第19話:『王女を隠しての旅、A級の隠された力』
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5日後、アクスは馬車に乗って王城に着く。到着を告げ暫し待つと王女が出てきた。
ミドルスカートのドレスに黒いタイツ、丈夫そうなブーツに帽子。冒険者の恰好とは程遠いが、どこか品のある軽装で、ロングドレスにヒールで来る程バカではなかったと安心した。
王族専用の馬車を提案されたが、王族が乗っていますよとアピールしているようなものなので、正直辞退したい・・・チャリオより目立つし遅いし乗り心地悪いし。
そこでアクスは王女に自分の馬車の中を見せ、簡単に機能と設備を紹介したところ・・・
「アクス様の馬車に致しますわ♪」と嬉しそうに乗り込んでいた。
しかし、7日分の着替えという割には大きすぎるトランクと大型のチェストが2つ、正直邪魔だが馬車には乗る。全部開けて余計なものを省きたかったが、面倒だし周りの目もあるし王女とあーだこーだ言ってたら日が暮れそうだ。アクスは諦めて荷物を馬車に積んだ。
「国境までは我々も同行致します。」騎兵隊10名が護衛に付くそうだ。ソロで走ったほうが早いのだが断る訳にもいかないので、ギリギリ付いてこれるスピードで進むとしよう。
王女が乗り込むと、影猫が出てきた。
「あら、ネコちゃん♪」
影猫は随分王女に懐いているようで、お互いの顔をスリスリしている。
王女が奥の方に座り、猫が膝の上に落ち着いたところで、馬車の設備の詳しい使い方を説明する。
馬車の席は対面二列、通常は大人4人、ギチギチに詰めるか子供なら6人乗れるくらいの広さだ。
後方右側のシートを引き上げると、その下はトイレになっている。しかもウォシュレット付きだ。
今回王女の為に便座を新しいものに取り換えて、ビデ機能まで付けた。
トイレのボタンとは別に壁に魔石が埋め込まれており、ここに魔力を流すと部屋全体に浄化魔法が発動する。
室内も王女自身も一発で綺麗になるので掃除・風呂要らずだ。
左側の座席を手前に引くと背もたれが水平になりフルフラットのベッドになる。
向かって前方のシートは背もたれを前に倒すとテーブルになっており軽食やお茶等に使える。
背もたれの裏はちょっとした棚になっておりノア特製の超おいしいお菓子とお茶が飲みきれない程適温で入ってる魔導ポット、ティーセット一式が並べられている。
さらにシートを倒した先の前方の壁は白いスクリーンになっており、動画を楽しむ事ができる。
アクスは普段地球のコンテンツをノアに再現してもらい楽しんでいたが、それを見せるのは世界観が違い過ぎる上にオーバースペックなので、静止画がナレーションと共にスライドする紙芝居風動画を作って貰った。
「英雄王と竜姫の誓いはご存じですか?」
「ええ、小さいころよく絵本で読みましたわ、あとお忍びの時に演劇で何度か、私あのお話大好きなんです!」
その話はアルケシアでは有名、というか建国神話である。
英雄王と竜姫の誓い(概要)
はるか昔、この地に人は住んでいたがバラバラの部族に分かれ、魔物と竜によって絶えず脅かされていた。
そんな時、一人の若き戦士(後の英雄王)が力を発現し、部族を統一して魔を討ち、人々を導いた。
彼は戦いの果てに、人の地を侵す「赤き竜の姫」と対峙する。
竜姫は、かつて竜王の末裔でありながら、人間の知性や文化風習に興味を抱いていた。
しかし竜にとって挨拶のようなじゃれ合いも、人間にとっては死力を尽くした戦争であった。
ただ交流を深めたいだけの竜と、命を守るため必死で戦う人間、お互いの想いは噛み合わない。
しかし英雄王は竜の圧倒的な力にも屈せず、竜姫を満足させるに値する力を持っていた。
力を尽くして戦った末に英雄王は竜姫と心を通わせ、荒ぶる力を鎮めることに成功する。
竜姫は己の魂を人の姿に変え人間となることを選ぶ。
そして二人は魂の盟約を結ぶ。
「汝は我と共にこの地を開拓し、我らが子孫を以って未来永劫この地を治めるという誓いを紡げ」
「我が血筋は竜の力をその身に宿し、厄災あれば加護を以ってこの地を護らん」
こうして英雄王を中心に人が集まり、やがて王国が築かれ、英雄王と竜姫の子が正式な初代国王ドラヴァルトとなったとされる。
その血は今なお王家に流れ、王家に危機が迫る時、竜の加護が目覚め国を護ると伝えられている。
一説によるとドラヴァルト王家は英雄王と竜国王族の血を引いており、その証が国王の代々継承する血継スキル”王威”(竜の咆哮の人間版、格下と認めた相手を威圧し強制的に平服させる)発現だという説がメジャーだ。
その辺の歴史書や伝承等をノアが調べ、総合的な解釈も織り交ぜドラマティックに紙芝居風に纏め上げた超大作、何とノア自身のナレーションでセリフは声も変えてテロップまで付いている。道中退屈はさせないだろう。
説明が終わり、馬車を出て扉を閉めようとすると王女が止める。
「アクス様は乗らないんですの?」
「私は御者台で」
「御者はいるではありませんか!」
「御者は御者です。護衛がいるとはいえ周囲警戒は必要なんです。こう見えて冒険者なもんで」
ふくれる王女を無視してドアを閉める。未婚の女性、しかも王女が男と二人っきりで馬車に乗っちゃダメでしょーが!しかも一緒にいたら質問責めに会うのは分かりきっているので、紙芝居とモフ猫とティーセットで何とか誤魔化されて頂きたい。
御者台に乗り馬車を出す。
「チャリオ、頼む」馬車は勢いよく走り出す。騎兵が慌てて付いてくる。
揺れもない、風も感じない。チャリオの能力により馬車の移動は実に快適だ。
王都から宿場町に泊りながら旅を続ける。王女との交流は食事や休憩時に少し話す程度。宿の夜警は兵がするとの事なので任せる。
アクスは別で泊るフリをしてアークで眠る。そんな日々を数日経て、国境にたどり着いた。
国境に着いたら冒険者パーティと合流して合同クエストを開始する。
内容としては移民の護衛だが、帝都から国境側の森までの移送は帝国が担当するという。
こちら側は国境と森を超え、お互いに近づいて合流したら引き渡しという流れだが、おそらく元奴隷はひどい有様だろう。亜人の高ランク冒険者と帝国兵士が相対すると諍いになりそうなので、亜人メンバーは少し離れたところで待機、引き渡しはアクス含め人間の冒険者メンバーだけで担当する。まぁ人間が見ても怒り狂いそうだが…。
引き渡し後、亜人メンバーと合流、おそらく酷い状況の移民達をケアしながら一泊、翌日からエルフチームは分かれてアクスとリュミエール森国へ、残りは王国国境を目指す。
内容自体はそれ程危険ではないが、先日森で恐らくフェンリル種と目される謎の巨獣が突如出現し、森一帯の警戒レベルが一気にハネ上がっているらしい。とてもおそろしい(すっとぼけ)。
国家レベルのプロジェクトでもあり、なるべく高ランクの者に任せたいという国の方針だったが、移民の数が多すぎる為、サポートとしてCランク以上の回復や護衛の評価が高い冒険者パーティもサポートして複数参加している。
兵士たちは国境の少し手前で撤退。王女の事は非公開なので、ここからは基本馬車からは出さない。
国境に着くと、50人搭乗可能な大型輸送車が2台と8人乗り荷車が5~60台くらい、中には食料がぎっしり詰まれている。食料を消費し荷車が開き次第状態の酷い移民を乗せていくという算段だ。
冒険者パーティも集まっていた。予定よりも大分早いが全員揃ったので改めてリーダーの顔合わせ。
主要なパーティは
Sランク:竜人騎士団(エリシュナ随一の戦闘力を持つ竜人騎士がリーダー、今回の作戦の綜合指揮)
Aランク:
獣王の牙(猫系の獣人で構成、全員が戦士、獣人移民担当)
鋼鉄の誓い(屈強なドワーフ3兄弟を中心に構成、ドワーフ移民担当)
清き浄化の聖光(リーダーはフードとマスクで顔を隠しているが、目の美しさだけで実はエルフではとの噂。聖魔法と回復、アンデッド浄化を専任、移民回復の要。エマに仕事を取られて恨まれてないか心配だったが、むしろ崇拝しているらしい)
以下B~Cランクのサポート。
「よぉ、来たな、無能のAランク」獣王の牙リーダーでオオアカネコの獣人<戦獣・ライガル>がいきなり突っかかる。
「やめんか!ワシらの故郷を救った恩人じゃぞ!」ドワーフ三兄弟の長男<斧鎌のザンガ>が静止する。
「あぁ、アクス様、本日聖女様はいらっしゃらないのですか?」清き浄化の聖光リーダー<美の妖精・セラフィ>が空気を読まずに質問してくる。
「…貴様ら遊びに来たのか?」竜人騎士団団長<至竜・ガルザー=ドラグニス>の一言に場の空気が張り詰める。
一同アクスを見つめる。俺は何もしていないんだが。
「あー少し早いがどうする?もう全員揃ってるし待つなら現地の方がいいだろ?」アクスが空気を変えるように提案する。
「もとよりそのつもりだ。むしろお主を待っていたくらいだ」
「あーそれはすまんかったね」
「いやいい、計画より大分早いのだ、問題は無い」
「それより噂には聞いていたが、本当にソロなのに馬車で移動なのだな。御者まで付けて、貴族の真似事か?」
「荷物いっぱい入るし、テント張らずにそのまま寝れるし、意外と便利だぞ?」
「森や山岳など入って行けぬではないか」
「そのための御者ですよ旦那」
「うむ…なるほど」
「乗合は時間が限られるし、騎馬は途中で待たせても帰りまで無事かわからないからな」
「確かに、馬は使い捨ての場合が多いな、それなら専用の世話係を雇うか…うむ、参考になったぞ」
今後馬車での冒険がトレンドになりそうだ。
改めて段取りを確認し、一行は国境を越え森の街道を進む。行きは4日ほどだが、一泊して帰りは3000人近い移民を護衛しながら歩きになるので大体10日、合計約15日の日程。
国境まで帰ればそのタイミングに合わせて国の兵士が追加の食料を積んだ輸送車を率いて待っているの引き渡し、王都まで護衛すればクエスト達成。まぁアクスは関係ないが。
森を抜けるのは特に問題なく、多少出てきた魔物もこのパーティではものともせず、アクスは全く出番が無かった。
血まみれの荷車も片付いていて、木々がなぎ倒された地点でも謎の大魔獣は出現しなかった。
途中ザンガと話す機会があったので、斧鎌について聞いてみる。
そもそもこの世界だけなのかは知らないが、ドワーフはほぼ人間に近く、スキルや武器適正を持っている。魔力は人間より少ないく身長も低めだが、筋力が強く体が頑丈なので、強力な適正武器とフィジカルでゴリ押しする戦士スタイルが主流だ。
特にザンガは珍しく斧と鎌2つの武器適正を持つ”ダブル”だが、どっちにするか迷った挙句両方片手ずつ持って戦うというスタイルになったそう。
ただ片手では十分に力が入らず、A級ならともかく、S級の魔物相手となると少し頭打ちになっているそうだ。
アクスはノアに考えて貰った武器の形状を提案する。
バトルアックスの裏側の小さいピックがガチな大鎌になったようなイメージだ。
反転させるだけで両方使えるし両手で扱えるから威力が出るのでは?と。アックスサイスとでも呼ぼうか。まさに斧鎌だ。
ザンガは驚愕の表情を浮かべている「その手があったか!この依頼が終ったら早速作ってみるわい!感謝するぞ英雄殿!」
さっき庇ってくれたからこれくらいはね。
話の途中で次男のドンガも入ってきた。ドンガのスキルは”重撃強化”武器はハンマーだ。
本人もかなり大柄で、重いハンマーに体重を乗せ、スキルも合わせてかなり強力な一撃を放てるが、本人の体重に重いハンマーなので移動が大変らしい。かといって武器も身体も軽くすると威力が落ちるのでシンプルに戦力ダウンになってしまうのであまり長距離や険しい道の依頼が受けられないそうだ。
身体の前にハンマーをドンと置いたその姿に、アクスは地球の”セグウェイ”を思い出した。両端の2輪のみで前後にバランスを取って移動するモビリティだ。
アクスはハンマーの両端手前の外周部に車輪を付けて、魔石で駆動する仕掛けを作ってみてはと提案してみた。ドンガは試しにハンマーの上に乗りバランスを取ってみせた。大分安定している。デカイ図体のわりになかなか器用だ。
続いて三男のバンガがやってきた。バンガのスキルは”刺突強化”ピッケルを扱うドワーフには当たりのように見えて、ピッケルは打撃扱いらしい。
腕力で重い武器を振り回すのが基本のドワーフにとって細い槍やレイピアのような刺突武器の適正は正直ハズレらしい、洞窟での行動が多く長い槍は邪魔なので仕方なく短槍を使っているが中途半端、本人は防御ステータスが高く、攻撃は躱すより受け止めて殴り返すインファイトスタイルが性に合っているのだそう。
アクスはナックルガードかガントレットの先にナイフかスパイクを付ける事を提案。こちらはスティングナックルといったところか。パンチがそのまま刺突攻撃になるのでスタイルに合うと説明。ガントレットを厚めにしっかりしたものにすれは前衛でタンクもできるだろう。
バンガは雷に打たれたような顔で驚愕している。
3人は嬉しそうにあーだこーだデザインを考えてはしゃいでいる。
「何か面白ぇ話してんじゃねぁか無能の。お、俺様にも言いてぇ事があんなら聞いてやんぞ?」
今後はライガルが突っかかってきた。全くもって人に聞く態度じゃないし上から目線だし素直じゃないねぇ。まぁこちらは中身55のおっさん。ガキの煽りに反応する程青くは無いのだ。
「そもそもお前ら何で武器で戦ってるんだ?」
「は?そりゃぁ戦士なんだから当たり前だろう」
全然当たり前ではない。この世界ではスキルは生まれ持ったものだが、それで何をするか、どう戦うかは自由に決められるのだ。
「だから何で戦士やってるんだよ」
「そりゃぁ……かっこいいからだろ!」
だめだこいつ、これでAランクになれるんだから戦闘系獣人は恐ろしい。
「お前らの爪と牙はその武器より弱いのか?」
「あ?んな訳ねーだろ!俺様の爪にかかればこんな武器…あれ?」ライガルが何かに気付いたようだ。
獣王の牙は全員が戦士だが、武器はランクに見合わずその辺で拾ってきたものや武器屋の安売り中古品ばかり。普段から金は遊びで使っちまうから金欠なんだよと吹いているが、実際は本国の村に仕送りしているのは有名な話だ。
「武器よりも爪の方が強いんだから武装外して武道家か格闘家として戦った方がいいんじゃないか?」
「え、格闘家って上裸でハゲになるのはちょっと、武道家も三つ編みダサいし」
「別に髪型は関係ないよ」
「え!そうなのか!?」
「あぁ、あれは流派とか宗教とかの関係で、俺も詳しくはないけど戦闘スタイルとは関係ないよ」
「そうなのか、でもなぁ…全員格闘家って何かバランス悪くねぇか?」
「全員戦士のチームが何言ってんだ」
「うぐっ、そ、そうか、確かにこの爪さえあれば武器なんて要らねーな」
「あぁ、でもちゃんと服は着ろよ?討伐されないように」
「俺様はコボルトじゃねぇ!魔獣と一緒にすんな!」
「はいはい」
我ながら良いアドバイスができたと思う。というか元々問題を抱えていたのは目に見えて分かっていて、ノアと改善案を雑談して練っていたが、言い出すタイミングが無かったのだ。
あと後方からS級の視線を感じるが、俺より上のランクの方に提案なんか出来ません!
人物紹介、今回は王女様
王女ルーシェリア・セラ・ドラヴァルト
光に祝福された高貴なる乙女(ルー;光(Lucis)シェ:女性(she)リア:高貴(lia))
15歳。愛称ルーシェ。王国の王女。ピンクブロンドの長い髪。可愛らしい容姿。城を抜け出して街で遊んでいた所、男に絡まれるもアクスに助けられる。政治等関係なくアクスに好意を寄せている。国の王女は誘拐や暗殺、不本意な政略結婚等を避けるため、16歳まで正式名や具体的な容姿の一般公開は避けられている。誕生日を迎えると国民に公開される為、安易に街に出られなくなる。セラは夜明け(暗い時代の終わり)、ドラヴァルト(ドラゴンブラッドルート)は竜の血を継ぐ者。建国神話に起因する。
おもしろかったら下のグッドボタンを押してくれると嬉しいです。引き続き次回作もお楽しみ下さいm(_ _)m




