を傾げ、アクスへ問いかけた。
「アクス様、それは……?」
おっとこれはまずい。
クロスボウは、森の手前で王女にも見せていなかったのだ。しかもこれは<地球>で発明された武器で、この世界にはまだ流通していない。コンパウンドボウと同じく、時代を飛び越えた“異物”である。
「こ、これは……正確には、ドワーフの国に行ったときに譲り受けたものです。設計図も一緒にもらいましたので、アルケシアの職人に量産をお願いしているところでして……」
アクスはとっさに、少し脚色を交えた説明をする。実際はドワーフから教わったわけではなく、宴席でこれを披露した時に
「これならエルフも飛びつくだろう」
と太鼓判を押された。そこで技術交流の切り札として温存していたのだ。自分で発明したと言わなかったのは構造を説明できないから。イメージをノアに伝えたら完全再現してくれたのだ。
「ドワーフか……なるほど、チビのくせになかなかやりおるわい。しかし、あの髭だるまどもめ。ワシらの高貴で美しい容姿を愚弄せなんだら、もう少し話も聞いてやるのにのぅ」ギークが唸る。だがその言葉には棘があった。
(……容姿を愚弄、って“トンガリ”のことか?この場で言ったら確実に射殺されるやつじゃん……)
アクスは冷や汗をかきつつも内心で毒づく。
(いやいやエルフさん?容姿で愚弄してるの、あんたらもだぞー!? 本質は似た者同士なんだから、仲良くすればいいのに……)
「お次はそうですね、この中に風魔法が得意な方はいらっしゃいませんか?」アクスの問いに、周囲のハイエルフたちが怪訝そうに顔を見合わせた。
「何を言うとる、ハイエルフは全員、全属性使えるぞい」飄々と答えたのはグランだった。
(ハイエルフすげぇな……てかお前らが帝国と戦えよ!)アクスは心の中で突っ込みを入れる。
「そうなんですね。では、エアサークルは何個作れますか?」アクスが尋ねた。
<エアサークル>は初級風魔法で、円盤状の風の渦を生み出す術だ。スピードは<エアショット>ほど無いが、自在に操作できるため、小動物を追い詰める際や確実に狙いを定めるときに使われる。
「作って飛ばすだけなら、魔力が尽きるまで可能じゃ。周囲に固定するなら三十かの」
「では、自在に操作できる数は?」
「んー、確実なのは指一本につき一つ。十個じゃな。……しかしエアサークルなんぞ、初級魔法で何をするんじゃ?」
グランが首をかしげると、アクスはにやりと笑い、マジックバッグからある物を取り出した。
「十個ですね・・・ではこちらをどうぞ」
アクスが差し出したのは十枚の三つ又ブーメラン。ただのブーメランではない。魔鉄鋼で作られ、三つの刃が風切り音を奏でるほど鋭く研がれ、背の部分は根元が少し広がっていて、風を掴みやすい形状になっていた。
「ほぅ……これは面白い」受け取った瞬間、グランは全てを察したように口角を吊り上げる。
彼は十枚のブーメランを空へと放り投げ、同時に十個のエアサークルを展開。ブーメランは風を受けて超高速で回転し、グランの指の動きに合わせてまるでドローンのように自由自在に舞い始めた。
「な、なんじゃと……!」
「嘘じゃろ……」
ざわめくエルフたちの目の前で、ブーメランは広場に生えていた一本の木へと殺到。次の瞬間、シュルルルルッという風切り音とともに幹が輪切りにされ、バラバラの丸太となって崩れ落ちた。枝葉がどすんと地面に落ちる。
「な、なんという……!」
「初級魔法で……ここまで……!」
エルフ達は口をあんぐりと開け、言葉を失っている。
「これなら初級の風魔法しか使えない開拓民でも、十分な戦力になるでしょう。また間伐(間伐)や間引き、雑草の整理、魔獣を追い立てるのにも有効です、森国では需要は多いかと。」
アクスの説明に、グランは満足げに頷いた。
「ほう、これは魔鉄鋼製か」
「魔鉄鋼か……。ミスリルなら錬成できるんじゃがのう」
「しかし確実に刃が欠けるのぅ」
「黒エルフ共に任せるか?」
「まぁ髭に頼むよりはマシかの、しかし、うーむ・・・」
回収したブーメランを囲んで、ハイエルフたちがああだこうだと議論を始める。
「あのー、これは人間の国の工房で作れますので、量産して卸すことも出来ますよ?」
アクスが声をかけると、グランは目を細め、やがて破顔した。
「ほぅ、そうかそうか!これは人間の武器か。なるほどのぅ……初級魔法を強力にする補助武器か。いやはや、恐れ入った」
グランはアクスを称賛する言葉を惜しまなかった。
3枚羽のブーメランの名前
エアサークルを最強のエアブレードに変貌させるあのブーメラン。回転時の断面図はUFОのような流線型になるので、”ユ”ニバ”ー”サルエア”フォー”スカッター(Universal Air Force Cutter)<空気の力を利用した汎用カッター>、約してユーフォーにしようと思ったのですが、長いし何かに引っかかると怖いので作中に書くのはやめました。
人物イメージ画像一覧はコチラ
https://ncode.syosetu.com/n1501lc/
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