アシ
その後、疲れのせいか安堵のせいか、シュンカは熱をだし、自分の世話をしてくれる役神に会った。
それが、この《伍の宮》で、セイテツが一本の葦から仕立てる役神である男だった。
コハクとは似ているようで、似ていない、大人の男だ。それを目にして、子どもはためしに、聞きたいことがあった。
「―セイテツさま、・・もし、これを、セイテツさまに仕立てていただいたならば、あの、コハクになりましょうか?」
飴色の石を出して、子どもは問う。
父親はいつもこの石で『コハク』を仕立てていた。
「・・残念だけど、おれがやったら、違う『コハク』になってしまうよ」
絵師が、やさしくそれを押し返し、子どもはもう、それ以上聞くことはなかった。
アシは、セイテツに似た優しい雰囲気の役神だった。
「わたしはただの役神でございます。ですので、シュンカ様とお呼びいたします」
はじめに、呼び捨てでかまわないと言ったのに、アシはそれを受け入れなかった。
セイテツも、ああ見えて、このように頑固なのかもしれないと子どもはちょっとおかしかった。
そのセイテツは、自分が寝床へ入る前に、アシを仕立てる。なので、シュンカが目覚める頃には、アシはすでに仕事を始めている。
「おはよう!遅くてごめん!」
まるで、友のように語りかけてくるこの子どもを、役神のアシは不思議に思う。
自分はただの役神なのに、この子は気遣って謝って、おまけに、笑いかけてくる。
「シュンカ様、これはわたしの仕事ですので、ゆっくりと支度なさってください」
着物の帯もきちんと締め終えていない様子をさせば、顔を赤らめた子が、ありがとう、と外の井戸へむかう。
シュンカがここへ来て、すでにひと月経とうとしている。




