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無能転生者、何もせず遊んでたら異世界救ってました。  作者: 真理衣ごーるど
╰╮第4章:ザルグラード奴隷解放編╭╯
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第22話:『始祖の天使、神樹の精霊』

当作品を閲覧頂きありがとうございます。宜しければ是非レビューやご感想もお待ちしております。

 ウルフの群れは今日も風を切って進んでいた。


 三日目ともなると、出発時にやせ細っていた亜人の子どもたちの身体も変わりはじめている。

 連日の騎乗で足腰が鍛えられ、ノアが作った<超回復食>のおかげで腕もがっしりとしてきた。


「うわぁー! 風が気持ちいい!」両手を広げ、全身で風を感じる子。

「進めーウルフ!進むのだー!」腕を組み、将軍の如く凛々しい顔で遠くを睨む子。

「見て見てー!すごいでしょー!」高速移動中に立ち上がり、サーフィンのようにバランスを取る子。


 遊びながらも見事に姿勢を崩さないあたり、順応力がすさまじい。最初の頃は必死にしがみついていたのが嘘のようだ。


 アクスはその光景を眺めながら、口元を緩める。(……子供ってのは、こういう時ほんと強いな)


 速度はほぼトップスピード。そして四日目の昼、ついに彼方に深い森が見えてきた。


 森の手前には、無数の切り株が並んでいる。帝国が伐採していった跡だろう。新しく植えられた苗木が点々と見えるが、まだ心許ない。


 やがて入口に近づくと――そこに二つの影が見えた。


 光をまとったかのように美しい天使。

 そして可憐であどけない妖精。


 ……まぁ、ヴァネッサとエマなんだが。


「おお、予定通りだな」アクスは小さく頷く。


 今回、森での護衛役として二人を呼んでいたのだ。


 本来なら護衛といえばカグヤの役目だが……森の中で彼女が本気を出せば、大木ごと斬り飛ばすのは目に見えている。

 ミレイユなら? ……おそらく森ごと焼き払う。


 それを避けるため、防御特化のエマと、普段から森で討伐代行をしているヴァネッサに白羽の矢が立った。

 ノアからも強く推されたが、その理由を尋ねても返ってきたのは、(エルフに会わせればわかります)という含み笑い。


 ――主人に隠し事をして“お楽しみ要素”を仕込むとは、なかなか粋な真似をしてくれる。


 ちなみに。

 ミレイユはアークで南下組を監視している……はずだったが、現状はお菓子を頬張って幸せそうに転がっている。まぁアークからでもモニタリングできるから別にいいんだが。

 カグヤは十人の娘のお世話中――のはすが、置いていかれた事でねてしまい、逆に娘たちに慰められている始末だった。理由も説明したし一回外れたくらいで拗ねないで欲しい。


 雷牙の背から降り、あたかも偶然出会ったかのように四聖様へ挨拶を交わそうとしたその瞬間――。


 先に動いたのは、エルフたちの方だった。


「そんな……始祖様……」

「神樹の精霊様……」

「伝承の……こんな奇跡が……」


 目の前に立つヴァネッサとエマを見た途端、彼らは一斉に駆け寄り、膝をついて涙を流しながら祈りを捧げはじめたのだ。


 それは大人だけではない。

 馬車に残っていた子どもたちまでが、同じように膝をつき、震える声で感謝の祈りを捧げている。


 陽光に照らされる涙の粒は、まるで宝石のように煌めいていた。


(……なんでここまで? どういうことだ?)アクスは思わず眉をひそめる。


 すると、ノアの念話が静かに響いた。


(エルフの始祖は<聖天使アネッサ>とされています。天界から現世に降り立ち、翼を捨てて繁栄した――それが彼らの神話。ですので、エルフは神ではなく天使を信仰しているのです)


(……なるほど、つまりヴァネッサがそのアネッサだと?)


(はい。伝承の絵姿と瓜二つ――というより、実際本人です。ただしエルフの祖ではありません。天使がハイエルフの祖というのは古代エルフの作り話。けれど現代のエルフはほとんど信じ込んでいるのです。むしろ、そうであってほしいと願っているのでしょう)


(……いやいや、本人っておい……)アクスは無言で額を押さえる。


 ノアは淡々と続ける。


(実際のアネッサ――現在のヴァネッサは、とある事件がきっかけで天界から追放された<堕天使>。五千年以上逃げ延び、とある条件と引き換えに私の庇護下に入りました。その際、名を改めヴァネッサとしたのです。ちなみに翼は捨てたのではなく、任意で出し入れできるだけです)


(……つまり“伝説の存在”が目の前に登場か。そりゃ祈りたくもなるわな)


 エルフたちの祈りはますます熱を帯びていく。その様子を横目に、ノアの解説はさらに続いた。


(そしてもう一つ。リュミエール建国以前から存在する<神樹しんじゅ>。その大樹は常に結界と癒しを生み、エルフを護ってきました。エルフは森を守り、神樹はエルフを守る――エルフ達はそれを”共生関係だと思っています”。その神樹の化身として伝承に残る精霊の絵姿……それが、エマです)


(……おい、こっちも本人かよ)アクスは目を細め、ちらりと精霊の姿を見やる。


(はい。ノアが神樹のコアの一部を素材に肉体を創造し、条件と引き換えに受肉させました。その条件とは――“味覚”。精霊は本来、食事をしません。しかしエマはこの世界の食べ物を食べ、“おいしい”という感覚を知りたかったのです)


(……カグヤは東方の天女、ヴァネッサは堕天使、エマは神樹の化身……。おいおい、これ絶対ミレイユにも何かあるだろ)アクスは呆れたようにため息をつく。


 ノアはもくして答えない。その無言が、逆に答えを物語っていた。


「……なるほど、目的地がまた増えたな」


 アクスは小さく呟き、群れなすエルフたちと、静かに立つヴァネッサとエマを交互に見やった。


 エマがふわりと宙に浮かんだ。その身体から柔らかな光が広がり、彼女は目を閉じて口を開く。


「――ソング・オブ・ホーリー・ヒーリング」


 それは詠唱というよりも、美しい歌だった。清らかで澄み切った旋律が空気を震わせ、森の入口にいる全員を包み込む。


 歌声を耳にした瞬間――。


 潰えたはずの目が開かれ、切られた長い耳が、欠けていた四肢が再び形を取り戻す。えぐれたような深い傷も、長年刻まれた小傷も、鞭の跡も。そして心に残っていたトラウマ級の記憶さえ――。


 すべてが、なかったことのように消え去っていった。


 ノアの食事によって、治癒に必要なエネルギーはすでに満ちている。それに、傷だらけのまま森国民に見つかれば、無用な憎悪を買いかねない。そういう意味でも、このタイミングでの治癒は最良だった。


「……っ、あ……!」

「腕が……戻って……」

「耳が……切られた耳が……!」


 エルフたちは次々に己の身体を確かめ、やがて抑えきれずに涙を流した。


(治ったのが嬉しいのはわかるけど……そこまで泣くか?)アクスは少し首をかしげる。


 不思議に思い、泣きじゃくるエルフを宥めつつ理由を聞いてみる。返ってきた答えに、アクスはなるほどと頷いた。


「傷が治ったことももちろん嬉しい。けれど……それ以上に――神樹の精霊様の恩恵を受けられたという栄誉。そして、森の一員に戻れる安堵。それが、涙の理由なのです」


 エルフは醜いものを嫌う。身体に欠損を持つ者が受け入れられる可能性は低い。

 なぜなら――森にいた頃の自分たちこそが、そういう思想を持っていたから。


「本当は……」彼らはうつむき、声を震わせる。

「ここで別れ、開拓民としてひっそり生きていくつもりでした。ですが……身体が綺麗に戻った今、堂々と森国に帰れるのです。それが……何より嬉しいのです」


 アクスは少し息を吐いた。


 確かに、見た目第一主義の国に、傷だらけの姿で戻るのは酷だろう。家族や友人に疎まれ、影のように生きるのは耐えがたい。


 ――堂々と帰れる。その喜びこそが、彼らの涙の源だった。

人間とエルフの違い②

力:エルフは跳躍力と体力、弓を引く程度の膂力(肩や腕の力)が高いが、全体的に筋肉は少なめ。一般人同士で人間がエルフに力勝負で負ける事はほぼない。

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