試合
「よし、それじゃ菊池と桜音のチームから試合をしてもらう。ルールは5分間の5対5の試合だ。一応成績には含めるつもりだし、気になる奴が居るならかっこ良いとこを見せられる絶好の機会だ。是非頑張ってくれ。それとゼッケンを渡すから各チームはこっちに来てくれ」
そう言って渡されたのは黄色いゼッケンだった。菊池さんの方を見ると赤いゼッケンを手にしている。
皆にゼッケンを渡し、着終わってからコートに並ぶ。お互い一列に並んで向かい合うような形だ。
「最初のボールはこちらの方が経験者ばかりだし譲ろう」
「そう?ありがとう」
ということで俺たちチームからになった。
ドリブルをしながら相手の様子を窺うが、流石に経験者なだけあって全然隙がない。
それにしっかりとマークしてくるのでパスが出せず、どうするか考えていると視界の隅に走る七海が見えたのでそちらへパスを出す。
パスを受け取った七海は、そのままドリブルでゴール下へと切り込んで行き、一人二人と抜き去ってレイアップを決める。
「七海!ナイス!」
戻ってきた七海についハイタッチする。
七海は何気ない顔で、
「いえ、これぐらいなら誰でも出来ますから。それより菊池さんに気を付けないとすぐに点を取り返されます」
と言われ、俺も改めて気合いを入れる。
「流石七海さんですね!私も頑張ります!」
「意外といけるかも?」
河井さんも指原さんも七海のプレーで俄然やる気が出てきたみたいだ。
しかし、流石にそこまで甘くはなく、相手チームのボールになった瞬間、丁寧なボール回しに落ち着いたシュートですぐに点を取り返され、こちらのチームがボールに触れることも出来なかった。
再びこちらの番になると、最初のゴールで七海を警戒したのか菊池さんが七海のマークに回ったお陰で余裕が出来たので、相手のマークを外して河合さんのパスを受け、ジャンプシュートで決める。
その後もこちらは俺と七海を中心とした二人で頑張って点を取るが、相手チームの落ち着いたプレーで悠々と追いつかれ、シーソーゲームの様相となった。
お互い9対9のこちらの番でとうとう菊池さんが動いた。菊池さんとマンツーマンをしていた七海が疲労から遅くなっていたドリブルをカットし、切り込んでできた。
しかしルート上に誰もおらず、七海もすぐに後を追うがドリブルが速すぎて追いつけていない。
万事急須かと思った時、ゴール前にいた杦本さんが目に入った。
(間に合わない・・頑張れ、杦本さん!)
今まで試合に関与しなかった杦本さんを前にして菊池さんは軽いフェイントを交えて抜き去ろうとする。
しかし、フェイントに動じずボールをカットする杦本さんと、驚愕の表情を浮かべる菊池さん。
一瞬杦本さんと目が合い、ボールが飛んできてそのまま流れるようにシュートを放つ。
それは綺麗な弧を描いてパシュッと心地の良い音を響かせ、ホイッスルが鳴った。
「試合終了!それぞれ一列に並んでお互い終わりの挨拶をしろ」
「「「「ありがとうございました」」」」
正面の菊池さんと握手を交わす。
結局試合は杦本さんのプレーにより1点差で勝利を収めることが出来た。
「そっちの子に美味しいとこ持ってかれちったな。完全に予想外だったよ」
「いや、私こそ楽しい試合だったよ。杦本さんが居たから勝てただけで菊池さんには手も足も出なかったよ。今度機会があったらまたやろう」
「ああ、私も楽しかったよ。楽しそうにプレーしてるお前を見て思わず見惚れたよ。ちなみに付き合ってる人はいるのか?」
褒められるのは嬉しいのだが、前世男の身からすれば複雑な気持ちだ。
「・・いないけど」
「そうか!今度連絡先交換しねえか?」
(まあ試合は楽しかったし、普通に遊ぶ分には特に問題ないかな)
「じゃあまた今度交換しよう」
「ああ、じゃあまた今度な」
菊池さんと別れて皆と合流する。
「勝ったよー!私達勝ったんだー!」
「華恋様のお役に立てませんでした・・」
「勝ちましたね。特に最後の杦本さんは素晴らしかったです」
「別に・・あのままだと負けるとこだったからご褒美の為に頑張っただけ・・」
(!?皆んながいるとこで言ったら・・)
「ご褒美ってなんですか?」
(河井さんにつっこまれちゃったじゃん・・)
「私が頑張ってこの試合勝ったら華恋がご褒美くれるって約束した・・」
(約束はしてない!!してないけど・・)
その瞬間、皆の強い視線が俺に集中する。
「えっと・・これは・・その・・」
(・・ど、どうしよう!?)
 




