おれに教えるな
白く美しい石の前で、坊主が経を唄い、里人の見送りは無事に済んだ。
ふいに赤い石を出し、この場へ埋めたいと言う子へ、コウセンがそれを指先でつつくと石を半分にしてみせた。
「半分はおまえが持つ。半分は母上様に持っていただく。それでどうだ?」
口を結んでうなずく子の手へ半分。
もう半分を、白い石の表面をなで出来た切れ目へと手を突っ込み入れる。
再度表面をなで、ぴたりと、石の切れ目が閉じたとき、子どもの中でなにかが代わりに切れたようで、こらえてもこらえきれぬ涙があふれ、そこからはもう、ただの子どものように、わんわんと泣き叫びはじめる。
ごめんなさい。ごめんなさい。おれのせいで、ごめんなさい。
小さな手が、何度も何度も、大地をかきむしり、額が土に押し付けられた。
最初に動いたのは年寄りで、子どもの背を撫でると、そのまま懐に抱き寄せ、土にまみれた両の手を取って、それを皺の多い手で握ってやる。
子どもはそれでも謝って泣き、年寄りはただ黙って、身体を抱え、あやすように背を叩き続けた。
「・・・ケイテキとかいう、男・・」
ぼつりと、コウセンがその名をもらす。
「・・次に天宮に来たとしたら、おまえら、おれに教えるなよ。・・そのまま無事に、帰せる自信がねえからな」
瞬きもせずに、血走った目で、掟を破りそうだと吐き出したコウセンを、シャムショの若い男は驚いて見つめ、頭を下げた。
天災などの災害や、流行り病などの、人間ではどうすることもできない事柄に対しては、天宮は、いや、大臣たちは動く。
そこには東西南北の将軍たちとの、金子のやりとりも起こる。
だが、その将軍たちが各々おこなう政や戦などに、帝や大臣たちは口も手も挟まない。 それが、ここの掟で、天帝のやりかただ。
子どもがあまりにも泣きやまないので、年寄りに視線をおくられたコウセンが頭を掴み、強制的に眠らせる。
帰りもアラシが現れて、みなそろってすぐに天宮には帰れたが、コウセンは、子どもをずっと離さなかった。
抱きかかえて、参の宮へとむかい、セリとサモンが見守る中で、膝に子どもを置いたまま、ちびちびと酒を飲み続けたということだ。




