七海
「はーい」
そう言ってドアを開けると、そこには金髪縦ロールのいかにもお嬢様然とした感じの女の子がいた。
(えっ!?この人が七海さん?めっちゃ美人・・まぁそんなに気にすることでもないか。いやでも、こう・・もっと丸みを帯びてたらドストライクだったのに)
「ごめんね。わざわざ来てもらって」
そう言って話しかけるが、返事が無い。
七海さんを見ると何だかぼーっとしている。
「七海さん?大丈夫?」
「え、ええ・・大丈夫です。それではお邪魔させていただきますね」
大丈夫そうなので家に招き入れる。
リビングに通しても良かったけれど、聞きたいこともあったので取り敢えず自分の部屋まで案内する。
自室には来客用の小さい机があったのでそれを部屋の中央に置き、座る用にリビングから持ってきた赤と紺のクッションを置いている。
「そこに座ってゆっくりしててね」
そう告げてリビングでカップにお茶を注ぎ、自室まで運ぶ。
「はい、どうぞ」
そう言って机にカップを置くと、七海さんはどこか惚けた顔をしている。
「どうしたの?」と、聞くと我に返ったようでそのままカップのお茶を一口飲んでほっと一息吐くと口を開いた。
「いえ・・何でもありません。それより華恋さんは今日はどうしてお休みだったのですか?」
「今日は朝少し体調が悪かったから、休んだだけだよ」
予想していた質問なので自然な感じを装いながら答える。しかし、内心はビクビクしていた。
(大丈夫だよな?一応女性らしい振る舞いを意識してるけど以前の俺と違うって気づかれてないよな?)
ほっとしたのか、安心した表情になった後すぐに表情を切り替えて尋ねてきた。
「本当ですか?それにしては、今日の華恋さんはいつもと様子が違うのですけれど。NYAINの返信もなんだかおかしかったですし・・」
そう言って七海さんは、ジッと見つめてくる。
そんな七海さんからつい目を逸らしてしまい、取り繕うように質問する。
「そんなに変わったかな?逆に前の私ってどんな感じだったの?」
「まだ一ヶ月の付き合いなのでそんなに詳しくは知りませんが、以前の華恋さんはいつも鋭い眼差しで何人たりとも寄せ付けない雰囲気をしていましたね。言葉遣いも今よりも堅く他人行儀でしたよ」
「そ、そうなの!?じゃあ今の私って変かな?」
「いえ・・今の華恋さんも良いと思いますよ。ただ・・学校では控えた方が良いと思います」
「えっ?何で?」
「こほんっ!何でもです!その感じで学校に行かれるとすぐに・・いえ、何でもありません。兎に角、その姿と態度は私以外の人に見せてはいけません。いいですね?」
「えっはい・・」
何だか物凄い剣幕で言われたので、取り敢えず頷いておく。
(まぁここまで言ってくるんだし、学校では何か不味いことでもあるのかな?)
「まあ、元気みたいで良かったです。これお見舞いです。もし良かったらこの後にでも食べて下さい」
そう言って七海さんは、ゼリーとポカリーの入った袋を渡してきた。
「ありがとう。折角来てくれたんだし、もう少しゆっくりしていって。それと少し聞きたいことがあるんだけど良いかな?」
「ええ。私で答えられるものなら良いですけど、何か気になることでも?」
「うん、少しね」
(何から聞こう。アレにするか)
「七海さんは男性に会ったことある?」
そう尋ねると七海さんの瞳から光が消えた気がしたが、次の瞬間元に戻っていた。
(ん?気のせいか?)
「勿論ありませんが・・急にどうしたのです?・・もしかして、男性と会いたい・とか・・?」
「いや、違う違う!!ただ私男性に会ったことがないし、男性っているのかなって思っただけで・・」
すると、信じられないものを見たような顔をした七海さんが尋ねてきた。
「本気で言っているの?男性が居ると?」
「えっ!?居ないの!?」
その言葉にビックリしていると、七海さんは大きな溜息をついて話し始めた。
「はぁっ・・。本当に今日の華恋はおかしいですよ?こんなこと常識です。良いですか?今の世の中は全ての人類が女性で、男性は今から約100年前に謎の奇病で一斉に亡くなって絶滅したと文献には記されているの。けれど、それで子孫が作れなくなった人類は絶滅の危機に生存本能が働いたのか、種として進化して女性同士でも子供が作れるようになったの。ここまでは良い?」
「えっ!?じゃあもうホントに男性は居ないの!?それに女性同士で子供ってどうやって!?」
「ええ。だから本当に男性はもう居ないのよ。子供は・・・知りたい?知りたいなら今すぐ教えてあげるけど?」
そう言った七海さんの雰囲気は、いつの間にか真剣なものになっていて、視線もどこか獲物を見るようなものに変わり、不敵な笑みを浮かべていた。
(なんか・・・怖い・・)
「いや、やっぱり大丈夫かな・・」
そう言うと七海さんの雰囲気は、霧散して柔らかい雰囲気に戻った。
「そう・・。まぁそういうことよ。それで続きだけど、女性同士で付き合うのが普通になってからは、昔は基本的に受け身だった女性もアプローチしたり外見やプロポーションを磨いたりしないと、付き合ったり結婚したりなんてことは難しくなっていったの。だから時代が進むにつれて、女性は皆、積極的になっていったってわけ。分かった?」
「何となくは?」
「だ・か・ら!今日の華恋は心配なのよ!なんだかいつもに比べておっとりしているし、元々可愛いんだから気をつけなさい。以前の華恋なら心配無かったけど学校では出来るだけ私と一緒にいなさい。いい?」
「は、はい!」
机に乗り出し、顔を至近距離まで近づけながらそう言われて、つい返事をしてしまった。
(有無を言わさない態度だった・・。ビックリしたー。そんなにおっとりしてるか?でも男だった時も友達にどこかズレてるだとかよく言われてた気がする。そんなに心配しなくても大丈夫だと思うけどな)
「はぁ・・。本当に分かってるのかしら。今日の華恋を見ていると不安だわ・・。それで?結局聞きたいことってこれだけ?それならもう帰るわよ」
「えっと・・思ったより知らない事ばかりだったのでもうちょっと詳しく聞きたいなぁ・・と、駄目かな?」
そう言うと盛大に溜息をつかれ、その後も小言を挟まれながらも色々と教えて貰った。
「今日は本当にありがとう。感謝してるよ。ありがとう七海」
そう言うとなぜか七海は、頬を赤く染めて顔を逸らした。
(? どうしたんだ?)
「いえ・・大丈夫です。ただ今日のことで色々心配になったので明日は一緒に登校しましょう」
「分かった。じゃあまた明日ね。おやすみ〜」
「ええ、また明日・・」
(今日は沢山知らないことを知れて楽しかったな。なんだかんだ名前呼びするぐらいには仲良くなれたし、明日からが楽しみだ!!)