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出んぜ
「―― なんだスザク、うらやましいのか?」
男に木の実を食べさせてもらっている女が、ぼりぼりと噛み砕きながら視線を流す。
けっ、と坊主は吐き捨てて、少し外れた床の上に酒ビンと共に倒れて高いびきの無精ひげを一瞥し、「テツ、出んぜ」と告げた。
「ほお、これはまた。 近頃は妖物もすっかり減って、この先はその助平絵師とおまえの少ない稼ぎでしのいでいかなければと覚悟していたのだが・・・良かったなあ?」
にたり、と女の赤い口が笑う。
「良かったのはてめえだろ。一番の金食いはてめえだからな」
「女は、金がかかって当たり前だろう?」
なあ、サモン?と白い手をのばし、脇に座った男の腕をなであげた。
「さよう。そのうえ、セリは参の宮の大臣でもあるのだから、大事にされなければ」
腕に絡みついたそれを優しく撫でる男を目にし、呆れた顔の坊主が絵師の男に早くしろ、と顎で示してみせた。
「ごゆっくり」
あっという間に二人の世界をつくりあげる男と女に挨拶して、コウセンをまたぎこしたセイテツは坊主を追った。