第12話:『エルフの惨状、カグヤの感情』
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ドワーフとの宴会中、アクスはエルフについて話を聞いていた。
「あのトンガリ共ワシらの事をチビだのしわくちゃだの見た目を馬鹿にするだけで話にならんから好かんわい。まぁ人間への反応はちと違うみたいだがな」
トンガリというのはエルフの事で、耳も鼻も性格も尖っているからだそう。
(見た目disってんのはお互い様じゃねーか)と心の中でツッコミを入れつつ、人間は違うのかと少し安心する。人間への反応について続きを聞く。
「人間は森で見かけたらとりあえず射殺されるな」
(…何それ怖い。ダメな方向に反応が違うじゃないか。)
「エルフは人間の事をオブと呼んどってな、どうやらあいつらには人間はオークとゴブリンのハーフくらいに見えているらしい。」
(あぁ、"オ"ークとゴ"ブ"リンでオブね。ってそんな見た目ちゃうわ!)
「まぁあそこまで憎まれているのは北の帝国のせいなんじゃが…あいつ等亜人と見ると目の色変えて襲ってきて、帝国に攫って行くんじゃ」
(何それ怖い!!結局人間の所為かよ)
「まぁトンガリ共に人間の区別なんてつかんじゃろうから、人間全て警戒しとるんじゃろうな」
エルフにミレイユの杖とエマのワンドを強化してもらえないかと思ったが、一筋縄ではいかないようだ。まぁ戦力は申し分無いし、一旦忘れることにする。
エリシュナに戻ったアクスはギルドで手続きを済ませ、早々にアークへ帰還する。エルフの事は置いておくとして、亜人を攫う帝国が少し気になる。
(種族間の諍いの元凶だろ。何やってんだ?まぁでもこっちは部外者だし、帝国に用は無いからなぁ)
アクスはまたしばらくアークでだらだらと過ごす。モフモフを提供していた影猫がピクンと反応し、ノアに向かって鳴き声を上げる。ノアは無言で何かを確認したあと、アクスに報告する。
「アクス様、国からギルド経由で指名依頼が入っているようです。」
それは<エリシュナ冒険者ギルド>の受付嬢パルマに忍ばせておいた影猫からの情報だ。
「……あー、面倒くせぇ……」アクスはソファーに寝転んだまま、クッションに顔を埋めて呻く。
「放置しても、いずれは聞きに行かねばなりません」
「分かってるよ……でもなぁ……」
結局、観念したように起き上がり、仕方なくギルドへ足を運んだ。
ギルドマスター室。ギルマスは太い腕を組み、地図を広げて説明を始める。
「目的地は北の<ザルグラード帝国>。内容は国内の動向調査だ。隙あらば南のアルケシアに攻め込もうと企んでおるからな、定期的に見張っておく必要がある」
「……で、報酬は?」
「一人当たり金貨百だ。人数は不問。戦争前には必ず募兵の公示が帝都中に貼られる。要はそれを確認して帰ってくれば任務完了だ」
「……簡単すぎないか? 何か裏があるんじゃねぇのか」アクスは目を細める。
ギルマスは苦笑し、言葉を続けた。「国の主戦力はすでに顔が割れておるし、高ランク冒険者パーティの多くには獣人、鬼人、竜人などの亜人がいる。帝国は亜人差別が強く、入り込めば命がけになる。国からの依頼を低〜中ランクに任せるのは論外だ。……だが、人間のソロAランク冒険者であれば打って付け、というわけだ」
「……なるほどな。何だかうまく丸め込まれてる気もするが……」アクスは苦々しい顔をしたが、報酬は悪くない。観光ついでで済むなら楽な依頼だ。
「分かった。……いつも通りソロで受ける」
(……カグヤとコンビで登録しときゃ良かったなぁ……)アクスは心の中で後悔した。
今回も時系列を合わせるため、チャリオが馬車を仕立て、帝都までの道を進む。もっとも、アクスは当然のように乗っていない。
「検問の時に転移すりゃいいだろ」
護衛役として美従士たちが交代で馬車に乗り込んでいた。
「……先に帝都へ行っても良いのでは?」とカグヤが問う。
「また前みたいにお姫様に遭遇したら面倒だろ。俺は面倒が嫌いなんだ」
「……それもそうですね」
無表情な彼女だが、更にに口元が硬くなり残念そうな表情に。早く帝都観光したかったのかな?
国境を越え、ザルグラード帝国領の切り開かれた森道を進む。その途中――前方に大きな荷車が止まっているのが見えた。
「如何されたのだ」ミレイユとカグヤが馬車から降り、商人風の男たちに事情を聞く。
「いやぁ、困ったもんで……泥濘に車輪が嵌っちまいましてね」
「ふぅーん……」
ミレイユはニヤリと笑い、軽やかに杖を振る。「《ライトニング・レヴィテーション》っと!」
荷車がふわりと浮き上がる。
「カグヤ、お願いね」
「承知」
カグヤが腰を落とし――ドン!鈍い音と共に荷車は泥濘から押し出された。
「おお、助かった! ありがとうございます!」
商人たちが深々と頭を下げる。だがカグヤは礼に耳を貸さず、再び荷車へ歩み寄る。
「……?」
押し出した拍子に幌が少しめくれ、彼女の鋭い視線が中を捉()とらえていた。鉄格子。蠅がたかる餌皿。鉄の枷に繋がれた少女。そして……腐敗した匂い。カグヤの表情が初めて、剣呑に揺らいだ。
「……何だこれは」
彼女は無言で幌をつかみ、一気にめくり上げた。
幌がめくられた瞬間――カグヤの目に飛び込んできたのは、地獄そのものだった。
大きめの荷車の中に、十人近い少女たち。みな尖った耳を持つ<エルフ>であるはずなのに、その姿は見るも無惨だった。服はぼろ切れ同然、肌は擦り傷と打撲で覆われ、痩せ細った身体は骨ばかり。中には耳や手足の一部を切り落とされた子もいて、その傷は膿み、悪臭を放っていた。
うつろな瞳。声にならない呻き。かすかな泣き声すら、もう力なく途切れている。
「……っ!」カグヤの顔から一切の感情が剥がれ落ち、冷徹な怒りだけが宿る。
「何だこれは!!!!」雷鳴のような声が森道に響き渡った。
カグヤは一歩で商人に迫り、その胸倉を掴み上げる。
「ひ、ひぃっ!」
慌てて護衛の男たちが駆け寄ってくる。盗賊のような粗暴な風体。刃を抜いてカグヤに斬りかかるが――。
「邪魔だ」
一瞬だった。斬撃でも魔術でもない。ただの体術。カグヤの手刀と足払い、それだけで護衛たちは声を上げる暇もなく地面に沈んだ。
土煙の中、残された商人だけが震えている。
「答えろ。これは何だ」
「ひっ、ひぃ! こ、これは……先日入荷した魔族の餌でございます! そろそろ戦争の時期なもので……っ!」
「……餌?」
カグヤの声は凍りついていた。エルフが……餌?奴隷ですらなく、ただの餌?何の? 一体どういうことだ?
カグヤが渋い顔で前に出る。「詳しく話せ」
商人は膝を震わせながらも必死に口を動かした。
「ザ、ザルグラード帝国の北方は……魔族領と接しておりまして……定期的に奴らが攻め込んでくるのです……! 我ら兵士は毎度応戦してきましたが、実際のところは……」
言葉が濁る。
「応戦、ではなく……?」アクスが低く促す。
「……魔族が兵士を一方的に食い散らかし……腹を満たしたら帰っていくだけ……それが実情なのです!」空気が凍りついた。
「ためしに奴隷を前に出したら……魔族はそれを普通に食らい、満足して帰っていきました。ゆえに……以来、亜人を捕らえては魔族への生贄として差し出すことに……」
「……」
誰もが言葉を失った。ただ一人、カグヤだけが商人の胸倉を握る手をさらに強める。
「……貴様ら……!」その声には怒りと憤怒が渦巻いていた。
「貴様らそれが人間のする事か!」カグヤは怒りが収まらない。
「で、ではどうすれば良いのですか!同胞たる兵士に黙って食われろと?帝国民の命を守る為なら亜人などいくら減っても困らんでしょう」
「な、ならこの環境は何だ!餌ならもう少し清潔に…」カグヤの論点がズレてきた。
「これから生きたまま食われるのです。身綺麗にして希望を与える方が酷でしょう。それに…」怯えていた商人の顔から怒りと憎しみの表情が浮かぶ。
「これは魔族への意趣返しでもあります。せめて汚いものを食わせてやろうと。まぁあいつ等は何も気にしませんがね…。」
口の回る商人にカグヤは何も言い返せない。やっている事はクズだが事情は理解した。主や同胞をどんな手を使ってでも守る、その事に反論の余地はない。まさにカグヤ自身の存在意義そのものだから。
事情も知らない部外者が主の判断も仰がず独断先行で口を出し、力で押し通る。傍から見ればこちらが悪人のようだ。やり場のない憤りにカグヤは顔を赤くしてプルプル震える事しかできなかった。
ザルグラード帝国について:アルケシア王国の北にある戦争国家です。南のアルケシアを落としたいのですが、北の地には魔族領域が隣接しており、国の北側に主戦力を常に置いて警戒しておかなくてはならず、膠着状態が続いています。人間以外の生物は亜人含めすべて家畜・野性生物・魔物とみなしており、捕まえて働かせようが殺そうが国益になれば全て合法です。何度も魔族に攻め込まれては押し返す歴史が続いており、人間以外は全て敵という認識です。過去に王族が和平と協力関係構築の交渉の為に森に入った所、エルフに容赦無く射殺された事件があり、反エルフの意識が特に根強いのです。
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