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あなたの未練は何ですか?5
しばらく沈黙が続いた後、彼女が遠くを見ながらぽつりとつぶやいた。
「最後に挨拶したのって、誰だったかなあ。」
その声は寂しそうだ。
すぐに思い出せないことを悔いているような声だった。
「覚えていますか?」
そう声をかけると、彼女はふるふると首を横に振った。
「息子とはメッセージでのやり取りだけだったし、孫とはそんな仲じゃなかったし……。」
そう呟いていた彼女の声が、ふと止まる。
「……そういや、うちのじいさん。」
「ご主人ですか?」
「そう、朝出かけるとき、必ず”行ってくる”って言ってたの。どんな時でも。あたしが不機嫌でも、絶対に。」
その声には揺れがあった。
私は静かに彼女を見つめる。
「……もっと、一緒に居たかったのかも。あの人と。」
彼女の目が細くなり、まつ毛の奥に光が揺れていた。