第29話:『国交の可能性、歓待の宴会場』
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再びサロンに戻ったアクスたちは、それぞれ元の席へ腰を下ろした。女王はひとつ深いため息を吐き、扇をパチンと閉じる。
「……全く、何じゃあのデタラメな性能の弓は。反則じゃろうが!」
ぼやき混じりの口調だったが、どこか諦めが混じっていた。
「……まぁ、よい。さて、アルケシアの姫よ」
切れ長の瞳が、真っすぐにルーシェリアへ向けられる。
「我は其方らの国と、正式に国交を結びたいと思うておる」
ルーシェリアは胸の奥から込み上げてくる興奮を、必死に抑え込みながら優雅に答える。
「感謝いたします。お互いの文化と技術を交換し合い、共に発展してまいりましょう!」
「まぁ、後日、長老や大臣どもと話を詰めねばならぬが……わらわの申すことに反対などせぬ。安心せい」
女王は扇を軽く振り、どこか含み笑いを浮かべる。
「それに、先ほどの弓――コンパウンドボウであったか。あれを見て承諾せぬ者などおらん」
――結局のところ、ノアの機転とヴァネッサの迫力、王女の技量、そしてあの弓が決め手になった。半ば天使様の脅しのような形ではあったが、国交はどうにか前進することとなった。
今回は「国交の可能性を探る」のが主目的。具体的な内容は今後、使者を通じて協議し、合意に至った時点で正式な調印式をアルケシア王国にて行う流れとなった。女王自ら出向くか、外交官を派遣するかは、長老たちと協議の上で決めるとのことだった。
話がひと段落したところで、アクスが身を乗り出す。
「あの、女王陛下。恐れながら、ひとつお伺いしても……」
「なんじゃ、付き人」
(つ、付き人……!)アクスは心の中でズッコケつつも、質問を続けた。
「エルフは魔法技術のほか、杖の造詣にも優れていると伺っております。その技法について――」
「そんな話は後にせい。そろそろ時間じゃ」
女王はピシャリと話を切り上げた。
「時間、とは……?」
ルーシェリアが形式的に問い返す。
「決まっておろう。――歓待の宴じゃ! 長老や大臣たちも首を長くして待っておるわ」
女王の声に従い、一行はサロンを後にして、広大な宴会場へと移動する。
会場には高級そうな料理がずらりと並んでいた。彩り鮮やかな果実に、甘い香り漂う菓子類。エマとヴァネッサが夢中になっていたものより、さらに上等な品ばかりだ。
ただし――やはり肉はない。
壇上には女王の席が設けられ、その隣には煌びやかな衣装を纏った、オーラ皆無のおっさん。恐らく<王配殿下>だろう。
さらに反対側には、地味な衣装に無表情で座る少女。恐らくハイエルフの姫。まるで人形のように微動だにしない。
女王が立ち上がり、厳かに開宴を宣言すると、会場の者たちは立食形式で料理を楽しみ始めた。
女王の前には挨拶の列が途切れることなく続き、形式的なやり取りが交わされる。順番を終えた者は、完全に空気と化した王配に軽く挨拶をして壇上を後にする。姫に至っては、最初から存在を忘れられているかのようだった。
一方――ヴァネッサの周りは大人気だ。始祖と崇められているだけに、人だかりが絶えない。
エマの周りにも多少は集まっているが……本人は完全に無視し、ひたすら料理をむしゃむしゃ。
どうやらエルフの菓子にドハマリしているらしい。
A級冒険者と王国第一王女は完全に蚊帳の外である。二人は顔を見合わせて苦笑し、割り切って料理を堪能することにした。
肉こそないが、素材の味を生かした料理は舌に心地よく、特にパンや果物を使ったスイーツは絶品だ。
やがて場が落ち着いたころ、女王が再び壇上に立った。
「皆の者! 此度の宴は、森国の歴史に残る慶事を祝うものである!」
女王の声が会場を震わせる。
「まず、長年にわたり我らの開拓民や旅人を拉致し、奴隷としてきた帝国のオブ共から――同胞が解放された!
さらに北より攻め来たる魔族との国境には、突如として巨大な壁が築かれ、魔族領と森国は完全に分断された!」
女王の言葉に、会場がざわめき、やがて歓喜に変わる。
「もう帝国にも、魔族にも恐れることはない! 我らは安寧を手にしたのだ!」
会場中に割れんばかりの拍手と喝采が響き渡った。
「さらに、長年建国神話として伝承されてきた我らがエルフの祖である天使様、そしてわれらエルフのシンボルとも言える神樹の精霊様が同時にこの地に顕現されたのだ!」
朗々と響く声が会場の天井を震わせるほどに広がった。瞬間、空気が変わった。ざわめきは歓声へと変わり、誰もが息を呑む。
「我らこそが神樹に護られし聖なるこの地にて、唯一天使様の血筋を受け継ぐ神族の末裔である。伝承は正しかったのだ!」
その言葉が放たれた瞬間、会場内は爆発するような熱気に包まれた。歓喜の声があちこちから上がり、ヴァネッサとエマに向けられる視線はまるで神を仰ぐような敬意と畏怖に満ちていた。
涙を流す者もいた。老いた者も若き者も、誰もがその瞬間に立ち会えたことを誇りに思っているようだった。
その中心に立つ天使と精霊は、静かに微笑みながらも、どこか遠くを見ているような瞳だった。彼女の背後に揺れる神樹の光が、まるで祝福の証のように煌めいている。(※エルフ視点)
女王がゆっくりと歩み寄る。その足取りは威厳に満ちていたが、どこか緊張しているようにも見えた。
そして、ヴァネッサの前で立ち止まると、左手を胸に当て、右腕を左腰に添えて、静かに跪いた。
(あれは……)
ノアが小さく息を呑む。森の入り口で移民たちがしていた礼と同じだ。エルフ式の礼なのだろうか。
女王に続いて、次々と人々が跪いていく。その順番は何となく位の高そうな者からのようで、これも森国式のマナーなのかもしれない。
荘厳な沈黙の中、ヴァネッサがゆっくりと口を開いた。
「堅苦しいのは苦手です、面を上げなさい」
その声は柔らかく、しかし確かな力を持っていた。まるで風が森を撫でるような、優しくも揺るぎない響き。(※エルフ視点)
一同は静かに立ち上がり、再び宴のざわめきが戻ってくる。だが、先ほどまでの騒がしさとは違う。そこには敬意と感動が混じった、静かな熱があった。
ただの宴ではない。これは歴史の転換点なのだ。(※エルフ視点)
神樹の真実
神樹と天使にかなり信奉しているエルフ族の皆さん。天使始祖説については非常に残念な結果となってしまいましたが、神樹についてもさらにショッキングな真実が隠されています。果たしてその真相とは・・・? 明らかになるのは・・・60話以降くらいですかね。良ければ感想に予想を書いてみて下さい。
人物イメージ画像一覧はコチラ
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