よう こらえた
アラシに里近くで降ろしてもらい、里に近づいてゆく間、子どもの顔が強張りだした。
「・・ああ」
あんどしたような声をもらしたのはセイテツだった。
シャムショの者たちが入っているとはわかっていたが、どうにも、あのときの様が目に焼きつき、子どもと比べることはできないが、それでも、緊張していたからだ。
里は、何もなくなっていた。
こげていた稲は全て刈り取られ、黒く炭となって残っていた家々の残骸はとりのぞかれ、もちろん転がる人間もいない。
燃やされた生木の一部が、黒く跡をのこしているだけで、全てが片付いていた。
「セイテツ。頼む」
まだ、立ち働いているシャムショの者がコウセンに気付き寄ってきたので、抱えた子どもを絵師に渡そうとしたら、その子どもが、もがくようにして下へ降りる。
「里のものにかわり、お礼申し上げます。みなさま。ありがとうございます」
コウセンのもとへ来たシャムショの年寄りと、若い男の二人へ、子どもは深々と頭をさげる。
「・・・おまえがシュンカか。よう、こらえたの」
年寄りの男は、子どもの下がった頭を撫でて、やさしく言った。
「里人は、みな、あちらの陽があたる山すそにいるから・・・。サモン様が、印となるように美しい石を据えてくださった。周りには天宮から持ってきた花の種をまいたから、暖かくなってきたら、芽を出すだろう」 若い方の男が、ゆっくりと説明する。
再度、深く頭を下げる子を、二人は困ったように見て、コウセンに目をおくる。
「なあシュンカ。この男たちはな、働くのが大好きだから、そんなに恐縮しなくていいぞ」
さすがに、そのいつものふざけた物言いにも、シャムショの男たちは言い返せずに、うなずくしかなかった。
どれ、サモンが取ってきた石でも見てやろう、と子どもを抱き上げる男の背を眺め、年寄りが少し笑う。
「コウセンさまの、酒量が、めっきり減りました」
絵師と坊主は顔を見合わせてから、その酒好きの男を追った。




