就任
武田勝頼陣所。
武田勝頼「これは皆様。如何為されましたか?」
馬場信春「突然お伺いしました事。申し訳御座いません。……ここからは高坂が言った方が良いかな?」
山県昌景「そうだな。」
高坂昌信「勝頼様。」
武田勝頼「改まって、どのような御用件でありますか?」
高坂昌信「先程、ここに居る馬場、山県に内藤。そして私高坂が集まり、今後について話し合っていました。勝手に集まった事をまずお詫び申し上げます。」
武田勝頼「いや、うちは家臣同士の集まりを禁じてはいません。それに皆様は亡き父からの重鎮の方々。今後について話し合うのは当然の事であります。」
高坂昌信「そこでまとまった考えを伝えるべく参上した次第であります。」
武田勝頼「何でありましょうか?」
高坂昌信「勝頼様。」
今この場で、武田家の正式な当主になっていただけませんか?
武田勝頼「いや、父が亡くなったのは今し方。各所に遺言を伝えるべく書面にしている所である。父は私に信勝への繋ぎを指示された。これを全うしようと決意を固めていた所である。」
高坂昌信「御館様の死を公表する3年後。信勝様に家督を譲られるのでありますか?」
武田勝頼「その考えである。」
高坂昌信「しかしその時、信勝様はまだ10歳。国を束ねる事は出来ませぬ。それでも勝頼様は……。」
武田勝頼「引き続き陣代として信勝を支えていく。この場で書面に残しても構わない。」
高坂昌信「これだけ聞いて安心しました。」
武田勝頼「どう言う事でありますか?」
高坂昌信「勝頼様が亡き御館様の遺志を守り、信勝様を盛り立てる覚悟がある事を確認出来たからであります。しかし現実問題。ここからの3年間。御館様は居ません。そこから信勝様が自立されるには、相当の年月が必要となります。それまでの間。武田を束ねる事が出来るのは、勝頼様をおいて他には居ません。勝頼様。正式な当主になってください。お願い申し上げます。」
武田勝頼「……喜兵衛は居るか?」
武藤喜兵衛「ここに居ます。」
武田勝頼「跡部を呼んで来てくれ。」
武藤喜兵衛「わかりました。」
内藤昌豊「何故跡部をここに……。」
武田勝頼「いや。関係各所に伝える役目をお願いしている故……。」
馬場信春「と言う事は?」
武田勝頼「皆の意見。有難く受け入れる事にします。」
山県昌景「ありがとうございます。」
武田勝頼「しかし私の正式な役目はあくまで陣代。信勝が成長した暁には当主を譲る。」
馬場信春「……はい。」
武田勝頼「ただ私は決定的に経験が不足しています。皆様の助けを借りなければなりません。気になる事ありましたら、これまで通り。きついお叱りの言葉。お願いします。」
内藤昌豊「高坂。言われているぞ?」
高坂昌信「(内藤を軽睨みしながら)お願い申し上げます!」