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5話 記憶の捻れ

「夕闇……彼が、異常に巻き込まれたクラスメイトか?」


短く整えられた茶色の髪に、緑のネクタイ。彼が3年生であることは一目瞭然だった。落ち着いた口調と態度からして、彼がオカルト研究会の会長なのだろう。黒江に向かって確認するように尋ねる。


「私の勘だったんですけどね~。でも、どうやらビンゴみたいですよ~」


黒江が柔らかく微笑みながらそう答えると、彼の瞳がわずかに鋭さを帯び、次に視線は暁葉へと向けられた。


「はじめまして。俺はオカルト研究会の会長、宮部亮みやべ りょうだ。さっそくだけど、何があったのか話してくれないか?」


「実は、変なことが起こったんだ」


暁葉は息を整えながら、ノートのことを語り始めた。書いた内容が現実になってしまったこと。偶然では片付けられない出来事が次々と起こったこと――。


真剣な声音に、教室の空気がわずかに変わる。周囲の会員たちも自然と静まり返り、彼の真剣な表情と言葉の熱量に飲まれるように耳を傾けていた。そして、話が進むにつれ、驚きや困惑の表情が広がっていった。


「信じられない! そんなの怖すぎる……まるでホラー漫画の世界みたい!」


黒い三つ編みの女子生徒が、悲鳴に似た声を上げ、腕を抱きしめながら怯えた表情を浮かべている。


「うーん……偶然ってことはないのかな? 幽霊の正体見たり枯尾花って言うし」


クマの面を被った女子生徒が、藁人形をいじりながら口を挟んだ。


「でも、実際に椿樹って子が教室に現れたんだ。まるで彼女が俺の恋人になっているみたいで……」


暁葉は不安げな表情で言った。その目には戸惑いが浮かんでいる。


すると――


「あれ? 椿樹ちゃんって、暁葉の中学時代からの彼女じゃないの?」


長い黒髪をさらりとなびかせながら、首を傾げた黒江が不思議そうに問いかけた。


その瞬間、部室の空気が凍りついた。


皆の視線が一斉に暁葉へと集中する。


「……は?」


暁葉はその言葉に驚愕した。


中学時代の彼女? そんな記憶、一切ない――


「ちょっと待って、どういうことだ?」


混乱した表情で黒江を見つめる。


「え? だって、いつも暁葉が椿樹ちゃんと一緒にいるの、クラスの皆が知ってるよ?」


黒江の言葉は、まるで"当たり前の事実"を述べるかのように自然だった。そして、部室にいる2年生の全員が、それに頷いていた。


――違う。そんなはずはない。


俺の記憶が正しいのか? それとも、皆の記憶が改変されているのか?


「……俺には、そんな記憶はないんだが」


暁葉の声はかすかに震えていた。不安が心の奥底で膨れ上がる。


「……なるほどな」


亮は真剣な表情で呟いた。その一言は、暁葉の混乱も、周囲のざわめきも鋭く切り裂くようだった。


「つまり、記憶が書き換わってる可能性があるってことか?」


その言葉に呼応するように、クマのお面をかぶった女子生徒が、お面を少しずらして青い瞳をのぞかせながら口を開いた。


「もしそのノートが呪物とかそういう物なら、書いた内容が現実に影響を及ぼしている可能性もあるよね。」


静かな声だったが、その言葉の意味はずしりと重かった。


部室内の空気が、じわじわと異質なものへと変わっていく。


「ただ暁葉くんの言ったことが本当なら、椿樹ちゃんの存在が皆の中で『当たり前』になっているのは、やっぱりどこか変だと思う。彼女が欲しいとは書いてないんでしょ?」


三つ編みの女子生徒が、おどおどしながらも核心を突く疑問を投げかけた。


たしかに、暁葉が書いた言葉は『巨乳美少女に抱きつかれる』であり、『彼女が欲しい』ではなかった。


だが――もしあのノートが、本当に虚構を現実にするものだとしたら。


――まさか……椿樹は、俺がノートで“作り出した”存在なのか?


その可能性が、現実味を帯びて心にのしかかる。暁葉の胸の奥で、不安と恐怖、そして抑えきれない好奇心が入り混じり、静かにざわめき始めていた。

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