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無能転生者、何もせず遊んでたら異世界救ってました。  作者: 真理衣ごーるど
╰╮第5章:リュミエール森国編╭╯
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第25話:『リュミエールの雑種、ルーシェリアの好手』

当作品を閲覧頂きありがとうございます。宜しければ一言だけでもレビューやご感想頂ければ今後の励みになります。

 少し安堵した矢先、鋭い怒号が空気を裂いた。


「雑種だ! 雑種が居るぞ!」


 皆の視線が走る。そこにいたのは、まだ中学生くらいのエルフの少女。兵士が憎悪に歪んだ顔で怒鳴りつけ、剣を抜き放つ。


「オブと交わった穢れた存在を、この神聖なる国内に持ち込むなど万死に値する! 即刻処刑――!」


 剣が振り上げられ、少女がすくみ上がる。その顔は恐怖に引きつりながらも、どこか諦めを帯びていた。


(やばい、間に合わない――!)


 アクスが駆け出すよりも早く、光が走った。鋭い光線が剣を弾き飛ばし、ガシャンという金属音を立てて床に転がる。


 皆の視線が光の出処に向かう。そこには、紅茶を優雅に啜るヴァネッサの姿があった。


「な、何だ……!? 畜生、この穢れた雑種めがぁっ!」


 兵士が剣を失った苛立ちで少女を蹴ろうと足を振り上げた瞬間、透明な光壁が現れた。


「んぎゃあああああぁぁぁぁ!!」


兵士の脚は逆に弾かれ、骨がきしむ音を響かせながら悶絶する。


 ふと見ると、エマが杖を掲げていた。右手はバリアを維持しながら、左手ではしっかりエルフ特製クッキーをハムハムしている。


「なっ……精霊様!? なぜこのような穢れた者を……!」


 セリオが蒼白な顔で問いかける。


「む?」エマがヴァネッサを見る。


(え、私?)とでも言いたげにヴァネッサが視線を受け止め、居直るように口を開いた。


「人命の価値は平等。穢れなどありません。子は親を選べないのですから、子に罪はありません。生まれを罪とし、その子に背負わせるなど、あまりにも理不尽でしょう」


 言葉は澄んだ水のように響き渡り、兵士たちは動きを止めた。


「ですが……掟では他種族と関わること自体が禁忌と……」

「それはあなた方が勝手に決めたことです。私はそのようなことを望んではいません。それに――他種族と交わったのは親であり、その子ではありません。その親とて、帝国の者に無理やり……といったところでしょう」


 沈黙。兵士たちの表情が揺らぐ。


 その時、セクトが進み出て声を張り上げた。


「セリオ大隊長! この子は俺が責任を持って育てます! せっかく助かった命です。同じ苦しみを受けた仲、見捨てるわけにはいきませんでした。開拓民としてでも構いません、どうか……!」


 セリオは唸るように黙り込み、対応に窮する。


 そこでルーシェリアが一歩前に出た。


「わかりました。ではこういたしましょう。森国に馴染みの無い者、また希望者は、我が王城にて引き取ります。食客……とまではさすがにいきませんが、城の使用人として働いていただきます。王国一般市民よりは、ずっと待遇が良いはずですわ。その件も含め、一度代表の方とお話をさせていただけませんか」


 セリオはしばらく黙考したのち、深く頷いた。


「承知した。アルケシアの王女よ。我らも古い掟を今さら変えれば混乱が生じる。しかし天使様のお言葉も無碍にはできん。上に報告致そう」


 空気は重く、しかし確実に変わっていた。

 帰還者の中から、王国に付いていきたいという希望者を募ったところ――八人が名乗りを上げた。


 最初にアクスに抱きついてきた幼い少女メリル、そして七歳から十八歳ほどの少年少女が六人、全員が帝国の生まれで、両親を殺され行き場を失った子らだった。その中には、なんと三人もの<ハーフエルフ>がいた。さらに、最後に一歩前へ出たのはセクトだった。


「この子達の面倒を見る大人が必要ですから。それに……先ほど大声で啖呵を切った手前、もう引けません」

「いいのか? せっかく故郷に戻ってきたのに」アクスは思わず問い返した。

「王国と国交が樹立されれば、その橋渡し役になれると思います。こちらと往復する形になるのなら、さほど気になりません。それに……差別のないあなた方の国を見てみたいのです。人間にも良き者がいること、差別せぬ者がいること、そして他種族が共存する社会を――自分の目で確かめたい」セクトは真っすぐな目で答える。


 その言葉に、ルーシェリアは深く頷いた。


「セクトさん……素晴らしい覚悟です。必ず報いることを、この身に誓いましょう」


 やがて帰還者のチェックも終わり、別れの時が来る。家族を見つけた者は抱き合い、涙を流して喜び合い、縁故のない者たちも親の友人や孤児院のような場所に迎え入れられる形で、それぞれの居場所を取り戻していった。


 一方、アクス一行は宿泊先へと案内される。王女はもちろん、エマとヴァネッサ、そして残った七人の子供たちも一緒だ。セクトだけは一度実家へと帰っていった。


 森国の町並みは、エリシュナのように煌びやかではないが、しっかりとした建物が立ち並び、商店も点在している。ちょっと大きめの田舎町といった雰囲気だ。国の中心街にしてはあまりにも素朴で、王都や帝都を見てきた後では少々物足りなく映る。


 だが、料理に関してはどうやら当たりらしい。

 エマとヴァネッサの顔が、珍しくほんのり綻んでいた。どうやら彼女たちの舌には合っているようだ。見たことのない果実も並び、穀物を使ったパンや菓子は特に美味しい。


(うーん……味付けは素朴だな)アクスは料理を口に運びながら心の中で呟く。


 ノアの料理のように栄養も旨味もたっぷり、というわけではない。だが、素朴な分だけ毎日でも食べられる優しい味だった。正直に言えば物足りないが、パンは格別に美味かった。やはりここでは穀物や果物を使ったスイーツ系が主役なのだろう。


(……よし、ノアのコピー+アレンジ品に期待だな)


 夕食を終え、各々の部屋へと戻る。アクスも与えられた寝室で横になり、眠気に身を任せようとした――その時。


 コン、コン、とドアを叩く音。


「……ん?」


 ノアに確認させると、そこには顔を赤らめ、薄着姿の王女が立っていた。


(おいおいおい……! そういうイベントいらないんだが!)


 アクスは即座に布団に潜り込み、寝息を演じる。「……」


 何度かノックの音が続いたが、やがて静かに去っていく気配がした。


(はぁ……マジで面倒くさい。用があるなら昼にしてくれ……)


 アクスは額に手を当て、心底疲れたようにため息を漏らした。


 翌朝、宿に伝令役のエルフが現れた。


「女王陛下との謁見は――二日後となります」


 アクスも王女もその場で思わず顔を見合わせる。いや、普通なら「は?」と詰め寄るところだろう。始祖様や神樹の精霊様を待たせるとは何事か、と。


 だが、理由は向こうが勝手に説明してくれた。


「現在、女王陛下は森の北部を視察中でして。明日の夜には戻られます。その上で……日程をこじ開け、最短の時間を二日後に確保いたしました」


「……なるほどな」アクスは小さく頷いた。


 北の森――あぁ、あれか。ノアに創らせた結界壁か。勢い余ってリュミエールと魔族領まで分断してしまったアレだ。


(まぁ、エルフにとってはデメリットは無いだろうけど……さすがに魔族領側に森を増やしたりはしないよな)


 そんなわけで、二日ほどぽっかり暇が空いた。


 できればエルフと仲良くなっておきたい。だが、彼らのプライドは高そうで、下手に動けば反感を買うかもしれない。アクスは腕を組み、唸った。


(ノア、何かいい案ない?)

(お待ちしておりました、アクス様。実は――)


 その日の夕方。


 セクトや帰還した移民エルフたちの協力を得て、街の広場にエルフを集めてもらった。「帝国に対する恨みを少し解消できる」と触れ込みをしたら、驚くほどの人数が押し寄せてきた。


 王女が馬車の中で使っていたプロジェクターの出力を上げ、広場にあった大きな壁を即席のスクリーンにする。まるで野外映画館のような光景が出来上がった。


 上映内容は――ノアが編集した、魔族と帝国の戦争の歴史映像。


 奴隷を攫っていた理由をさらりと説明した上で、今回の戦争を映画仕立てにして見せたのだ。


 皇帝の私室に手紙が突き刺さっているシーンから始まり、魔族に蹂躙される帝国兵、絶体絶命の場面に四聖が現れて魔族を消し炭にするシーン、そして魔王のアイビームに皇帝がビビり散らかす姿。さらに魔王虫との激戦――最後のオチは、例の皇帝寝室シーン。


 会場からは悲鳴と笑い声が入り混じった。特に皇帝の「あぎゃぁぁぁぁぁxfjd!!」の場面では大爆笑が起き、腹を抱えて転げ回るエルフまで出る始末だった。


 帝国がただ悪逆非道に奴隷を攫っていただけではなく、魔族に対抗するため必死だったことも伝わっただろう。


 もっとも、王女にはこんな上映は到底見せられない。夜の人混みは危険だと理由をつけ、宿で謁見に備えて待機してもらった。いろんな意味で正解だった。


 翌朝。


「昨日見逃した!」「もう一度見たい!」と、広場には早くもエルフが殺到した。


 だが昼間は明るすぎてプロジェクターが使えない。そう説明したところ……午後には広場の上空に巨大な屋根ができていた。光を通さない布を何枚も繋ぎ、魔法で浮かせてある。


「……行動力あるな、エルフ」


 仕方なく、ループ再生にして夜まで放置上映をすることになった。


 さらに翌日。


 今度は王国を知ってもらうために、『英雄王と竜姫の誓い』を朝から上映する。かなりの長編で、一日では到底見切れない。


「続きが見たかったら……王国と仲良くしてくれ」


 アクスは心の中でニヤリと笑った。

ヴァネッサ(美従士の一人、世間では弓聖と呼ばれる)

金糸のような黄金色の髪に碧眼。天使のような美しさの天使。クールな性格。無限に超連射できるロングバレットのハンドガン二丁を両手で扱うガンナーだが、この世界には銃がまだないので、弓使いと誤解されている。長距離狙撃、大量の軍勢を地形に影響無く殲滅する等が可能。アクスから地球の花火のイメージを受けて、チャージした魔弾を空中で分裂させ、敵集団の脳天を貫くという戦法「ハナビ・ストライク」がマイブーム。エルフの国では天使が天界から大地の森に降り翼を捨てたハイエルフの祖”聖天使アネッサ”が信仰されている。実際は天使がハイエルフの祖というのは古代エルフの作り話だが、現代のエルフは殆ど信じている、というかそうであってほしいと願っているようだ。その話とは別に天使も天界もアネッサも実在しており、アネッサはとある事件が切っ掛けで天界から追われた生身の堕天使。とある条件と引き換えにノアの配下というか庇護下に入り、呼び名をヴァネッサに改名。ヴァネッサは翼を捨てておらず、任意で出し入れ可能。堕天しているが翼は黒くならず純白を保っている。

天界編はだいぶ先。おそらく100話以降かな?



おもしろかったら下のグッドボタンを押してくれると嬉しいです。引き続き次回作もお楽しみ下さいm(_ _)m

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