第27話:『エルフの風習、アクスの失策』
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早速本題に入ろう、人間よ」
セレヴィア女王は扇を優雅にあおぎながら、すっと切れ長の瞳をこちらに向けた。その声音は決して荒くはない。しかし、どこかで冷徹な響きを持ち、場の空気を張りつめさせる。
「此度の同胞救出の件、感謝に堪えない。ただ――これはエルフの風習の問題なのだが、頼んでいない善意に過度な礼を返すのは、逆に相手に失礼という考えがある」
王女もアクスも、思わず姿勢を正した。女王の言葉は講義のように淡々としていながらも、一つひとつが鋭く胸に突き刺さる。
「善意とは本来無償であり、見返りを受け取った時点で、それは打算に変わる。当然、自ら頼んだ事を叶えてもらえば、相応の代償は支払う、言わば取引だ。しかし――自発的な善意は、我らエルフが日頃から互いに行っている友好の一つ。それに変に礼をすれば、かえってその者を“打算的な者”と貶める行為になる。よって我らは、善意を受けた時は最大の喜びの表現と、その者に最大の敬意を示す。そしてまたいつかその者が困っていた時に無償で手を差し伸べる。それが一般的な反応なのだ」
――そういえば。
助けたエルフ達からは「ありがとう」の言葉を受けた記憶がない。ただ喜びの涙を流し、抱き合い、笑っていた。
代わりに、街でも国でも、人間を見れば射殺すと聞いていた彼らが、アクスや王女を拒絶することはなかった。
上映会の時も、自ら会場を整え、集まってきてくれた。
迎賓館に泊められ、毎日のように菓子や果実を届けられたのも――すべて“友好”の表現だったのだろう。
「つまり……」王女が静かに口を開いた。
その握られた手は小さく震えている。怒りか、それとも別の感情か。
「我々がエルフを助けたという“善行”に対して“対価”を支払うのは、“失礼”にあたるのでやらない……そういう事ですね?」
その声音はかすかに張り詰め、アクスはハッと気づいた。
(あ……俺のために怒ってるのか)
ルーシェリアはただの随行者じゃない。アクスが自身とエルフ達をどれだけ気遣いながらここまで連れてきたかをずっと見てきた。それを理不尽に軽んじられるのを許せず、真っ向から問いかけているのだ。
女王は扇を軽く打ち鳴らし、涼やかに応じた。
「理解が早くて助かる。だが、これは其方らの為だ。見返りを要求した時点で、エルフ全体からの評価が下がる。……とはいえ、其方らは他国の人間。我らとの交流を望まず、エルフからの評価などどうでもよいというのであれば、好きなだけ礼を受け取り、そのまま帰るがよい。我はどちらでも構わん」
――くっ。
アクスは心の中で舌打ちした。奴隷救出をダシに、国交の条件をほんの少しでも有利に持ち込みたい……そんな下心は正直あった。
だが、この言葉では立場はフラットどころか、こちらが更にメリットを提示しなければ話が進まない。完全に“試されている”状況だ。
「かしこまりました、セレヴィア女王陛下」
ルーシェリアは深く息を整え、凛とした声で応じた。
「エルフの文化と風習を教えていただき、ありがとうございます。大変勉強になりました。……お礼については結構です。では改めて、今回の来訪についてご説明させていただきます」
その表情は毅然としていた。先ほどまでの怒りを内に秘めながらも、王女としての顔に切り替えている。アクスは密かに感嘆した。――この子、やっぱりすげぇ。
王女は丁寧に言葉を重ね、王国の現状、国境の問題、そして国交が双方にもたらすメリットを説明していく。
内容は国王の説明とほぼ同じだが、彼女の口から語られることで、ただの理屈ではなく“生きた言葉”として響いた。
十六歳とは思えないほど流暢で、必要な部分は強調し、不必要な部分はうまく伏せる。それは若き王女の誇りと矜持を感じさせる見事な演説だった。
女王は黙って耳を傾けていたが、説明が終わると扇をパチリと閉じ、表情を引き締めた。
「ふむ。委細、承知した。確かに――お互いにとって悪くはない話である」
その言葉に、王女の瞳がかすかに潤み、安堵の色を見せた。
だが――続く女王の言葉は、容赦なかった。
「しかし必要性というところでは疑問がある。帝国は奴隷を放棄し、今後エルフを攫うことも無いのであれば、我らにそれ以上の対策は不要。いかに帝国が攻めようとも、森に入れば我らに敗北は無い。懸念している帝国との国交など――天地がひっくり返ってもあり得ぬ。よって、貴国との国交も特に必要が無いのだ」
――バッサリ。
アクスは思わず頭を抱えそうになった。女王の言葉はあまりに正直すぎて、もはや清々しいレベルだ。
(おいおい、せっかく王女が頑張ったのに、この流れは完全に詰みじゃねーか……!)
痛いところを突かれてしまった。
――その瞬間、アクスは心の奥底で呻いた。
確かに、自分たちは奴隷の件を“勝手に”解決してしまった。
さらに――魔族領と帝国の国境に壁を作った際、勢い余って森国と魔族領の境まで一気に分断。
結果として、森国も帝国同様長年抱えていたであろう<魔族侵攻問題>まで文字通り”完璧に”解決してしまった。
だがそれは“まだ公表されていない事実”。
関係のない(ことになっている)アクスや王女が知っているはずもない。
だから引き合いに出すことすらできない。
――森国が完全に安全になった以上、多少の文化交流程度のメリットで、建国時からの掟を破ってまで人間と国交を結ぶ理由は無い。
このままでは、アクスたちは大きな労力と時間を費やしたにも関わらず、何の成果も得られず手ぶらで帰ることになる。まさに森国の一人勝ちだ。
王女の横顔を盗み見ると、彼女は予想以上に話が進まないことに今にも泣きそうな表情を浮かべていた。
「そう暗い顔をするでない、人間の姫よ」
女王セレヴィアはふっと扇を開き、声色を和らげた。
「こちらも、そなたらの行いに対し、手ぶらで帰させようとは思うておらぬ。今すぐ国交とはいかぬが――国境に関する協定については検討しよう。ハーフエルフの件も了承する。むしろ、わが国では生き辛かろう」
その後の話し合いの結果、森国から<通行手形>のようなものを発行してもらえることとなり、後日使者を通じて正式な書面で協定を結ぶことになった。
とりあえず、アルケシア側に森が勝手に増殖していく危険はなくなったわけだ。
……だが。
(これ、歴史的には“森国と対話できる道を切り開いた”ってだけで快挙だろうけど……)
アクスは内心で唇を噛んだ。
十六歳の少女にしては王女はよくやった。
むしろ、余計なことばかりしたアクスが交渉カードを先に潰し、足を引っ張った形だ。
用意していた秘策も、今さら出したところで焼け石に水。
「必要ない」と言われてしまえば、もうこちらに打つ手はない。
(……やっぱ俺が何かするとダメだな)
異世界に転生してから、すべてが順調に進んできた。
だがそれは――万能のノアにすべて任せていたから。
自分は“無能”だから、何もしない。ただ居合わせるだけ。
それでいいはずだったのに。
ここにきて、出しゃばった。
従者に指示を出し、王女から発言の場を奪い、結果として失敗。
(……前世で何を学んできたんだよ、俺は)
無能は何もしない。
してはいけない。
そのために万能従者がいるのだ。
ノアと王女に任せ、自分は裏方に徹していればよかった。
完全に詰んだ。
奴隷救出も、エルフからすれば「人間側のマッチポンプ」でしかない。
せいぜいマイナスの印象が少し改善された程度だろう。
もう――帰るしかない。
(さすがに万能でも、ここから国交に持っていくのは無理だろうな……)
アクスは自分の不甲斐なさを棚に上げ、念話でノアに八つ当たりする。
(……無理だよな?)
(可能ですよ♪)
ノアはあっさり答えた。
(う・・・うそだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!)
アクスは心の中で膝から崩れ落ちる。
(マジかよ……じゃあ、やってみてくれよ)
(畏まりました。では――いつものアレ、お願いします)
(……わかったよ。ノア、何とかして!)
(仰せのままに、我が主♪)
そのやり取りを終えた瞬間、場の空気が大きく切り替わる。
エルフの始まりと始祖説の真相
元々エルフは妖精が属性を捨て人になったもので、エルフがハイエルフに進化し王族として濃い血統を重ねた結果、体の半分が妖精に先祖返りしたものが今の王族であり、エルフェリスという古代種そのものであるが、いつからか翼を捨てた天使がエルフの始祖という説が広まり現在はそちらがメジャーになってしまった。
人物イメージ画像一覧はコチラ
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