待ち合わせ
朝、目が覚めてからいつものように洗面台で顔を洗って鏡を見る。しかし、そこに映っていたのは昨日の美少女のままだった。
「もしかしたら元に戻ってないかと思ったけど昨日のままだな。まあ仕方ないか。今日は七海と一緒に登校だから学校の準備をしないとな」
寝巻きに着ていた服を脱いで、制服に袖を通す。制服は、紺色のブレザーに白のブラウス、赤の蝶ネクタイにプリーツスカートの、男だった時にもよく見たことのある女子の制服だった。違うところと言えば、ブレザーの左胸の刺繍が真っ赤な薔薇ということぐらいだろうか。
「しかし、スカートを自分で履くのは変な気分だな・・それにズボンに比べてなんだか心許ない・・」
(まぁ、この世界には男性は居ないそうだし別に心配するようなことは何も無いか)
「ヤバっもうこんな時間!?女子の制服の着替えに思ったより手間取った!?」
昨日七海と約束した時間は8時で、今は7時45分だから、もう家を出ないと駅前の待ち合わせに間に合わない。
周りの人や環境が変わっただけとは言え、そもそも今は通ってる学校自体が違うので通学に不安がある。だから七海と一緒に登校する約束に遅れたら不味い。
慌ててカバンを持って玄関に向かう。ついでにリビングで朝食を食べていた姉さんにも声をかける。
「時間迫ってるからもう学校行ってくる!」
「華恋ちゃん!?朝ご飯は!?」
「今日は七海と待ち合わせしてて時間無いから抜く!!じゃあ行ってくる!」
「お昼はどうするの!?」
「購買にでも行く!それじゃ言って来まーす!」
「え、ええ・・言ってらっしゃい・・」
(姉さんが何か言いたそうにしていたけれど、生憎時間が押してるし帰った時にでも話を聞こう)
周辺環境が変わったと言えど、地理までは変わっていないので駅まで迷うこともなく着いた。
(にしても、来るまでになんだか凄く視線を感じたなー。まぁ自分でもかなり美形だとは思うけどそんなに気になるかな?)
不思議に思いつつも七海を探す。
「七海は何処だろう?駅前にいるらしいけど・・」
駅前で辺りを見渡していると、目当ての人物を見つけた。駅前にてスマホ片手に、一人でニヤニヤしている。
(何か良いことでもあったのかな?)
ずっとその光景を眺めるのも面白そうだったが、そのままにするのもアレなので声をかける。
その際には、意識を切り替えて言葉遣いを女性らしいものに変えるが、昨日の七海の話では強い言葉は全然普通に使うし、使われるとのことで俺が使っても全く問題はないらしい。
寧ろ以前の俺は毅然とした態度と冷徹な口調で誰一人として寄せ付けていなかったそうだ。
「七海、おはよう。昨日ぶりだね」
「あ、お、おはよう」
此方に気づいて返事をしてくれたが、なんだか挙動不審だ。気になったので聞いてみることにする。
「どうしたの?なんだか様子が変だよ?」
「・・いえ、一緒に通学するのは初めてで少し緊張しているだけだから大丈夫」
「そう?」
何故緊張してるのか分からないが、本人がそう言うのならきっと大丈夫だろう。