心配
「アシ?どうしたの?」
夕餉のとき、坊主と絵師は、それぞれの部屋で食事をとる。
それを用意した後で、シュンカも台所でアシとテーブルにつく。
アシは飯を食わないので、ただ、子どもが食べるのを見守るだけだ。
今日も、そのつもりで、ただシュンカを見つめていただけなのに、心配そうに顔をのぞきこまれた。
「・・いえ・・」
こう答えると、子どもは悲しそうな顔になる。
―― この顔は、この子には似合わない。
「・・シュンカ様、聞きたいことが、あるのです・・」
自分は、役神なのに、今、この一瞬さえも、その『思い出』というものを、消されたくないと、―― 正直に言っても、良いものなのか・・・・。
それから数分後には、なにやら興奮して泣きそうなシュンカが、アシのことをひきずるようにして、セイテツの部屋に押し入った。
セイテツはスザクと話し合い、アシには何もしないことになった。
「セイテツさま、ほんとうに、アシは、このままでしょうか?」
『このままで大丈夫か』という子どもの問いに、坊主が返答した。
「安心しろ。アシが妖物になっちまったら、おれたちが消してやる」
その返答に泣きそうな顔をした子どもが、「妖物になどなりません!」とさけんでアシに抱きつき、よけいな言葉を吐いた坊主は、珍しく絵師にはたかれた。
この子がきて、変わってゆくことがある。
中でも、一番変わったのは、自分かもしれないと、人間の暖かさを抱き返し、役神は微笑んだ。




