表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

3話 世界と記憶のズレ

「暁葉くんが私を好きだって言ってくれたから、こうして一緒にいるのよ」


天城椿樹と名乗った少女の淡々とした言葉に、暁葉は思わず息を呑んだ。


「好きだって……そんなこと言った覚えはないんだけど……」


心臓が、不規則に跳ねる。


「でも、暁葉くんが私を好きって言ったのは、事実だよ?」


椿樹は小首をかしげながら、じっとこちらを見つめてくる。


「だから、私も暁葉くんのことが好きなんだけどな」


(どうして?)


暁葉の頭の中で、その疑問がぐるぐると渦巻く。


彼女の言葉は確信に満ちていた。まるで、すでに恋人同士であることが絶対の事実であるかのように――。


だが、暁葉にはまったく覚えがない。


周囲のクラスメイトたちはどうだろうか?


不安になり、視線を周囲へ巡らせる。


しかし、クラスメイトたちは特に騒ぐこともなく、二人のやり取りを見ても「またいつものことか」と言わんばかりの穏やかな表情を浮かべているだけだった。


(……おかしい。何かが決定的におかしい)


喉がカラカラに渇いていく。


「そうだ!クラス名簿!」


何かの悪い冗談なら、証拠を探せばいい。

名簿を見れば、この違和感の正体が分かるはずだ――!


暁葉は、焦燥感に突き動かされるまま教卓へと駆け寄った。


指先がかすかに震える。


迷いを振り払うように、勢いよく名簿をめくる。


そこに――


出席番号1番。


天城椿樹。


名前を目にした瞬間、背中に冷たい汗が流れた。


――ここにいる。最初から、当たり前のように。"存在していた"。


「まさか、本当に昨日のことが現実になってしまったのか?」


脳裏をよぎるのは、あのノートのこと。


暁葉は鞄から先ほど出したノートを見つめる。彼の手には昨日、何気なく手にした『実現ノート』があった。


「このノートが……本当に、すべての元凶なのか?」


開こうとしたその瞬間、


「起立、礼!」


担任の声が響き、HRが始まってしまった。


暁葉は渋々ノートを閉じ、意識を授業へと向けようとする。……だが。


どうしても、隣の「存在」が気になって仕方なかった。


椿樹は、時折こちらに視線を向けてくる。

そのたびに、どこか優しく、懐かしさすら感じさせる微笑みを浮かべながら。


(……ありえない)


理性では否定している。それなのに――

椿樹の声が、仕草が、そしてその"気配"が、どこか心の奥底に触れてくる。


まるで――

ずっと昔から知っていたかのように。


(……何なんだよ。本当に、どうなってるんだ……?)


暁葉の胸の内は、疑念と戸惑い、そして拭い去れぬ妙な感情で満ちていた。


「……おい、暁葉! 今日のお前、なんかおかしくね?」


後ろの席から大島が声をかけてきた。

本当に席が変わっているようだ。


いや――周囲から見れば、おかしいのは俺なのだろう。


「いや、今日提出の現国の課題忘れてて……ちょっとパニクってたかも」


とりあえず、ノートのことは伏せて、適当にごまかしておくことにした。……その時だった。


「ん? 現国の課題なんか無かったはずだぞ?」


――そんなはずはない。

俺は、確かに昨日、その課題を取りに学校へ戻ったのだから。


「大島くん……昨日、途中まで一緒に帰ったよな?」


そう。忘れ物に気づくまでは、俺と大島は一緒だったはずだ。


だが――


「いや、お前は天城と一緒に帰ってただろ? 教室にしばらく残ってよ」


その言葉に、暁葉の思考が凍りつく。


世界が、静かに、しかし確実に、ズレ始めていた――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ