監視
対徳川の戦線を維持すべく山県昌景は武田本隊から離れ、三河の拠点である古宮に入城。そんなある日……。
(侍大将で山県昌景の娘を妻に持つ)三枝昌貞「父上。」
山県昌景「ん!?」
三枝昌貞「奥平貞勝様がお見えになりました。」
山県昌景「今日ここに来るとは言っていなかったが……。構わぬ。通してくれ。」
奥平貞勝「急に尋ねました事。お詫び申し上げます。」
山県昌景「いえ、構いません。ところで本日ここに来たのは?」
奥平貞勝「倅の事でありまして……。」
山県昌景「貞能殿の事でありますね?」
奥平貞勝「はい。」
山県昌景「貞能殿が如何為されましたか?」
奥平貞勝「申し上げにくいのでありますが、不満を口にしていまして……。」
山県昌景「どのような内容でありますか?」
奥平貞勝「此度、山県様はここ古宮に常住されると宣言されました。加えて我らに対し、これまでの先方の立場を解消。三河は山県様自らが御守りになられる事も伺いました。この事自体、三河の者皆喜んでいます。勿論、それに貞能も含まれます。」
山県昌景「その貞能殿が不満に覚えている事をお聞かせ願えますか?」
奥平貞勝「はい。貞能は……。」
山県昌景が古宮に定番する事を快くは思っていません。
奥平貞勝「ここ古宮から我が居城である亀山は目と鼻の先。有事の際、すぐに駆け付けていただく事が出来るのは大変有難い事なのであります。ただ……。」
あまりにも近過ぎる。
奥平貞勝「常に監視されているようで……。と申していました。」
三枝昌貞「……確かに頭の上がらない方が常に居るのは嫌ですね。」
山県昌景「娘の嫁ぎ先を誤ったかな?」
三枝昌貞「いえ、そう言う意味ではありません。」
奥平貞勝「ただ私としては、山県様の常駐を喜んでいます。何故かと言いますと……。」
奥平貞能は、かつて謀叛を起こした事がある。
奥平貞勝「倅が10代の頃、今川義元に反乱。3年近い月日。高野山に預けなければならない事態に陥った事がありました。あれから15年。30代に入り、落ち着いては居ますが……。」
性根はそうそう変わるものではありません。
奥平貞勝「御館様がお亡くなりになられ、徳川家康がどのような行動に打って出るかわかりません。ここ奥三河はつい先日まで徳川の影響下にあった土地。様々な甘言が飛び交う事が予想されます。その悪い虫を寄せ付けないためにも山県様。倅の事、お頼み申し上げます。」
山県昌景「貞能殿のこれまでの働き。この山県。感謝しています。引き続き武田の一員として活躍していただきたいと考えています。貞能殿には
『暫しの御辛抱を。と山県が言っていた。』
とお伝え願えますでしょうか?」
奥平貞勝「わかりました。」




