第24話:『大隊長の態度、天使様の援護』
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リュミエール森国――その中心部に辿り着くには、広大な森を突き抜けねばならない。ウルフを駆っても3日から5日は必要と見積もっている。しかし、今は身体も回復している。きっと辿り着けるはずだ。
先導するのはセリスとダリエン。驚くべきことに、彼らの速度はウルフに匹敵していた。とても人族とは思えぬ身のこなしに、アクスは感嘆のため息を漏らす。
二時間ほど移動した頃、前方に突如、常識を超えた巨木が現れた。
「……でっか……え?着いた?もう?なんで???」アクスは思わず声を漏らす。
その幹は天空へと突き抜け、枝葉は空を覆い隠す。まるで世界そのものを支える柱のよう。
「こんなの、エリシュナどころか王都からでも見えるはずだろ……」
だが、これまで一度も見たことはなかった。
「……幻術か、結界でも張ってあるのか」
呆然とするアクスに、セリスが冷ややかに言い放つ。
「秘匿技術だ。詮索するな」
(あー……今のアークみたいに転移と幻術系の仕組みがあるんだろうな)
気付けば森国の入り口に立っていた。アクスの予想では三日以上かかるはずが、わずか4時間足らず。
入り口の前には、すでに大勢のエルフたちが待ち構えていた。武装している者も一部いたが、ほとんどは素手。どう見ても、移民となったエルフの家族たちだ。
「お父さん!」「お姉ちゃん!」
歓喜の声が広がる。家族や友人が無事に戻ったことに、誰もが涙を流し、抱き合い、地面に膝をついて天に祈った。ある者は安堵でその場に崩れ落ち、またある者は子供を抱きしめて泣きじゃくっている。
ただ、その中には、帰るべき家族の姿が見えず悲しみに暮れる姿もあった。全てを救えたとは言わない。ただ出来ることは全てやったと思う。
その光景を前に、複雑な思いを抱きながら、それでも喜んでくれる人は居たと、アクスはふうっと溜め息を吐いた。
(……これだけでも、護衛した甲斐があったか)
アクスは深呼吸をひとつして、エルフたちの前へと歩み出た。
(……いや、さすがに撃たれはしないよな。まぁ最悪ノアも美従士もいるし)
そう自分に言い聞かせながら、一歩、また一歩と進む。
その瞬間、ざわりと人波が割れた。エルフの群れが一斉に道を開け、左右に並んで跪いていく。
「……は?」
アクスは思わず立ち止まる。誘導してきたのも、食事を振る舞ったのも確かに自分だ。感謝の意を示されるのは分かる。だが――跪くって、やりすぎじゃないか?
しかも兵士も、家族エルフも、一番偉そうな男まで跪いている。
その一際屈強そうな男は驚きと敬意を入り混じらせた表情を浮かべていたが、アクスを睨む目はやたらと厳しい。
(こいつもかよ……男版セリスだな。よし、仮に<セリ男>と呼ぼう)
「あのー……」アクスは恐る恐る声をかける。
しかし返ってきたのは冷たい声音だった。
「おい、人間」
(跪いておいて“おい人間”かよ!)
アクスは心の中でツッコむ。だが次の言葉はもっと酷かった。
「何をしている、どけ」
「……は?」
「人間如きが道を塞ぐな!どけと言っている!射殺されたいのか!」
(塞いでんのはお前らだろ!)と心の中で叫びながらも、アクスは違和感を覚える。背後に視線を送ると――いつの間にか、エマとヴァネッサが自分の背後に立っていた。
(あ、そういうことか……)
セリ男が跪いていたのはアクスにではない。エルフの始祖とされる聖天使アネッサ、そして神樹の精霊様。彼女らが姿を現したその瞬間に、人間が間に立って邪魔をしていた、という構図だったのだ。
(……いや、違くはないけど違うだろ!)
とりあえず空気を読んだアクスは王女を伴って道を開けた。
「そのお姿、美しさ、まさに天使様……そして精霊様まで……! 憎きオブ共から我らが同胞を救ってくださったのですね! 感謝致しますぅ~~!」
セリ男は涙を流して平伏した。
(まぁ、魔王軍を倒したのは実際あの二人だし……間違ってはないな)
アクスは遠慮がちに声を挟む。
「あのー、そろそろいいか?こちらの話を――」
「黙れ人間!」鼻息荒くセリ男が怒鳴った。
「今は始祖天使様と神樹の精霊様が同時にご降臨なされた歴史的瞬間! 貴様に構っている時間などない!」
(えぇぇぇ……)
そこでヴァネッサが一歩前に出る。
「エル……神樹の民よ。対話なら、この人間の客人とするのです」
「む」エマが短く頷く。……む、しか言わない。
「し、しかし天使様!」
「この者たちを助けたのはこの人間なのです。話を聞きなさい」ヴァネッサは冷ややかに告げる。
「む!」
ヴァネッサの言葉に説得力が宿る。普段からクールな彼女だからこそ、演技には見えない。エマはというと、どうやら“む”だけで押し通す構えらしい。
セリ男は戸惑いながらも、やがて頷いた。
「わ、わかりました……では天使様、精霊様、こちらへ」
気づけばそこには、豪華なおもてなしセットが用意されていた。大きな椅子と日よけ、テーブルに紅茶や果物、色とりどりの菓子。ヴァネッサとエマはそこに腰を下ろし、静かに振る舞う。まるで神々しいご神体に供物を捧げる儀式のようだ。
(わーこれおいしーですぅ♪ ノア様! コピーして下さいですぅ)
(任務に集中なさい、エマ)
(えー)
(……あーノア、俺も後で食いたいし、アークのエルフ娘たちも食いたいだろ。頼む)
(……畏まりました)
「さて人間、もう少し待て。――おい!帰還者の名簿を作成しろ!」
セリ男の怒鳴り声に、配下の兵士たちが慌ただしく動き出す。羊皮紙に名前を記し、一人ひとりを確認していく。350名近い人数、チェックにはどうしても時間がかかる。
やがてセリ男は胸を張って振り返った。
「よし、待たせたな人間。我が名は<セリオ・フィンヴェリア>、リュミエール森国護衛騎士隊・大隊長である。……で、貴様は何者だ」
(名前セリオなんかい!)
吹き出しそうになるのをぐっと堪え、アクスは咳払いして名乗った。
「おふっ……俺はアクス、アルケシア王国の冒険者だ」
「冒険者だと? なぜそんな者が同胞を助け出すのだ」
「まぁ聞いてくれ。こちらにおられるのは王女、ルーシェリア様だ」
アクスが隣を示すと、ルーシェリアが一歩進み、裾を摘んで優雅に会釈した。
「お初にお目にかかります大隊長様。私はアルケシア王国第一王女、ルーシェリア・セラ・ドラヴァルトと申しますわ」
セリオの目が一瞬きらりと光る。
「ほう、これはなかなか……ゴホン! よくぞいらした王女殿下。で、何用ですかな?」
(今の“なかなか”の間、絶対いやらしい目線だったよな……)
アクスは内心で毒づきながらも、事の経緯を丁寧に説明した。
王国と帝国が協力して北の魔族を退けたこと。
その取引で帝国が亜人奴隷を解放したこと。
しかし帝国にはまだ根強い差別意識が残っているため、衝突を避けるべく王国が移民の護送を担ったこと。
そして今回をきっかけに、王国と森国で対話の場を設けてほしいという要望――。
セリオは腕を組み、しばし沈黙したのち頷いた。
「ふむ……国同士となると、女王陛下との謁見になるな。予定を確認するのでしばし待たれよ。今日はもう遅い、宿はこちらで用意しよう。同胞を助けた恩人だ。先程は声を荒げたが、恩義に仇なすつもりはない。悪いようにはせん」
エマの紹介
ワンドを使った回復と防御結界、デバフ解除が得意。内気だが優しい性格で争いは苦手。病原の消滅、呪いの解呪、瘴気の浄化等が可能。悪意や害意すら消去し、戦闘自体を無かったことにする(一般的な生物に限る)。人を助けた数は4人の中で断トツ。名前を聞かれるとうまく躱せず答えてしまい、聖女エマの名前はアクスよりも有名になってしまった。その代わりファンも味方も多い。吟遊詩人が勝手に創った詩からエマの名が女神エリマリアの略で、女神が人の姿でこの世界に顕現されたという内容を女神教会が鵜呑みにしているが全く関係ない。エルフの森の中央にある神樹と呼ばれる世界一高い木のコアに宿ると伝えれらているエルフの守護精霊(実在するが名前は伝承されていない)と交渉、使役しノアが神樹のコアの一部を素材として創造した身体に受肉させた。精霊は物を食べないので、受肉してからはおいしいものを食べる事(これが使役の条件)が大好き。
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