大昔の話
「近頃の人間はなにをするかわからない。領土も昔のように決まりにのっとり、拳と力だけで決めれば良いものを、なぜ、妖物のために具えてあった鋼の刃を用いるのだ?」
相手が死んでしまうではないか、と珍しく声を荒げたサモンは、急に声を落とした。
「・・わたしが人間だった頃は、どこの土地も、ほぼ同じ大きさだったはずだ」
「おまえが人間だった頃など、大昔の話ではないか」
壱の大臣の出した札に、持ち札を叩きつけたのは、今まで黙っていた女だった。
見る間にサモンの整った顔が崩れてゆく。
自分が人間だった大昔を思い出すのと、女に勝ち札を叩きつけられたこととが重なって、泣きそうなのだ。
「セリ・・勘弁してやれや」
見かねた四の大臣が女の出した札をそっと取り除く。
「甘いぞ、コウセン。泣いて勘弁されるのは、かわいげのある子どもだけと決まっておる」
ぱん、といい音を響かせて、また札を出した女が勝ち、遊びは終わった。
賭けていた木の実が女の元に集まり、サモンがぐすぐすと鼻をすすりあげながら、いつものように実の皮をむきはじめた。
そう、いつものことなのだ。
「―― セリちゃんてさあ、サモンのこと好きなのに、容赦ないよなあ」
セイテツが思っていることを口にすれば、皮むきの作業をする男が恥ずかしげに笑い、きれいにした木の実をその女のところに持ってゆく。
「容赦ないもなにも、サモンなど何を言ってもすぐに泣くではないか」
専用の、滑らかな布で作られた居場所で、横になってくつろぐ女は鼻で笑った。
「・・・・」いや、そうなんだけど、とは言えなかった。
セリのために木の実の皮をむく男が、かわりにうなずく。
これで、先に惚れたのはセリの方だという事実があるのだから、男女の情って奥が深いなあ、とセイテツが唸る。
すると、扉のほうから、あほくせえ、と低い声。