第26話:『女王の美貌、王女の偉業』
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伝令が訪れてから二日目――ようやく<女王>との謁見の日がやってきた。
アクスと王女ルーシェリアは、それぞれ謁見用の衣装に着替える。王女の支度は、移民エルフの娘が手伝ってくれたらしく、淡い緑を基調としたドレスに身を包んだ王女は、まるで森に咲く一輪の花のようだった。
エマとヴァネッサも“謁見モード”に切り替え、宿を後にする。
宿の前に用意されていたのは――素朴な街並みに不釣り合いな乗り物だった。
二人掛けの三列シート、屋根はオープン。馬の姿はどこにもなく、車体は地面からわずかに浮遊している。
「……おお、空飛ぶ車か?」アクスは思わず感嘆の声を漏らす。
実際には空中高く舞い上がるわけではなく、一定の高度を保って地面を進む構造らしいが、それでも馬車文化しかない王国と比べれば革命的だ。
(これ……ぜひ王国に導入してほしいな。馬車の時代が終わるぞ)
そう考えながら、四人は車に乗り込み森国の王城を目指した。
街を走り抜けると、道の両脇から歓声が上がる。凱旋パレードのような盛り上がりに、アクスは一瞬「自分に?」と思ったが、すぐに悟った。
その視線と声援は――後部座席のエマとヴァネッサに向けられている。
ヴァネッサは余裕の笑みを浮かべ、手を振って応じている。対してエマは、やたらキリッとした表情で無言の威厳を保っていた。
(……座席、前後逆にした方が良かったな)
アクスは内心でぼやきつつ、王城の門が近づくのを見つめた。
宮殿に到着し、応接間に通される。
それまでキリッと精霊然としていたエマは、ソファに腰を下ろすなり、ぐにゃりと溶けるようにだらけた。
「ふぁぁ~……精霊のフリ疲れるです~」
「いやお前元精霊だろ。それに無理してキリッとしてなくてもいいだろ……」アクスは呆れ気味に呟く。
だが、エマによれば「精霊=威厳ある存在」というイメージをエルフが強く持っているため、余計な言葉を発してボロが出ないように、ノアと相談した結果「む!」だけで押し通す作戦になったらしい。
ヴァネッサはというと――いつも通り涼やかで卒がない。むしろ普段の振る舞いが天使そのものなので、違和感はなかった。
しばし待たされる間、二日間かけて詰めてきた“こちら側のスタンス”の最終確認を行う。
エルフ達は、エマを<神樹の精霊>、ヴァネッサを<始祖天使>だと信じている。
エマが精霊だった頃の姿は今とは全く違うらしいのだが、ノアが受肉用の素体を創造した際、エルフに伝わる伝承や神話をベースに容姿を設定したため、伝承通りの姿が実体化してしまったのだ。
ヴァネッサについては始祖天使の伝承自体が古代エルフの御伽噺に過ぎず、実際にエルフの祖は天使ではない。神聖化された寓話が誤解のまま伝わっただけだった。
(まぁ……結果的に渡りに船、か)アクスは肩を竦める。
エルフには申し訳ないが、この誤解を利用させてもらう。とはいえ、二人を使って過度な要求をするつもりはない。あくまで女王と対話する“きっかけ”になればそれでいい。
二人にはエルフの想像通り「始祖」と「精霊」を演じてもらい、その二人と友誼を結んだうえで奴隷仲間を解放し、ここまで導いた人間――そういう立場であれば、どれほど人間嫌いなエルフであっても、無下に話を断ることはないだろう。
交渉の主役は王女だ。アクスはいつもの通り、ただ付き添うだけ。もちろん、万が一のための“切り札”は用意してあるが、使う必要はないはずだ。
「わたくし、がんばりますわ!」
王女ルーシェリアは緊張と気合を胸に、真っ直ぐに言い切った。
アクスはそんな彼女を横目に見ながら、静かに頷いた。
(さて――いよいよ女王様のお出ましか)
そうして打ち合わせを終えた頃、
コンコン――とドアを叩く音が室内に響いた。
従者が顔を覗かせ、恭しく頭を下げる。
「ただいまより、女王陛下との謁見にございます」
一同は王女を先頭に立ち上がり、部屋を後にする。
案内された先の扉は、拍子抜けするほど普通の造りだった。
仰々しい両扉や荘厳な装飾などは一切ない。
アクスは心のどこかで「え、こんなあっさり?」と感じつつも、扉を開いた。
中に広がっていたのは、謁見の間というよりサロンのような空間。
だが――そこに立つ存在を見た瞬間、アクスの思考は吹き飛んだ。
圧倒的な美の奔流。
二メートルを優に超える長身、絹のように輝く白銀の長髪。
透き通る美白の肌には一点の曇りもなく、切れ長の瞳は威厳と慈愛を併せ持っていた。
尖った耳と鼻は人間にはない造形だが、それすらも神秘を際立たせる。
頭上には、黄金に輝く王冠が天使の輪のように浮かび――その姿はまさに神話から抜け出したかのよう。
「ふぉぉ~……」
アクスの口から妙な声が漏れる。慌てて咳払いし気を取り直すが、心臓は跳ね続けていた。
(やっべ……見惚れてたら王女様に拗ねられるやつだ……)
そう思い王女を横目で確認すると――ルーシェリアもまた、ぽけーっと見惚れていた。
「ルーシェ様?」と声を掛けると、王女はハッと我に返り、慌てて裾をつまんで優雅に跪く。
すぐさまアクスもそれに合わせた。
王女は澄んだ声で名乗り、自分とアクス、後ろに控える二人を紹介する。
二人は棒立ちで無言を貫き、完璧に“神秘の存在”を演じていた。
「お初にお目にかかります」
女王は柔らかく口を開いた。
「余はリュミエール森国、第十三代<光冠の女王>、セレヴィア・ルミナリア・エルフェリス。知らせを受け、この時を心待ちにしておりました」
その声は、澄み切った鈴の音のように響き渡り、空気を震わせる。
女王はツカツカと軽やかな足取りで歩み寄る。まさか人間相手にここまで歩み寄るとは――アクスは意外に思い、王女もわずかに口元を綻ばせた。
だが、その足音は二人の間を素通りし、後方へと抜ける。
「……え?」
顔を見合わせるアクスと王女。恐る恐る後ろを振り向くと――
女王は、エマとヴァネッサの前で深く跪いていた。
(あー……なるほど。人間は眼中にすら入ってないってことね……)
アクスは内心で苦笑しつつ、ノアを経由してヴァネッサに指示を飛ばす。
「我々の事は後になさい、まずはそちらの人間と対話するのです、森人の女王よ」
「む!」
「し、しかし……」女王がためらう。
「私に同じ言葉を二度も言わせたいのですか?」ヴァネッサが低く響く声で被せた。
「か、かしこまりました……。では、こちらへ。どうぞお好きな席に」女王は顔を上げ、手を広げて招いた。
「人間、其方らも座られよ」
態度の差は歴然だったが、一応“認識”はされているようだ。
部屋の中はやはりサロンのような造りで、豪奢な玉座などは存在しない。
円状に並べられたソファーがあるだけ。
王女は奥に座し、アクスらは手前の席に腰を下ろす。
「他国から客を迎えるなど前例がなくてな。我が国には謁見の間も玉座も存在しないのだ」女王は小さく微笑んだ。
つまり――いまこの瞬間、<人類史上初めてエルフと公式に交流を持った人間>として、ルーシェリア・セラ・ドラヴァルトの名が歴史に刻まれることになる。
王女はその事実に胸を震わせ、感極まったように目を潤ませていた。
人物紹介:光冠の女王セレヴィア・ルミナリア・エルフェリス
ハイエルフの女王、高慢で冷徹、プライドが高いように見えるが、真面目でルールに従順で上下関係に厳しいだけで、守護精霊や始祖など上位の存在に対しては最大の礼を尽くす。半身が陽光のエレメントそのものであり、正式な種族名はエルフェリス(エルフ+フェアリーの半妖精)である。文字通り光を手足のように自在に操る。頭の上に王冠風に変形させた光の輪を浮かべており、天使始祖説を体現しているが、光の使い手であるセレヴィアのオリジナルなので、当代限りのパフォーマンスとなる。ルミナリアはリュミエール(森国)を統べる者、エルフェリスはエルフ+フェアリーから。
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